第120話「四色を巡り、届かぬ影」
マランの世界、連日投稿中です。
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板の上で五つの色が、静かに光っていた。
赤、黄、青、黒、そして白。
「今日で四色は、片づけたいでござるな」
ワングが懐から取り出した板を覗き込む。
「白は?」
ノリアが首を傾げた。
「今日は、後回し」
カインが板の縁をなぞる。
「四色回るだけでも、それなりにかかる。無理に詰め込むことはない」
「兄さんの時も、そうだった」
ネリスが静かに頷いた。
「焦って動いて、いいことなかった」
「白は、確かめる分には、慎重すぎるくらいでいい」
ミラが、静かに付け加える。
「三枚重ねた前例、まだないでござるからな」
ワングが腕を組んだ。
「今日は素材集めに割り切って、白は次に、腰を据えてやろう」
カインが皆の顔を、順に見た。
「行こう。近い順に、四つ」
ダダが盾を背負い直す。
「白は、次でいいか」
カインが板の印を指でなぞりながら確かめた。
「異存ないでござる」
ワングが頷く。
その一言で、六人は扉をくぐった。
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最初の色は赤だった。
石の通路が、いつの間にか木の壁に変わっている。
慣れた変化に、誰も足を止めなかった。
やがて板の赤い印が、すぐ近くを示す。
通路の先、床一面に細い糸が張り巡らされていた。
「罠、いや……巣か」
ネリスが片膝をつき、糸を指先で弾いた。
震えた糸を伝って、天井の暗がりから何かが降りてくる。
紅い甲殻を持つ、大ぶりの蜘蛛だった。
脚の先から新たな糸を、勢いよく吐き出す。
「散れ!」
ワングの声に六人が左右へ跳んだ。
糸が石床に突き刺さり、瞬時に硬く固まる。
「あれに絡まると厄介そうでござるな」
「なら近づく前に落とす」
ノリアが詠唱もそこそこに業火弾を放つ。
火球が天井近くの巣を、まとめて焼き払った。
落ちてきた蜘蛛へ、ネリスの爪が間を置かず突き刺さる。
一匹、また一匹と脚を丸めて崩れていった。
最後の一匹が天井から、糸を垂らしながら落ちてくる。
ダダの盾が真下でそれを受け止めた。
「重いな。見かけによらず」
盾の表面を粘つく糸が伝う。
骸のそばに赤いコインと、艶のある糸の束が残された。
「繊維か。フォージタウンで使い道あるかもな」
カインが束を拾い、袋にしまう。
「それらしい人影はなかったでござるな」
ワングが周囲を見渡し、板を確かめた。
赤い印が、静かに色を濃くしている。
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黄の点は、地面がやけに柔らかい一角だった。
踏み込んだ途端、足元が小さく崩れる。
「土の中、何かいる」
ダダが警戒の構えを取った瞬間、殻に覆われた甲虫が次々と地面から湧いた。
体の表面が鈍く金属質に光っている。
「硬そうな相手でござるな」
ワングの一撃が、甲羅の継ぎ目に正確に滑り込んだ。
ひび割れた殻の中から、黄色みを帯びた鉱石片が覗く。
「鉱を食ってるのか、こいつら」
「だから硬いわけだ」
ダダが盾で群れを押し返しながら、ウォーハンマーを振るう。
砕けた殻の破片が、四方に飛び散った。
最後の一匹を、ミラの一薙ぎが仕留めた。
「思ったより粘るね」
息を整えながら、ミラが剣を鞘へ収める。
「兄さんくらい大きいのは、いなかった」
ネリスが崩れた殻を爪先でつつく。
「今日は、それらしいのまだゼロ」
「気配だけでも、あればな」
ダダが、周囲の土を軽く踏み固めた。
土の中から黄色いコインと、小さな金属塊がいくつも出てきた。
「これもフォージタウン行きだな」
カインが拾い集めながら呟く。
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青の点は、地下水路のような湿った通路だった。
水音に紛れて、複数の気配がじわりと近づいてくる。
「囲まれてる。声、真似された」
ネリスが耳を伏せた。
「助けて」という声が通路の奥から響いていたが、誰のものでもなかった。
姿を見せたのは、鱗に覆われた人の背丈ほどの魚型の群れだった。
一匹が前に出て注意を引き、残りが左右から回り込む。
「連携か。付き合ってられぬ」
ワングが囮に構わず、側面の一匹を斬った。
「こっちも」
ミラがいなす動きで一匹をかわし、返す剣で仕留める。
残った群れが統率を失い、ばらばらに崩れた。
