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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第三部 迷宮エア編 二層

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第119話「探る六人、白の記憶」

マランの世界、連日投稿中です。

当面、毎日2話投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

クロスロードの朝は、いつもより、静かだった。


受付前の広間に、六人分の荷物が、並んでいる。


隅の長椅子では、スルが、静かに座っていた。


召喚を解かれたまま、人型の姿で、ぼんやりと窓の外を見ている。


「行ってくる」


ネリスが、軽く声をかけた。


「わかった」


短い返事だけが、返ってくる。


まだ、言葉の数は、少ない。


それでも、確かに、応じてくれる声だった。


「兄さんは、今日は」


カインが、そっと聞く。


「連れて行かない」


ネリスが、荷物の紐を結びながら答えた。


「7人になっちゃうし」


軽くそう付け足す。


「当分、静養かな?」


軽い調子で、笑ってみせる。


「まだ、本調子じゃないみたいだから」


「それが、いい」


ミラが、静かに頷いた。


「無理はさせない方が」


「うん。あたしも、そう思う」


ネリスが、立ち上がりながら、荷物を背負い直す。


その表情に、暗さは、なかった。


「良い顔でござるな」


ワングが、ふと、そう言った。


「え?」


「昨日より、ずっと」


「そう、かな」


ネリスが、少し照れたように、目を逸らす。


「よし、行くでござるか」


ワングが、腰の柄に、軽く手を触れた。


新調した胴当てが、朝の光を、鈍く弾く。


「今日は、緑以外を、当たろう」


カインが、懐から板を取り出す。


淡く発光する図形の上で、赤・青・黄・白・黒の印が、静かに並んでいた。


「近い順に、白からか」


ノリアが、覗き込む。


「うん。じゃあ、行こう」


六人は、扉をくぐり、エアの奥へ足を踏み入れた。


---


石の通路が、木の通路へ変わる。


そのまた先で、金属の壁に変わった。


慣れたもので、誰も、驚かなくなっている。


歩みは、以前より、明らかに速い。


罠を見抜くネリスの勘も、隊列を組む呼吸も、迷いがなくなっていた。


「音、する」


先頭のネリスが、耳を澄ませた。


角の向こうから、複数の足音が、小刻みに近づいてくる。


姿を見せたのは、体高の低い、六本脚の甲殻の群れだった。


数は、五。


「囲まれる前に、散らせ」


ワングが、低く言う。


ダダが、盾を構え、群れの正面を塞いだ。


「こっちだ」


甲殻の群れが、ダダへ殺到する。


その隙を、ノリアの詠唱が突く。


「暗幕!」


視界を奪われた甲殻たちの動きが、目に見えて鈍った。


「今」


ネリスとワングが、左右から同時に踏み込む。


爪と刃が、鈍い甲羅の隙間へ、正確に吸い込まれた。


一体、また一体と、数を減らしていく。


最後の一体が、ミラの盾に弾かれ、体勢を崩したところへ、カインの剣が止めを刺した。


「これで、五体」


カインが、剣を鞘へ収める。


骸の跡に、青いコインが、数枚残されていた。


拾い集めながら、ノリアが板を確かめる。


青い印は、以前よりわずかに、色を濃くしていた。


---


次に出くわしたのは、通路の奥に潜んでいた、一体の大きな影だった。


岩のような装甲を、全身にまとっている。


「重そうな相手でござるな」


ワングが、間合いを測る。


「胴当て、試させてもらう」


ネリスが、正面から踏み込んだ。


装甲の一撃が、まっすぐ肩を狙う。


新しい肩当てが、その一撃を、軽い音で弾いた。


「効いてる」


短く笑い、体勢を崩さないまま、爪を返す。


「私も」


ミラが、隙を突いて回り込み、ロングソードで側面を薙いだ。


いなす動きに、装甲の巨体が、大きく傾ぐ。


「そこ!」


ダダのウォーハンマーが、傾いた隙へ、まっすぐ叩き込まれた。


鈍い音とともに、装甲に、深い亀裂が走る。


とどめは、カインの一撃だった。


巨体が、地響きを立てて崩れる。


「装備、悪くないでござるな」


ワングが、感心したように呟いた。


黄と黒のコインが、その場に転がっていた。


