第110話「遠ざかる緑、光る欠片」
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翌朝、六人は、板を頼りに、緑の光を目指した。
朝露に濡れた葉が、足元で、しっとりと、光っている。
「昨日、確かめた場所より、奥、みたいだね」
ノリアが、板を覗き込みながら、言う。
「行けば、わかる」
ネリスが、迷わず、先を歩き出した。
昨日までの道のりと違い、今日の獣道は、より深く、森の中心へと続いているようだった。
木々の間から差し込む光も、次第に、薄れていく。
「静かだね、この辺り」
ミラが、周囲を、見回しながら、呟いた。
「静か、なだけとは、限らない」
ネリスが、鼻を、かすかに、動かす。
その言葉通り、ほどなくして、木陰から複数の影が動いた。
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森は、進むほどに、木々が、密になっていく。
視界が、悪くなるにつれ、獣道も、細く頼りなくなっていった。
「また、囲まれてるでござるな」
ワングが、周囲の気配に、目を細める。
木陰から、複数の狼のような影が、現れた。
灰色の毛並みに、赤く光る目。
群れは、六体。
「数、多いぞ」
ダダが、盾を構え、前へ出る。
「散らばらせるな、固まって、対処する」
カインが、剣を抜きながら、指示を飛ばす。
一体が、横合いから、ミラへ、飛びかかった。
「甘い」
ミラが、丸盾で、正面から、受け止める。
そのまま、体重を乗せ、押し返した。
「私も、行く」
ネリスが、爪で、別の一体の喉元を裂く。
残りの群れが、一斉に、六人へ殺到した。
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「業火獄!」
ノリアの炎が、群れの半数を、一息に、飲み込む。
「押し切るぞ!」
ダダが、ウォーハンマーを、大きく振り抜いた。
一撃で、狼の一体が、吹き飛ぶ。
残った一体が、牙を剥き、ダダの脇をすり抜けようとした。
「行かせぬでござる」
ワングの刀が、静かに、その動きを、断ち切る。
もう一体は、ネリスが、地を這うように、間合いを詰め喉元を正確に貫いた。
「片付いた、な」
カインが、剣を、鞘に収めながら、周囲を見渡した。
狼たちが消えた後には、青いコインと、白いコインが、まばらに散らばっていた。
緑のコインは、一枚も、なかった。
「ここも、外れ、か」
ダダが、コインを、拾い集めながらため息をつく。
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さらに進むと、また別の光が、見えてきた。
だが、それも、黄色い光だった。
「おかしい、な」
カインが、板を、取り出す。
出発前、緑の光は、確かにこの方角にあった。
なのに、近づくたび、色が、違うポイントばかりに行き当たる。
「板、見せて」
ネリスが、覗き込み、眉を寄せた。
緑の光の粒が、板の上で、わずかに位置を変えていた。
「動いてる……?」
「気のせいでは、なさそうでござるな」
ワングも、板を、じっと見つめる。
「一層のとき、こんなこと、なかったよね」
ミラが、不安げに、呟いた。
「二層特有の、何か、なのかもしれない」
ノリアが、静かに、言葉を、継いだ。
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板の示す方角へ、さらに、進む。
足元の地面が、いつしか、湿り気を帯びていた。
水音が、遠くから、かすかに、聞こえてくる。
木々の合間、今度は、白い光が地面を淡く照らしていた。
近づくと、円の中心の土が、ぼこりと盛り上がる。
土の中から現れたのは、白い甲殻に覆われた大蟹だった。
両の鋏が、六人の背丈ほど、太い。
「デカいでござるな……!」
ワングが、思わず、後ずさる。
蟹が、鋏を大きく振りかぶった。
「散れ!」
カインの声に、六人が左右へ跳ぶ。
鋏が、地面を、深くえぐった。
「鋏、避けたら脚を狙うぞ!」
ダダが、盾で、突進を正面から受け止める。
衝撃に、ダダの足が、じりっと後ろへ滑った。
「重い……!」
「ノリア、外から!」
「業火弾!」
ノリアの炎が、甲殻の継ぎ目を、正確に撃ち抜く。
蟹が、苛立ったように、鋏を振り回した。
