第106話「宿った絆、還った兄」
マランの世界、連日投稿中です。
当面、毎日2話投稿の予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。
クロスロードへ戻る道すがら、カインは、ずっと黙り込んでいた。
召喚。
手にしたはずのその力を、どう使えばいいのか、まだ、実感がなかった。
「難しい顔してるな」
ダダが、横から覗き込む。
「何から手をつければいいのか、わからなくて」
カインが、正直に答えた。
「なら、簡単だろ」
ダダが、あっさりと言う。
「まず、呼べる魔物を、見つけりゃいい」
「確かに」
ミラが、頷く。
「使い方を悩む前に、まず、相手がいないと、始まらないですし」
「賛成」
ノリアも、短く同意した。
「でも、どうやって見つけるんでござろうか」
ワングが、首を傾げる。
「エランドは、感じ取れる、としか言わなかったでござるが」
「試してみるしかない」
カインが、自分の手のひらを、じっと見つめる。
「実際に、魔物と対峙してみないと、わからないと思う」
「じゃあ、決まりだな」
ダダが、軽く肩を叩いた。
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「それに」
ネリスが、ぽつりと、口を開く。
視線は、まっすぐ前を向いたままだった。
「兄さんのことも、確かめたい」
その一言に、誰も、異を唱えなかった。
「あの日の場所、もう一度、行ってみるでござるか」
ワングが、静かに言う。
「うん」
ネリスが、短く頷いた。
「石板の、あの言葉」
カインが、思い出したように言う。
「『兄はやがて戻ってくる』」
ネリスの肩が、わずかに、揺れた。
「今、確かめに行く」
短く、言い切った。
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エアに再び潜り、黄の四角の方角へ向かう。
道中、灰色の巨躯が、通路の先に、ゆっくりと立ち上がった。
「ゴーレムでござるな」
ワングが、刀を構える。
「油断するな、硬いぞ、あれは」
ダダが、盾を構え直しながら言う。
戦う姿勢を取った、その瞬間だった。
カインの中で、何かが、小さく疼いた。
言葉にできない、感覚だった。
胸の奥が、ゴーレムに向けて、静かに、引っ張られるような感覚。
「待って」
カインが、思わず、声を上げる。
「どうした」
ダダが、動きを止めた。
「……これ、対象だ」
「対象?」
ダダが、聞き返す。
「召喚できる相手だと思う。わかる、気がする」
半信半疑のまま、カインは、ゴーレムへ向けて、片手を伸ばした。
ゴーレムが、こちらへ、一歩、踏み出す。
「危ない、カイン!」
ミラが、思わず叫ぶ。
「大丈夫」
カインは、下がらなかった。
「頼む、力を貸してくれ」
願うように、そう告げる。
ゴーレムの、赤く光っていた目が、一瞬、揺らいだ。
やがて、光が、静かに落ち着いていく。
巨躯が、ゆっくりと、片膝をついた。
カインの手のひらに、淡い光の紋様が浮かび、すぐに消える。
「な……」
言葉が、続かなかった。
「成功、したのか?」
ダダが、恐る恐る聞く。
「たぶん」
カインが、まだ半信半疑のまま、頷いた。
「召喚、一体目でござるな」
ワングが、感慨深そうに言う。
「名前、考えないと」
ノリアが、意外と乗り気な様子で言った。
「今は、それどころじゃ」
言いかけて、カインも、少しだけ、頬を緩めた。
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先へ進むと、獣型の魔獣が、群れをなして現れた。
「早速、試してみるか」
カインが、ゴーレムへ、視線を向ける。
「頼む」
短い一声で、ゴーレムが、大きく動き出した。
太い腕が、群れの先頭を、一薙ぎで払う。
「でかい分、頼りになるな!」
ダダが、盾を構えながら、笑う。
ワングとミラが、こぼれた敵を、左右から仕留めていく。
「息、合わせやすいでござるな、この巨躯」
ワングが、感心したように言う。
ゴーレムが壁になるだけで、これまでとは、動きやすさが、まるで違った。
ノリアの炎が、残りをまとめて焼き払った。
「これは、いい……!」
カインが、思わず、声を上げる。
一人でも、六人でもない、新しい戦い方の形が、そこにあった。
「悪くない、な」
ネリスも、短く、認めるように呟いた。
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やがて、見覚えのある広間が、見えてきた。
