第112話「教えられた繊維、重ねた数」
マランの世界、連日投稿中です。
当面、毎日2話投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
工房の炉は、まだ赤々と燃えていた。
ブロムが金属塊と繊維の束を並べ直し、六人を見渡す。
「さっきの続き、いくか」
「お願いします」
カインが頷いた。
ブロムは繊維の束の一つを摘み上げ、光にかざす。
淡い灰色の糸が、幾筋も絡み合っている。
「これも、ただの素材じゃねえ」
「見た目は、ただの糸みたいですが」
ノリアが興味深そうに覗き込む。
「引っ張ってみろ」
渡された束を、ダダが両手で引いた。
腕に力を込めても、糸はびくともしない。
「切れない……いや、伸びもしないぞ、これ」
「魔獣の糸だ。名は知らねえが、二層のやつは質がいい」
ブロムが腕を組む。
「金属だけじゃ、動きが鈍る。糸を織り込めば、軽さと粘りが出る」
「軽さと、粘り」
ワングが繰り返した。
「拙者には、ありがたい話でござる」
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「お前は、防具のどこを直したい」
ブロムが、ワングを見る。
「胴でござる。それと、籠手と、肱当ても」
ワングが自分の腕を軽く叩いた。
「今のは、深く踏み込むと、どうしても隙ができるでござる」
「踏み込みが速い分、腕の防御が追いつかねえってことか」
「その通りでござる」
「なら、胴はミスリルと糸を織り合わせて軽く仕上げる。籠手と肱当ては、アマダンタイトを芯にすりゃ熱にも強くなる」
ブロムが素材を選り分けながら言った。
「刀は、氷姫で十分か」
ブロムが、ワングへ目を向ける。
「はい。防具さえ、整えば」
ワングが頷いた。
「では、次は」
ブロムが、視線を移す。
「ネリスは」
「肩と、胴」
ネリスが短く答えた。
「爪は、まだ迷ってる」
「装備の方は、決まってねえのか」
「うん」
短いやり取りに、ブロムはそれ以上踏み込まなかった。
「肩当てと胴具なら、動きを殺さない作りが要る」
「軽い方がいい。跳ぶことが、多いから」
「ヒヒロカネは粘りがある分、薄く延ばしても強度が保てる。糸と組み合わせりゃ、望み通りになるだろうよ」
ブロムがヒヒロカネの塊を手に取り、軽く弾いた。
鈍い音が、静かに響く。
「私は、今の装備のままで」
ミラが微笑む。
「わかってるさ、お前は」
ブロムが笑い返した。
「俺は、また今度でいい」
ダダが肩をすくめる。
「順番待ちか」
「そういうこと」
「カインは、防具、いらないのか」
ブロムが、ふと聞く。
「僕は、召喚が主体になってきたので。今のままで、しばらく様子見です」
カインが、正直に答えた。
「なるほどな。それも、一つの判断だ」
ブロムが、軽く頷いた。
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「一度に、全部は無理だ。順番、決めるぞ」
ブロムが、真剣な顔で言う。
「胴から、先にやってくれ。他は追って」
ワングが即答した。
「私も、それでいい」
ネリスが頷く。
「胴から二人分。あとは、様子見ながら決める」
「大体、どれくらいかかりますか」
カインが聞いた。
「急いで、十日ってとこだ。丁寧にやるなら、もっとかかる」
「急がなくていい」
ワングが言う。
「じっくり、頼みたいでござる」
「その方が、俺も腕が鳴る」
ブロムが笑い、金属塊を作業台の奥へしまい込んだ。
工房を出るころには、日はすでに傾いていた。
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翌日、六人は再び、エアの門をくぐった。
「今日から、方針を変える」
カインが、板を取り出しながら言う。
「緑を追うのは、やめる?」
ミラが聞いた。
「追わない、とは言ってない。ただ、待つのは、やめる」
「数をこなす方に、切り替えるってことか」
ダダが確かめる。
「そう。動き回ってりゃ、そのうち緑にも当たるかもしれない」
「賛成」
ネリスが短く言った。
「逃げるものを追いかけ続けるより、健全でござるな」
ワングも頷く。
板を懐にしまい、六人は森の奥へ、迷いなく足を踏み入れた。
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最初に行き当たったのは、黒い光の点だった。
円の中心から、硬い羽を持つ鳥の群れが、一斉に飛び立つ。
「上、来るぞ!」
ダダが叫び、盾を頭上へ掲げた。
羽が、刃のように鋭く、風を切って降ってくる。
「ゴーレム、頼む」
カインの合図で、あの巨躯が現れた。
ゴーレムが両腕を広げ、降り注ぐ羽の雨を、正面から受け止める。
「今のうちに!」
ノリアが、杖を掲げた。