「今のうちに、脚を!」
ネリスが、爪で、関節の隙間を切り裂いていく。
ワングも、続いて反対側の脚へ、刀を叩き込んだ。
体勢を崩した蟹が、大きく傾く。
「畳みかける!」
ミラが、丸盾を構えたまま、懐へ、踏み込んだ。
ロングソードの一閃が、甲殻の薄い腹側を深く貫いた。
蟹が、大きく痙攣し、やがて、光の粒となって消えていく。
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戦いの後、地面には、白いコインが、いくつか散らばっていた。
緑は、やはり、一枚もなかった。
「ここも、外れか」
ダダが、肩で、息をつきながら呟く。
「板、また、確かめよう」
カインが、板を取り出す。
緑の光は、先ほどより、さらに、離れた場所へ移っていた。
「本当に、動いてるでござるな」
ワングが、額の汗を拭う。
だが、近づいたと思うたびに、また、別の色のポイントへ行き当たる。
黒い甲殻を持つ、大型の甲虫は、硬い殻の隙間をワングとネリスが根気強く突き崩した。
白い霧をまとう、複数の小鬼は、ミラの盾と、ダダのハンマーで、一体ずつ着実に数を減らしていった。
そのたびに、六人は、足を止め戦い、コインを拾い、また歩き出した。
汗が額を伝い、息が少しずつ上がっていく。
「これで、五つ目でござるな」
ワングが、袋の中身を、確かめながら言う。
コインは、青、黄、白、黒と、色とりどりに増えていた。
だが、肝心の、緑だけがいつまでも手に入らない。
「まるで、逃げてるみたい」
ミラが、疲れた声で呟いた。
「逃げてる、か」
ダダが、繰り返す。
「言われてみれば、そんな気もしてくる」
「気のせいだと、思いたいけどね」
ノリアが、板をもう一度確かめながら、小さく息をついた。
緑の光の粒は、依然としてじりじりと、少しずつ位置を変え続けている。
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金属塊の袋も、次第に重くなっていた。
戦いの合間に見つけた宝箱から、色ごとに違う金属が、着実に溜まっている。
「一度、休もう」
カインが、木の根元を指し、腰を下ろす。
袋を開け、これまで拾った金属を、地面に並べていった。
赤みを帯びたもの、鈍く黒いもの、そして、白く輝くものが、幾つも転がっている。
その中の一つを、ダダが手に取った。
淡い銀色に、うっすらと、青みがかった光沢。
軽く、指で弾くと、澄んだ音が響いた。
「これ……」
ダダが、まじまじと、その塊を見つめる。
「どうした」
カインが、覗き込む。
「これ、もしかして」
ダダの声が、わずかに、上ずった。
「ミスリル、じゃないか?」
その一言に、全員の視線が、ダダの手元へ集まった。
「ミスリル……」
ワングが、息を呑む。
「拙者、実物は、初めて見るでござる」
「私も」
ネリスが、身を乗り出し、じっと目を凝らす。
「本当、なら」
ノリアも、身を乗り出した。
「魔力の通りが、桁違いに、いいって聞いたことがある」
「鍛冶に、見てもらわないと、確かなことはわからないけど」
ダダが、塊を、太陽にかざす。
淡い光が、金属の表面を、静かに滑っていった。
「もし本物なら、装備、新調できるかもしれないでござるな」
ワングが、少し、声を弾ませる。
「その前に、緑を、なんとかしないと」
ミラが、苦笑しながら、割って入った。
「緑は、逃げるくせに、こんなもの拾わせてくれるんだな」
ダダが、苦笑しながら、塊を袋へしまう。
「油断は、できない」
ネリスが、周囲へ、視線を巡らせながら言った。
「森が、まだ、何か隠してる気がする」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
「今日は、ここまでにしよう」
カインが、日の傾きを見上げながら言う。
空は、すでに、橙色に染まり始めていた。
「明日も、緑を追う」
ネリスが、静かに、頷いた。
「付き合うぞ、もちろん」
ダダが、腰を上げながら、答える。
「拙者も」
ワングも、続いて、立ち上がった。
袋の中で、色とりどりのコインと、金属塊がかすかに音を立てる。
森の奥、緑の光は、今日も、少しだけ遠くで瞬いていた。
いかがでしょうか?
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