---


三か所目は、罠が仕掛けられた小部屋だった。


「床、怪しい」


ネリスが、片手を上げて、皆を止める。


しゃがみ込み、床石の継ぎ目を、指先でなぞった。


「二枚、外れる。踏むと、たぶん落ちる」


「わかった」


カインが、頷き、迂回するよう合図を出す。


足の運び一つで、危うさを避けていく。


以前なら、透視の呪文を使わなければ、気づけなかった仕掛けだった。


奥から、姿を隠していた小柄な影が、いくつも飛び出してきた。


「擬態か」


ワングが、舌打ちする。


「囮に、乗るな」


ダダが、真正面から進み出て、注意を一手に引き受けた。


その間に、ノリアの業火弾が、側面から影を薙ぐ。


「終わり!」


炎に炙られた影が、次々と、地に伏せていった。


戦闘は、あっけないほど、早く片付いた。


床には、白いコインが、一枚だけ残っていた。


---


「白、これで、二枚目か」


カインが、コインを摘み上げる。


懐の袋から、以前拾った白いコインを、取り出した。


同じ白でも、艶が、微妙に違う。


「重ねて、みるか」


「うん」


ネリスが、頷いた。


二枚を、そっと、重ね合わせる。


その瞬間、コインが強く発光し、六人の頭の中に、同時に何かが流れ込んできた。


---


暗い通路。


灯りの届かない、エアの奥。


若いガラントが、そこにいた。


今よりずっと鋭い目つきで、剣を構えている。


体つきは、今と、さほど変わらない。


だが、その顔には、まだ、店主の柔らかさがなかった。


その隣に、ひときわ長身の戦士が立っていた。


大きな得物を肩に担ぎ、他の誰よりも、頭一つ高い。


顔立ちまでは、映像がぼやけて、はっきりしない。


だが、纏う気配だけは、確かに伝わってきた。


迷いのない、まっすぐな立ち姿だった。


周囲には、他にも数人の影が見える。


一人は、大きな盾を構え、一人は、杖を握りしめていた。


長身の戦士が、何かを叫び、隊列を導いていく。


若いガラントが、その背を追って、駆け出した。


映像は、そこで、唐突に途切れた。


---


気づけば、六人とも、その場に立ち尽くしていた。


「今の、若い頃の、ガラントさん……」


ノリアが、震える声を漏らす。


「隣にいた人、大きかった、な」


ダダが、両手を広げて、大きさを確かめる仕草をした。


「あれが、ベーダーさん、でしょうか」


ミラが、コインを、そっと見つめる。


「確証は、ないでござる」


ワングが、静かに、しかしはっきりと言う。


「でも、可能性は、高い」


「あの立ち方、覚えてる」


ネリスが、コインを、両手で包み込んだ。


「兄さんの時、召喚された姿を初めて見た瞬間と、似た感じがした」


その声は、静かだったが、揺らいでいなかった。


「言葉にすると、うまく言えないけど」


「わかる、気がする」


カインが、頷く。


「見た目の証拠じゃなくて、纏ってるものが、似てる感じ」


「ガラントさんに、伝える?」


カインが、皆の顔を、順に見る。


「まだ、早いでござる」


ワングが、首を振った。


「確かなことが、何一つ、ない。中途半端な話で、また、あの人を、揺らすのは」


「そうだね」


ミラが、静かに、同意した。


「もう少し、集めてから」


「うん」


ネリスが、コインを、大事そうに袋へしまう。


「もう少し、集めよう。白と、他の色も」


日が、少しずつ、傾き始めていた。


区切りのいいところで、六人は、迷宮を後にすることにした。


その日の帰り、アプレイザルに寄ると、鑑定士が、袋の中身を、一枚ずつ確かめていく。


「青は、今日の分で、だいぶ揃いましたね。傾向としては、水場に多い記憶のようです」


「黄は、まだ数が少ないので、はっきりしたことは」


「黒についても、これまでと、大きな変化はなさそうです」


「白は……」


鑑定士が、コインを、指先で、そっと転がす。


「反応が、少し違いますが、詳しくは、また改めて」


「わかりました」


カインが、頷く。


記録紙に、それぞれの色の分だけ、短く書き込んでいく。


夕暮れのクロスロードを、六人は、いつもより、静かな足取りで歩いていった。


袋の中で、白いコインが、二枚並んで、かすかに音を立てていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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