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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第三部 迷宮エア編 二層

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第110話「遠ざかる緑、光る欠片」

マランの世界、連日投稿中です。

当面、毎日2話投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

翌朝、六人は、板を頼りに、緑の光を目指した。


朝露に濡れた葉が、足元で、しっとりと、光っている。


「昨日、確かめた場所より、奥、みたいだね」


ノリアが、板を覗き込みながら、言う。


「行けば、わかる」


ネリスが、迷わず、先を歩き出した。


昨日までの道のりと違い、今日の獣道は、より深く、森の中心へと続いているようだった。


木々の間から差し込む光も、次第に、薄れていく。


「静かだね、この辺り」


ミラが、周囲を、見回しながら、呟いた。


「静か、なだけとは、限らない」


ネリスが、鼻を、かすかに、動かす。


その言葉通り、ほどなくして、木陰から複数の影が動いた。


---


森は、進むほどに、木々が、密になっていく。


視界が、悪くなるにつれ、獣道も、細く頼りなくなっていった。


「また、囲まれてるでござるな」


ワングが、周囲の気配に、目を細める。


木陰から、複数の狼のような影が、現れた。


灰色の毛並みに、赤く光る目。


群れは、六体。


「数、多いぞ」


ダダが、盾を構え、前へ出る。


「散らばらせるな、固まって、対処する」


カインが、剣を抜きながら、指示を飛ばす。


一体が、横合いから、ミラへ、飛びかかった。


「甘い」


ミラが、丸盾で、正面から、受け止める。


そのまま、体重を乗せ、押し返した。


「私も、行く」


ネリスが、爪で、別の一体の喉元を裂く。


残りの群れが、一斉に、六人へ殺到した。


---


「業火獄!」


ノリアの炎が、群れの半数を、一息に、飲み込む。


「押し切るぞ!」


ダダが、ウォーハンマーを、大きく振り抜いた。


一撃で、狼の一体が、吹き飛ぶ。


残った一体が、牙を剥き、ダダの脇をすり抜けようとした。


「行かせぬでござる」


ワングの刀が、静かに、その動きを、断ち切る。


もう一体は、ネリスが、地を這うように、間合いを詰め喉元を正確に貫いた。


「片付いた、な」


カインが、剣を、鞘に収めながら、周囲を見渡した。


狼たちが消えた後には、青いコインと、白いコインが、まばらに散らばっていた。


緑のコインは、一枚も、なかった。


「ここも、外れ、か」


ダダが、コインを、拾い集めながらため息をつく。


---


さらに進むと、また別の光が、見えてきた。


だが、それも、黄色い光だった。


「おかしい、な」


カインが、板を、取り出す。


出発前、緑の光は、確かにこの方角にあった。


なのに、近づくたび、色が、違うポイントばかりに行き当たる。


「板、見せて」


ネリスが、覗き込み、眉を寄せた。


緑の光の粒が、板の上で、わずかに位置を変えていた。


「動いてる……?」


「気のせいでは、なさそうでござるな」


ワングも、板を、じっと見つめる。


「一層のとき、こんなこと、なかったよね」


ミラが、不安げに、呟いた。


「二層特有の、何か、なのかもしれない」


ノリアが、静かに、言葉を、継いだ。


---


板の示す方角へ、さらに、進む。


足元の地面が、いつしか、湿り気を帯びていた。


水音が、遠くから、かすかに、聞こえてくる。


木々の合間、今度は、白い光が地面を淡く照らしていた。


近づくと、円の中心の土が、ぼこりと盛り上がる。


土の中から現れたのは、白い甲殻に覆われた大蟹だった。


両の鋏が、六人の背丈ほど、太い。


「デカいでござるな……!」


ワングが、思わず、後ずさる。


蟹が、鋏を大きく振りかぶった。


「散れ!」


カインの声に、六人が左右へ跳ぶ。


鋏が、地面を、深くえぐった。


「鋏、避けたら脚を狙うぞ!」


ダダが、盾で、突進を正面から受け止める。


衝撃に、ダダの足が、じりっと後ろへ滑った。


「重い……!」


「ノリア、外から!」


「業火弾!」


