第108話「色めく森、拾う証」
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二層の門をくぐった瞬間、ネリスの足が止まった。
「多い」
「多いな」
カインも、同じものを見て、息を呑んでいた。
懐から取り出した板の上、これまでの六色の四角とは、まるで違う光景が広がっている。
赤、青、緑、黄、白、黒。
その六色に加えて、細かな光の粒が、板の全面に無数に散らばっていた。
「これ、全部、ポイントか」
ダダが、板を覗き込みながら、唸る。
「多分」
ネリスが、短く答える。
「一層は、六つだけだったでござるが」
ワングが、顎に手を当てる。
「階層が進むと、密度も、上がるんだと思う」
ノリアが、素っ気なく言った。
「全部回るのは、無理そうだね」
ミラが、苦笑いする。
「今日は、近い方から、確かめる」
ネリスが、板を懐にしまい、先に立った。
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門の先に広がっていたのは、鬱蒼とした森だった。
太い木の幹が、視界を遮るように、いくつも連なっている。
石造りの通路とは違い、足元は、柔らかい土と根に覆われていた。
「道、あるにはあるでござるな」
ワングが、木々の間に続く、獣道のような筋を指す。
「外れると、多分、まずい」
ネリスが、鼻を、かすかに動かした。
「魔物の匂い、そこら中にある」
葉のざわめきに紛れて、遠くから獣の唸りが聞こえてくる。
「じゃあ、道なりに行こう」
カインが、先頭をネリスに任せる。
しばらく進むと、木々の切れ間に淡く光る場所が見えた。
近づくと、地面に青い光の粒が、円を描くように集まっている。
「あれが、ポイントか」
ダダが、盾を、構え直した。
円の中心から、大きな影が、ゆっくりと立ち上がる。
熊のような体躯に、樹の皮を思わせる硬い装甲。
四肢の先には、鋭い爪が鈍く光っていた。
「硬そうでござるな」
「見た目通りなら、な」
カインが、剣を抜きながら答える。
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魔物が、地を蹴った。
太い前足が、ダダの盾へ、まっすぐ振り下ろされる。
「くっ……!」
受け止めた瞬間、ダダの足が、じりっと後ろへ滑った。
「重いぞ、こいつ!」
「下がって!」
ミラが、丸盾を構え、横から割り込む。
二人がかりで、ようやく押し返した。
「装甲、硬いでござるな」
ワングが、刀を軽く振ってみせる。
先ほどの一撃で、刃筋にわずかな違和感が残っていた。
「関節、狙う」
ネリスが、低く言って魔物の側面へ回り込む。
爪が、装甲の継ぎ目を正確に狙った。
魔物が、初めて低く呻く。
「そこか」
カインが、すかさず踏み込み同じ箇所へ剣を突き入れた。
だが、装甲の下から、新たな殻がせり上がるように現れる。
「まだ、硬いぞ……!」
「なら」
カインが、手のひらを前へ向ける。
「頼む」
光の紋様とともに、あの巨躯が姿を現した。
ゴーレムが正面から、魔物の突進を真っ向から受け止める。
「今だ!」
その隙に、ワングとネリスが、左右から、装甲の継ぎ目へ、同時に刃を通した。
「業火獄!」
ノリアの炎が、怯んだ魔物を、大きく包み込む。
崩れ落ちる巨体が、やがて、光の粒となって、消えていった。
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戦いの熱が、まだ体に残っていた。
「今の、結構、危なかったでござるな」
ワングが、額の汗を拭う。
「一層より、確実に強い」
ネリスが、爪をしまいながら頷いた。
光の粒が消えた場所に、青いコインがいくつか残っている。
「ポイントの色と、同じ色のコイン、か」
カインが、拾い上げながら呟いた。
コインは、ひんやりと、青く光っている。
少し先、木の根元に、小さな箱が半ば埋もれるように置かれていた。
「宝箱、あった」
ネリスが、鍵の有無を慎重に確かめる。
鍵は、かかっていなかった。
蓋を開けると、中には、艶のある金属の塊と、見慣れない繊維状の素材がいくつか収まっていた。
「これ、何に使えるんだろうね」
ミラが、興味深そうに、覗き込む。
「鍛冶に、聞いてみないと分からないでござるな」
ワングが、そのまま、箱ごと持ち上げた。
「ポイントごとに、コインの色と、中身が変わりそうだ」
カインが、板を取り出し、進んだ場所に印をつける。
板の上、青い光の粒が、少しだけ色を濃くしていた。
「一つ、確かめた」