止めは、カインとダダが同時につけた。
水面に青いコインと、剥がれ落ちた大きな鱗が浮かんでいた。
「鱗、光ってる。鑑定に出してみよう」
ノリアが水から拾い上げる。
「声を真似られると、毎回嫌な気分になるでござるな」
ワングが濡れた袖を軽く払った。
「慣れないな、これは」
カインも苦笑いを浮かべる。
「水場の記憶が多いって、鑑定士も言ってたし」
「だから、この辺りに出るのかもな」
ダダが、周囲の水路を見渡す。
「それらしい戦士の姿、まだ見えぬな」
ワングが板の印を確かめ、静かに息を吐いた。
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黒の点は、灯りが届かずほとんど何も見えない空間だった。
「静かすぎるな」
ダダが低く呟いた。
「誰か、いる?」
聞き覚えのある声が、暗闇の奥から聞こえた。
ミラの声に、そっくりだった。
「私はここにいる」
本物のミラが、すぐ隣で答える。
偽の声が、ぴたりと止んだ。
「来るでござる」
ワングの声とともに、闇そのものが輪郭を持って襲いかかってきた。
輪郭のない、黒い塊のような姿だった。
斬っても、手応えがほとんどない。
「実体が薄いのか」
「魔法なら通る」
ノリアの静黙が、闇の動きを一瞬縫い止めた。
その隙に、カインの一撃が核らしき部分を捉える。
黒い塊が、砕けるように崩れ落ちた。
跡には黒いコインと、小さな結晶がいくつか転がっていた。
「声を真似するタイプ……気味悪いでござるな」
ワングが結晶を拾いながら顔をしかめた。
「ミラの声、完璧だった。びっくりした」
ノリアが、まだ落ち着かない様子で胸を押さえる。
「私も、少し驚きました」
ミラが、苦笑いを浮かべる。
板の黒い印が、静かに色を濃くしている。
赤・黄・青・黒、四つの印が、すべて同じ濃さになっていた。
白だけが、まだ薄いままだった。
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「四つ、片づいた」
カインが板をしまいながら、皆を見渡す。
「白は、また今度でいいか」
「賛成。今日はもう、十分歩いた」
ノリアが肩を回す。
「それらしい姿は、結局なかったでござるな」
ワングが、静かに息を吐いた。
「うん。今日はゼロ」
ネリスが荷物の紐を結び直しながら答えた。
「収穫がなかったわけじゃない」
ミラが静かに首を振る。
「素材もコインも、確かに増えてる」
「それは、そうだけど」
ネリスが荷物の中の袋を軽く握った。
「四色回って何も出ないと、次の白に、気が急く」
ダダが、ぽつりと言う。
「だからこそ、白は今日じゃないでござる」
ワングが、ゆっくりと言葉を選んだ。
「急いた頭で見るものと、落ち着いて見るものは、違って見える」
「うん。三枚目の意味、ちゃんと考えてから行きたい」
カインが頷く。
「ガラントさんには?」
ミラが、ふと尋ねた。
「まだ、話さない。確かなこと、何もないから」
ネリスが、静かに答える。
「白を確かめてから、で十分でござる」
ワングも、それに同意した。
「兄さんの時みたいに、急に見つかることもあるかもしれない」
ネリスが、独り言のように付け足す。
「うん。焦らず続けよう」
カインが皆の顔を順に見た。
「白は、次だ」
「うん」
その一言に、六人は頷き合った。
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クロスロードへ戻り、アプレイザルへ寄ると、鑑定士が机の上に品を並べていく。
「繊維、金属塊、鱗、結晶……今日は賑やかですね」
一つずつ指先で確かめながら、記録紙に書き込んでいく。
「繊維は強度が高いですよ。防具の裏地に良さそうです」
「金属塊はフォージタウン向けですね。純度も悪くない」
「鱗は……少し珍しい光り方をしていますが、詳しくはまた改めて」
「結晶は、初めて見る質のものです。少し、お預かりしても?」
「お願いします」
カインが頷く。
「白は、今日は行かなかったので」
「そうですか。焦らずどうぞ」
鑑定士が、記録紙の余白に何か書き足した。
「三枚目を重ねる時は、できれば六人揃った状態で。念のため」
「わかりました」
ミラが、静かに頷く。
「次に来られる時、お待ちしていますね」
夕暮れのクロスロードを、六人はゆっくりと歩いていった。
袋の中で、四色のコインが、かすかに触れ合う音を立てていた。
いかがでしょうか?
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