ノリアの炎が、甲殻の継ぎ目を、正確に撃ち抜く。


蟹が、苛立ったように、鋏を振り回した。


「今のうちに、脚を!」


ネリスが、爪で、関節の隙間を切り裂いていく。


ワングも、続いて反対側の脚へ、刀を叩き込んだ。


体勢を崩した蟹が、大きく傾く。


「畳みかける!」


ミラが、丸盾を構えたまま、懐へ、踏み込んだ。


ロングソードの一閃が、甲殻の薄い腹側を深く貫いた。


蟹が、大きく痙攣し、やがて、光の粒となって消えていく。


---


戦いの後、地面には、白いコインが、いくつか散らばっていた。


緑は、やはり、一枚もなかった。


「ここも、外れか」


ダダが、肩で、息をつきながら呟く。


「板、また、確かめよう」


カインが、板を取り出す。


緑の光は、先ほどより、さらに、離れた場所へ移っていた。


「本当に、動いてるでござるな」


ワングが、額の汗を拭う。


だが、近づいたと思うたびに、また、別の色のポイントへ行き当たる。


黒い甲殻を持つ、大型の甲虫は、硬い殻の隙間をワングとネリスが根気強く突き崩した。


白い霧をまとう、複数の小鬼は、ミラの盾と、ダダのハンマーで、一体ずつ着実に数を減らしていった。


そのたびに、六人は、足を止め戦い、コインを拾い、また歩き出した。


汗が額を伝い、息が少しずつ上がっていく。


「これで、五つ目でござるな」


ワングが、袋の中身を、確かめながら言う。


コインは、青、黄、白、黒と、色とりどりに増えていた。


だが、肝心の、緑だけがいつまでも手に入らない。


「まるで、逃げてるみたい」


ミラが、疲れた声で呟いた。


「逃げてる、か」


ダダが、繰り返す。


「言われてみれば、そんな気もしてくる」


「気のせいだと、思いたいけどね」


ノリアが、板をもう一度確かめながら、小さく息をついた。


緑の光の粒は、依然としてじりじりと、少しずつ位置を変え続けている。


---


金属塊の袋も、次第に重くなっていた。


戦いの合間に見つけた宝箱から、色ごとに違う金属が、着実に溜まっている。


「一度、休もう」


カインが、木の根元を指し、腰を下ろす。


袋を開け、これまで拾った金属を、地面に並べていった。


赤みを帯びたもの、鈍く黒いもの、そして、白く輝くものが、幾つも転がっている。


その中の一つを、ダダが手に取った。


淡い銀色に、うっすらと、青みがかった光沢。


軽く、指で弾くと、澄んだ音が響いた。


「これ……」


ダダが、まじまじと、その塊を見つめる。


「どうした」


カインが、覗き込む。


「これ、もしかして」


ダダの声が、わずかに、上ずった。


「ミスリル、じゃないか?」


その一言に、全員の視線が、ダダの手元へ集まった。


「ミスリル……」


ワングが、息を呑む。


「拙者、実物は、初めて見るでござる」


「私も」


ネリスが、身を乗り出し、じっと目を凝らす。


「本当、なら」


ノリアも、身を乗り出した。


「魔力の通りが、桁違いに、いいって聞いたことがある」


「鍛冶に、見てもらわないと、確かなことはわからないけど」


ダダが、塊を、太陽にかざす。


淡い光が、金属の表面を、静かに滑っていった。


「もし本物なら、装備、新調できるかもしれないでござるな」


ワングが、少し、声を弾ませる。


「その前に、緑を、なんとかしないと」


ミラが、苦笑しながら、割って入った。


「緑は、逃げるくせに、こんなもの拾わせてくれるんだな」


ダダが、苦笑しながら、塊を袋へしまう。


「油断は、できない」


ネリスが、周囲へ、視線を巡らせながら言った。


「森が、まだ、何か隠してる気がする」


その言葉に、誰も異を唱えなかった。


「今日は、ここまでにしよう」


カインが、日の傾きを見上げながら言う。


空は、すでに、橙色に染まり始めていた。


「明日も、緑を追う」


ネリスが、静かに、頷いた。


「付き合うぞ、もちろん」


ダダが、腰を上げながら、答える。


「拙者も」


ワングも、続いて、立ち上がった。


袋の中で、色とりどりのコインと、金属塊がかすかに音を立てる。


森の奥、緑の光は、今日も、少しだけ遠くで瞬いていた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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