以前、巨大な獣人と、二つの人影に、遭遇した場所だった。
「ここ……」
ネリスの声が、緊張に、強張る。
同じ、巨大な獣人。
その左右に、同じ、二つの人影。
「間違いない、あの日と、同じ場所でござるな」
ワングが、低く言う。
「ネリス、大丈夫か」
ミラが、そっと、声をかける。
「大丈夫」
短く答えたが、その声は、わずかに震えていた。
「来る!」
カインが、叫ぶ。
「ゴーレム、前へ!」
巨躯が、正面に立ちはだかる。
ダダも、その隣で、盾を構えた。
「二人がかりなら、いける!」
「押し返すぞ!」
ゴーレムの一撃と、ダダの盾が、巨大な獣人の突進を、正面から受け止めた。
衝撃で、地面が、大きく揺れる。
「重い、けど……!」
ダダが、歯を食いしばりながら、踏ん張る。
ゴーレムの太い腕が、休むことなく、追撃を続けた。
その隙に、ワングとミラが、もう一体の人影へ、素早く踏み込む。
「はあっ!」
ワングの刀が、正確に、急所を捉えた。
ミラのロングソードが、続けて、とどめを刺す。
「終焉!」
ノリアの光が、怯んだ巨大な獣人を、大きく飲み込んだ。
「今だ!」
カインの合図で、ゴーレムとダダが、同時に、畳みかける。
巨躯が、大きく揺らぎ、やがて、崩れ落ちていった。
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戦いの音が、静かに、消えていく。
残る、最後の一つ。
見覚えのある、あの人影が、そこに、立っていた。
「兄、さん」
ネリスが、震える声で、呼びかける。
人影が、ゆっくりと、こちらを見る。
その目に、あの日と同じ、光があった。
「ネリス……」
低く、掠れた声。
だが、その先が、続かなかった。
体の輪郭が、揺らぎ、獣の唸り声が、代わりに漏れる。
「兄さんじゃ、ない……?」
ネリスの声が、震える。
爪を構えた手が、それでも、下ろせずにいた。
「いや」
カインが、静かに、前へ出た。
「対象だ。感じる」
ネリスが、はっと、顔を上げる。
「間違いなく、彼だ」
人影が、唸りながら、じりじりと、後ずさる。
まるで、こちらを恐れているようにも、見えた。
「攻撃、しないでござるな」
ワングが、静かに、指摘する。
「ずっと、耐えてる。何かと、闘ってるみたいに」
ミラが、痛ましそうに、呟いた。
カインが、ゆっくりと、手を伸ばす。
「戦いに来たわけじゃない」
「一緒に、来てほしい」
ただ、それだけを、伝えた。
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人影が、動きを止める。
唸り声が、次第に、静かになっていった。
それでも、まだ、輪郭は、不安定に揺れ続けていた。
「ネリスが、ずっと、捜してた」
カインが、続ける。
「一人で、抱えてきたんだ、ずっと」
「お金のため、だなんて、嘘をついてまで」
ダダが、静かに、付け加える。
ネリスが、一歩、前に出る。
「兄さん」
もう一度、呼んだ。
その声に、迷いは、なかった。
人影の輪郭が、揺れながら、ゆっくりと、鎮まっていく。
見覚えのある、優しい目の色が、そこに、戻っていた。
カインの手のひらに、再び、淡い光の紋様が、浮かぶ。
今度は、消えなかった。
光が、静かに、人影を包み込んでいく。
「……ネリス」
はっきりとした、声だった。
ネリスの目から、涙が、こぼれ落ちた。
「おかえり」
短い、その一言に、すべてが、込められていた。
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光が、収まる。
そこにいたのは、もう、敵意を持つ影ではなかった。
静かに佇む、確かな気配だけが、残っていた。
「カイン」
ダダが、肩に、そっと手を置く。
「良かったな」
「ああ」
カインが、頷いた。
隣で、ネリスが、まだ、震える手を、握りしめていた。
「生きてる、のか。死んでる、のか」
ネリスが、掠れた声で、呟く。
「今は、まだ、わからない」
カインが、正直に、答えた。
「でも、そばにいられる。それだけは、確かだ」
ネリスは、しばらく、何も言わなかった。
やがて、小さく、頷いた。
「それで、十分」
石板の言葉が、頭の中を、静かに、よぎる。
『兄はやがて戻ってくる』
その言葉の意味を、六人は、ようやく、その目で、確かめていた。
いかがでしょうか?
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