ネリスが、周囲に視線を巡らせる。
森の奥、まだ見ぬ色の光が、遠くにいくつも瞬いていた。
「まだまだ、あるでござるな」
ワングが、少し楽しそうに言った。
「今日中に、いくつ回れるか」
ダダが、腕を鳴らす。
「無理は、しない」
ネリスが、釘を刺しながらも、すでに次の光へ視線を向けていた。
六人は、色とりどりの光が瞬く森の奥へ、再び足を踏み入れた。
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木々の隙間を縫うように進むと、今度は、赤い光が地面を染めていた。
青のときより、光の粒が明らかに密集している。
「濃いな、これ」
カインが、目を細める。
「濃い方が、強いのかもしれない」
ノリアが、警戒するように、杖を構え直した。
円の中心の地面が、突然、割れる。
土煙とともに、飛び出してきたのは、複数本の触手を持つ赤黒い塊だった。
中心に、ぎょろりとした目が、一つだけ覗いている。
「気持ち悪いでござるな……!」
ワングが、思わず、後ずさった。
触手が、四方八方から六人へ、一斉に伸びてくる。
「散開!」
カインの声に、六人がそれぞれ跳んだ。
一本の触手が、ミラの足首をかすめる。
「っ……!」
「大丈夫か!」
ダダが、割り込み、盾で次の一撃を弾いた。
「毒、ではなさそう。でも、痺れる感じがする」
ミラが、足を軽く振りながら答える。
「近づかない方が、いいのかもしれない」
ノリアが、遠くから業火弾を放つ。
炎が、触手の一本を根元から焼き切った。
だが、切られた場所から、新しい触手がすぐに生えてくる。
「再生するのか……!」
「面倒でござるな、こいつは」
ワングが、間合いを取りながら舌打ちする。
「目、だ」
ネリスが、低く言った。
「中心の目、たぶん、そこが弱点」
「近づけば、届くか」
カインが、剣を握り直す。
「囮、頼めるか」
「任せろ」
短く答えると、カインが、手のひらを前へ向けた。
「頼む」
光とともに、あの巨躯が、姿を現す。
ゴーレムが、正面から、伸びてきた触手の束を両腕で受け止めた。
太い腕に、幾重にも触手が絡みつく。
「今の隙に!」
ダダが、叫ぶ。
ネリスが、地を這うように、塊の懐へ一気に踏み込んだ。
爪が、中心の目を正確に捉える。
塊が、けたたましい耳障りな声を上げた。
「もう一撃!」
ワングが、続けて間合いを詰める。
だが、塊が身をよじり、触手の壁で視界を遮った。
「見えない……!」
「真贋の瞳!」
カインが、迷わず唱える。
視界が、一変した。
無数の触手の奥、揺らぐ本体の輪郭がはっきりと浮かび上がる。
「そこだ、まっすぐ!」
「承知!」
ワングの刀が、まっすぐに、目の中心を貫いた。
塊が、大きく痙攣し動きを止める。
「終わらせる」
ネリスが、とどめの一撃を、叩き込んだ。
赤黒い塊がしぼむように縮み、やがて、光の粒となって消えていった。
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ゴーレムに絡みついていた触手も、跡形もなく消えている。
「危なかったな」
ダダが、大きく息を吐く。
「目、見えてなかったら、まずかったでござるな」
ワングが、汗を、袖で拭った。
「真贋の瞳、こういう時にも使えるんだな」
カインが、少し驚いたように、自分の手を見つめる。
「大活躍、だったね」
ミラが、ほっとしたように笑いかけた。
足元には、赤いコインがいくつも散らばっている。
先ほどの青いコインとは、明らかに輝き方が違っていた。
「色によって、価値が違う、のかもしれない」
ノリアが、コインを一枚拾い上げながら言う。
少し離れた場所に、また、小さな箱が見つかった。
開けると、赤みを帯びた金属の欠片と、見たことのない繊維が収まっている。
「さっきの箱と、中身が、違う」
ネリスが、素材を、じっと見比べる。
「色ごとに、出るものが、決まってるのかもね」
ミラが、感心したように頷いた。
板を取り出すと、赤い光の粒も、先ほどより色を濃くしている。
「二つ、確かめた」
カインが、板をしまいながら、六人を見渡す。
森の奥には、まだ、緑や、黄や、見たこともない色の光が無数に瞬いていた。
「先は、長いでござるな」
ワングが、少し疲れた声で、それでも、笑いながら言った。
「長いくらいが、ちょうどいい」
ネリスが、短く返し、また、次の光へ足を向けた。
六人は、色とりどりの光が瞬く森の奥へ、再び歩き出した。
いかがでしょうか?
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