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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第三部 迷宮エア編 二層

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第112話「教えられた繊維、重ねた数」

マランの世界、連日投稿中です。

当面、毎日2話投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

工房の炉は、まだ赤々と燃えていた。


ブロムが金属塊と繊維の束を並べ直し、六人を見渡す。


「さっきの続き、いくか」


「お願いします」


カインが頷いた。


ブロムは繊維の束の一つを摘み上げ、光にかざす。


淡い灰色の糸が、幾筋も絡み合っている。


「これも、ただの素材じゃねえ」


「見た目は、ただの糸みたいですが」


ノリアが興味深そうに覗き込む。


「引っ張ってみろ」


渡された束を、ダダが両手で引いた。


腕に力を込めても、糸はびくともしない。


「切れない……いや、伸びもしないぞ、これ」


「魔獣の糸だ。名は知らねえが、二層のやつは質がいい」


ブロムが腕を組む。


「金属だけじゃ、動きが鈍る。糸を織り込めば、軽さと粘りが出る」


「軽さと、粘り」


ワングが繰り返した。


「拙者には、ありがたい話でござる」


---


「お前は、防具のどこを直したい」


ブロムが、ワングを見る。


「胴でござる。それと、籠手と、肱当ても」


ワングが自分の腕を軽く叩いた。


「今のは、深く踏み込むと、どうしても隙ができるでござる」


「踏み込みが速い分、腕の防御が追いつかねえってことか」


「その通りでござる」


「なら、胴はミスリルと糸を織り合わせて軽く仕上げる。籠手と肱当ては、アマダンタイトを芯にすりゃ熱にも強くなる」


ブロムが素材を選り分けながら言った。


「刀は、氷姫で十分か」


ブロムが、ワングへ目を向ける。


「はい。防具さえ、整えば」


ワングが頷いた。


「では、次は」


ブロムが、視線を移す。


「ネリスは」


「肩と、胴」


ネリスが短く答えた。


「爪は、まだ迷ってる」


「装備の方は、決まってねえのか」


「うん」


短いやり取りに、ブロムはそれ以上踏み込まなかった。


「肩当てと胴具なら、動きを殺さない作りが要る」


「軽い方がいい。跳ぶことが、多いから」


「ヒヒロカネは粘りがある分、薄く延ばしても強度が保てる。糸と組み合わせりゃ、望み通りになるだろうよ」


ブロムがヒヒロカネの塊を手に取り、軽く弾いた。


鈍い音が、静かに響く。


「私は、今の装備のままで」


ミラが微笑む。


「わかってるさ、お前は」


ブロムが笑い返した。


「俺は、また今度でいい」


ダダが肩をすくめる。


「順番待ちか」


「そういうこと」


「カインは、防具、いらないのか」


ブロムが、ふと聞く。


「僕は、召喚が主体になってきたので。今のままで、しばらく様子見です」


カインが、正直に答えた。


「なるほどな。それも、一つの判断だ」


ブロムが、軽く頷いた。


---


「一度に、全部は無理だ。順番、決めるぞ」


ブロムが、真剣な顔で言う。


「胴から、先にやってくれ。他は追って」


ワングが即答した。


「私も、それでいい」


ネリスが頷く。


「胴から二人分。あとは、様子見ながら決める」


「大体、どれくらいかかりますか」


カインが聞いた。


「急いで、十日ってとこだ。丁寧にやるなら、もっとかかる」


「急がなくていい」


ワングが言う。


「じっくり、頼みたいでござる」


「その方が、俺も腕が鳴る」


ブロムが笑い、金属塊を作業台の奥へしまい込んだ。


工房を出るころには、日はすでに傾いていた。


---


翌日、六人は再び、エアの門をくぐった。


「今日から、方針を変える」


カインが、板を取り出しながら言う。


「緑を追うのは、やめる?」


ミラが聞いた。


「追わない、とは言ってない。ただ、待つのは、やめる」


「数をこなす方に、切り替えるってことか」


ダダが確かめる。


「そう。動き回ってりゃ、そのうち緑にも当たるかもしれない」


「賛成」


ネリスが短く言った。


「逃げるものを追いかけ続けるより、健全でござるな」


ワングも頷く。


板を懐にしまい、六人は森の奥へ、迷いなく足を踏み入れた。


---


最初に行き当たったのは、黒い光の点だった。


円の中心から、硬い羽を持つ鳥の群れが、一斉に飛び立つ。


「上、来るぞ!」


ダダが叫び、盾を頭上へ掲げた。


羽が、刃のように鋭く、風を切って降ってくる。


