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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第三部 迷宮エア編 二層

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第120話「四色を巡り、届かぬ影」

マランの世界、連日投稿中です。

当面、毎日2話投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

板の上で五つの色が、静かに光っていた。


赤、黄、青、黒、そして白。


「今日で四色は、片づけたいでござるな」


ワングが懐から取り出した板を覗き込む。


「白は?」


ノリアが首を傾げた。


「今日は、後回し」


カインが板の縁をなぞる。


「四色回るだけでも、それなりにかかる。無理に詰め込むことはない」


「兄さんの時も、そうだった」


ネリスが静かに頷いた。


「焦って動いて、いいことなかった」


「白は、確かめる分には、慎重すぎるくらいでいい」


ミラが、静かに付け加える。


「三枚重ねた前例、まだないでござるからな」


ワングが腕を組んだ。


「今日は素材集めに割り切って、白は次に、腰を据えてやろう」


カインが皆の顔を、順に見た。


「行こう。近い順に、四つ」


ダダが盾を背負い直す。


「白は、次でいいか」


カインが板の印を指でなぞりながら確かめた。


「異存ないでござる」


ワングが頷く。


その一言で、六人は扉をくぐった。


---


最初の色は赤だった。


石の通路が、いつの間にか木の壁に変わっている。


慣れた変化に、誰も足を止めなかった。


やがて板の赤い印が、すぐ近くを示す。


通路の先、床一面に細い糸が張り巡らされていた。


「罠、いや……巣か」


ネリスが片膝をつき、糸を指先で弾いた。


震えた糸を伝って、天井の暗がりから何かが降りてくる。


紅い甲殻を持つ、大ぶりの蜘蛛だった。


脚の先から新たな糸を、勢いよく吐き出す。


「散れ!」


ワングの声に六人が左右へ跳んだ。


糸が石床に突き刺さり、瞬時に硬く固まる。


「あれに絡まると厄介そうでござるな」


「なら近づく前に落とす」


ノリアが詠唱もそこそこに業火弾を放つ。


火球が天井近くの巣を、まとめて焼き払った。


落ちてきた蜘蛛へ、ネリスの爪が間を置かず突き刺さる。


一匹、また一匹と脚を丸めて崩れていった。


最後の一匹が天井から、糸を垂らしながら落ちてくる。


ダダの盾が真下でそれを受け止めた。


「重いな。見かけによらず」


盾の表面を粘つく糸が伝う。


骸のそばに赤いコインと、艶のある糸の束が残された。


「繊維か。フォージタウンで使い道あるかもな」


カインが束を拾い、袋にしまう。


「それらしい人影はなかったでござるな」


ワングが周囲を見渡し、板を確かめた。


赤い印が、静かに色を濃くしている。


---


黄の点は、地面がやけに柔らかい一角だった。


踏み込んだ途端、足元が小さく崩れる。


「土の中、何かいる」


ダダが警戒の構えを取った瞬間、殻に覆われた甲虫が次々と地面から湧いた。


体の表面が鈍く金属質に光っている。


「硬そうな相手でござるな」


ワングの一撃が、甲羅の継ぎ目に正確に滑り込んだ。


ひび割れた殻の中から、黄色みを帯びた鉱石片が覗く。


「鉱を食ってるのか、こいつら」


「だから硬いわけだ」


ダダが盾で群れを押し返しながら、ウォーハンマーを振るう。


砕けた殻の破片が、四方に飛び散った。


最後の一匹を、ミラの一薙ぎが仕留めた。


「思ったより粘るね」


息を整えながら、ミラが剣を鞘へ収める。


「兄さんくらい大きいのは、いなかった」


ネリスが崩れた殻を爪先でつつく。


「今日は、それらしいのまだゼロ」


「気配だけでも、あればな」


ダダが、周囲の土を軽く踏み固めた。


土の中から黄色いコインと、小さな金属塊がいくつも出てきた。


「これもフォージタウン行きだな」


カインが拾い集めながら呟く。


---


青の点は、地下水路のような湿った通路だった。


水音に紛れて、複数の気配がじわりと近づいてくる。


「囲まれてる。声、真似された」


ネリスが耳を伏せた。


「助けて」という声が通路の奥から響いていたが、誰のものでもなかった。


姿を見せたのは、鱗に覆われた人の背丈ほどの魚型の群れだった。


一匹が前に出て注意を引き、残りが左右から回り込む。


「連携か。付き合ってられぬ」


ワングが囮に構わず、側面の一匹を斬った。