「業火弾!」
炎が、群れの中心を撃ち抜く。
残った数体を、ワングとネリスが、左右から刈り取っていった。
コインは黒。
鈍い光を放つ小さな金属の欠片が、羽の下に残っていた。
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次の点は、水音の近くにあった。
湿った土を割って、巨大な蛙が姿を現す。
喉の袋が、大きく膨らんだ。
「舌、来る!」
ミラが叫んだ瞬間、長い舌が、ダダの盾を叩いた。
「粘つくな、こいつ……!」
盾に絡んだ舌を、ワングの刀が切り払う。
「今」
ネリスが跳び、蛙の目を狙って爪を振るった。
悲鳴とともに、蛙が沈む。
コインは白。
繊維らしき素材が、獲物の下に混じっていた。
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三つ目は、木々の合間、苔をまとった岩の塊だった。
ゆっくりと、それが立ち上がる。
「あれも、初めて見るでござるな」
ワングが、刀を構え直す。
「硬そう」
ネリスが、目を細めた。
「頼む」
今度は、カインがスルを呼び出す。
「ワカッタ」
短く答え、スルが岩の隙間を縫うように動いた。
振り下ろされる腕を、紙一重でかわし続ける。
「隙、見えた」
ノリアが、杖を構えた。
「業炎獄!」
高く上がった炎が、岩の塊を包み込む。
苔が焼け落ち、下から現れた核を、ダダのハンマーが打ち砕いた。
コインは黄。
灰褐色の金属塊が、崩れた岩の中に残っていた。
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四つ目、青い光の点。
糸が、木々の間に、幾重にも張り巡らされていた。
中心に、人の背丈ほどの蜘蛛が潜む。
「厄介そうな巣でござるな」
ワングが、眉をひそめた。
「触れると、絡めとられる」
ネリスが、警告する。
蜘蛛が、糸を放った。
「ゴーレム、盾に!」
巨躯が前へ出て、糸をまとめて受け止める。
絡まれながらも、ゴーレムは怯まず、前進を続けた。
その隙に、ミラが横から回り込む。
「甘い」
ロングソードが、脚の一本を斬り落とした。
体勢を崩した蜘蛛へ、ダダが止めを刺す。
コインは青。
細く艶のある糸が、素材として残った。
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五つ目は、黄の光の点だった。
土の中から、太い節を持つ芋虫のようなものが、幾つも這い出してくる。
「地面から、湧いてくるでござるか」
ワングが、足元を見回した。
「数、多いな……!」
ダダが、盾を構え直す。
一体が、地を割って、真下から迫った。
「下!」
ネリスの声に、カインが咄嗟に跳び退く。
「浄光」
ミラの光が、地面を這う数体を、まとめて焼いた。
「私も」
ノリアが、杖を構える。
「業火弾!」
炎が、地面ごと焼き払う。
土の中に潜んでいた残りが、堪らず地上へ這い出してきた。
「そこを、狙う」
ネリスが、地を這うように踏み込み、次々と急所を捉えていく。
ワングも、地表に顔を出した端から、確実に刈り取った。
コインは黄。
先ほどとは、また違う色合いの金属片が、土の中から拾い上げられた。
「同じ黄でも、出るモノは違うんだな」
ダダが、金属片を、太陽にかざしながら呟く。
「まだ、法則、掴めてない」
ノリアが、そう答えながら、板に印をつけた。
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日が傾くころには、袋の中に色とりどりのコインと素材が、ぎっしり詰まっていた。
「今日だけで、何体、片付けたでござろうか」
ワングが、汗を拭いながら息をつく。
「数えてない」
ネリスが答えた。
「それだけ、動いたってことだ」
ダダが、笑いながら肩を回す。
「にしても」
カインが、自分の手のひらを見つめる。
「これだけ倒して、レベル、上がってないわけないよな」
「確かに」
ノリアが頷いた。
「万能士は、上がりにくいんじゃなかった?」
ミラが、首をかしげる。
「それでも、これだけ数をこなせば、話は別かもしれない」
カインが、板をしまいながら答えた。
「みんなも、気になるでござろう」
ワングが、皆を見回す。
「確かめに、行くか」
「賛成」
声が、揃った。
「兄さんの分も、上がってるといいけど」
ネリスが、ぽつりと呟く。
召喚された魔物にも成長があるのかどうか、まだ誰も確かめたことがなかった。
「それも、聞いてみよう」
カインが、頷いた。
今日のところは、これで十分だった。
六人は、袋の重みを背負ったまま、クロスロードへの帰路についた。
いかがでしょうか?
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