「ゴーレム、頼む」


カインの合図で、あの巨躯が現れた。


ゴーレムが両腕を広げ、降り注ぐ羽の雨を、正面から受け止める。


「今のうちに!」


ノリアが、杖を掲げた。


「業火弾!」


炎が、群れの中心を撃ち抜く。


残った数体を、ワングとネリスが、左右から刈り取っていった。


コインは黒。


鈍い光を放つ小さな金属の欠片が、羽の下に残っていた。


---


次の点は、水音の近くにあった。


湿った土を割って、巨大な蛙が姿を現す。


喉の袋が、大きく膨らんだ。


「舌、来る!」


ミラが叫んだ瞬間、長い舌が、ダダの盾を叩いた。


「粘つくな、こいつ……!」


盾に絡んだ舌を、ワングの刀が切り払う。


「今」


ネリスが跳び、蛙の目を狙って爪を振るった。


悲鳴とともに、蛙が沈む。


コインは白。


繊維らしき素材が、獲物の下に混じっていた。


---


三つ目は、木々の合間、苔をまとった岩の塊だった。


ゆっくりと、それが立ち上がる。


「あれも、初めて見るでござるな」


ワングが、刀を構え直す。


「硬そう」


ネリスが、目を細めた。


「頼む」


今度は、カインがスルを呼び出す。


「ワカッタ」


短く答え、スルが岩の隙間を縫うように動いた。


振り下ろされる腕を、紙一重でかわし続ける。


「隙、見えた」


ノリアが、杖を構えた。


「業炎獄!」


高く上がった炎が、岩の塊を包み込む。


苔が焼け落ち、下から現れた核を、ダダのハンマーが打ち砕いた。


コインは黄。


灰褐色の金属塊が、崩れた岩の中に残っていた。


---


四つ目、青い光の点。


糸が、木々の間に、幾重にも張り巡らされていた。


中心に、人の背丈ほどの蜘蛛が潜む。


「厄介そうな巣でござるな」


ワングが、眉をひそめた。


「触れると、絡めとられる」


ネリスが、警告する。


蜘蛛が、糸を放った。


「ゴーレム、盾に!」


巨躯が前へ出て、糸をまとめて受け止める。


絡まれながらも、ゴーレムは怯まず、前進を続けた。


その隙に、ミラが横から回り込む。


「甘い」


ロングソードが、脚の一本を斬り落とした。


体勢を崩した蜘蛛へ、ダダが止めを刺す。


コインは青。


細く艶のある糸が、素材として残った。


---


五つ目は、黄の光の点だった。


土の中から、太い節を持つ芋虫のようなものが、幾つも這い出してくる。


「地面から、湧いてくるでござるか」


ワングが、足元を見回した。


「数、多いな……!」


ダダが、盾を構え直す。


一体が、地を割って、真下から迫った。


「下!」


ネリスの声に、カインが咄嗟に跳び退く。


「浄光」


ミラの光が、地面を這う数体を、まとめて焼いた。


「私も」


ノリアが、杖を構える。


「業火弾!」


炎が、地面ごと焼き払う。


土の中に潜んでいた残りが、堪らず地上へ這い出してきた。


「そこを、狙う」


ネリスが、地を這うように踏み込み、次々と急所を捉えていく。


ワングも、地表に顔を出した端から、確実に刈り取った。


コインは黄。


先ほどとは、また違う色合いの金属片が、土の中から拾い上げられた。


「同じ黄でも、出るモノは違うんだな」


ダダが、金属片を、太陽にかざしながら呟く。


「まだ、法則、掴めてない」


ノリアが、そう答えながら、板に印をつけた。


---


日が傾くころには、袋の中に色とりどりのコインと素材が、ぎっしり詰まっていた。


「今日だけで、何体、片付けたでござろうか」


ワングが、汗を拭いながら息をつく。


「数えてない」


ネリスが答えた。


「それだけ、動いたってことだ」


ダダが、笑いながら肩を回す。


「にしても」


カインが、自分の手のひらを見つめる。


「これだけ倒して、レベル、上がってないわけないよな」


「確かに」


ノリアが頷いた。


「万能士は、上がりにくいんじゃなかった?」


ミラが、首をかしげる。


「それでも、これだけ数をこなせば、話は別かもしれない」


カインが、板をしまいながら答えた。


「みんなも、気になるでござろう」


ワングが、皆を見回す。


「確かめに、行くか」


「賛成」


声が、揃った。


「兄さんの分も、上がってるといいけど」


ネリスが、ぽつりと呟く。


召喚された魔物にも成長があるのかどうか、まだ誰も確かめたことがなかった。


「それも、聞いてみよう」


カインが、頷いた。


今日のところは、これで十分だった。


六人は、袋の重みを背負ったまま、クロスロードへの帰路についた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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