「こっちも」


ミラがいなす動きで一匹をかわし、返す剣で仕留める。


残った群れが統率を失い、ばらばらに崩れた。


止めは、カインとダダが同時につけた。


水面に青いコインと、剥がれ落ちた大きな鱗が浮かんでいた。


「鱗、光ってる。鑑定に出してみよう」


ノリアが水から拾い上げる。


「声を真似られると、毎回嫌な気分になるでござるな」


ワングが濡れた袖を軽く払った。


「慣れないな、これは」


カインも苦笑いを浮かべる。


「水場の記憶が多いって、鑑定士も言ってたし」


「だから、この辺りに出るのかもな」


ダダが、周囲の水路を見渡す。


「それらしい戦士の姿、まだ見えぬな」


ワングが板の印を確かめ、静かに息を吐いた。


---


黒の点は、灯りが届かずほとんど何も見えない空間だった。


「静かすぎるな」


ダダが低く呟いた。


「誰か、いる?」


聞き覚えのある声が、暗闇の奥から聞こえた。


ミラの声に、そっくりだった。


「私はここにいる」


本物のミラが、すぐ隣で答える。


偽の声が、ぴたりと止んだ。


「来るでござる」


ワングの声とともに、闇そのものが輪郭を持って襲いかかってきた。


輪郭のない、黒い塊のような姿だった。


斬っても、手応えがほとんどない。


「実体が薄いのか」


「魔法なら通る」


ノリアの静黙が、闇の動きを一瞬縫い止めた。


その隙に、カインの一撃が核らしき部分を捉える。


黒い塊が、砕けるように崩れ落ちた。


跡には黒いコインと、小さな結晶がいくつか転がっていた。


「声を真似するタイプ……気味悪いでござるな」


ワングが結晶を拾いながら顔をしかめた。


「ミラの声、完璧だった。びっくりした」


ノリアが、まだ落ち着かない様子で胸を押さえる。


「私も、少し驚きました」


ミラが、苦笑いを浮かべる。


板の黒い印が、静かに色を濃くしている。


赤・黄・青・黒、四つの印が、すべて同じ濃さになっていた。


白だけが、まだ薄いままだった。


---


「四つ、片づいた」


カインが板をしまいながら、皆を見渡す。


「白は、また今度でいいか」


「賛成。今日はもう、十分歩いた」


ノリアが肩を回す。


「それらしい姿は、結局なかったでござるな」


ワングが、静かに息を吐いた。


「うん。今日はゼロ」


ネリスが荷物の紐を結び直しながら答えた。


「収穫がなかったわけじゃない」


ミラが静かに首を振る。


「素材もコインも、確かに増えてる」


「それは、そうだけど」


ネリスが荷物の中の袋を軽く握った。


「四色回って何も出ないと、次の白に、気が急く」


ダダが、ぽつりと言う。


「だからこそ、白は今日じゃないでござる」


ワングが、ゆっくりと言葉を選んだ。


「急いた頭で見るものと、落ち着いて見るものは、違って見える」


「うん。三枚目の意味、ちゃんと考えてから行きたい」


カインが頷く。


「ガラントさんには?」


ミラが、ふと尋ねた。


「まだ、話さない。確かなこと、何もないから」


ネリスが、静かに答える。


「白を確かめてから、で十分でござる」


ワングも、それに同意した。


「兄さんの時みたいに、急に見つかることもあるかもしれない」


ネリスが、独り言のように付け足す。


「うん。焦らず続けよう」


カインが皆の顔を順に見た。


「白は、次だ」


「うん」


その一言に、六人は頷き合った。


---


クロスロードへ戻り、アプレイザルへ寄ると、鑑定士が机の上に品を並べていく。


「繊維、金属塊、鱗、結晶……今日は賑やかですね」


一つずつ指先で確かめながら、記録紙に書き込んでいく。


「繊維は強度が高いですよ。防具の裏地に良さそうです」


「金属塊はフォージタウン向けですね。純度も悪くない」


「鱗は……少し珍しい光り方をしていますが、詳しくはまた改めて」


「結晶は、初めて見る質のものです。少し、お預かりしても?」


「お願いします」


カインが頷く。


「白は、今日は行かなかったので」


「そうですか。焦らずどうぞ」


鑑定士が、記録紙の余白に何か書き足した。


「三枚目を重ねる時は、できれば六人揃った状態で。念のため」


「わかりました」


ミラが、静かに頷く。


「次に来られる時、お待ちしていますね」


夕暮れのクロスロードを、六人はゆっくりと歩いていった。


袋の中で、四色のコインが、かすかに触れ合う音を立てていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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