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『マラン、はじまりの迷宮』〜わからないことばかりの、迷宮攻略記〜  作者: 奇木 尋
第二部 迷宮エア編 一層

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第102話「白の試練、掲げられた言葉」

マランの世界、連日投稿中です。

当面、毎日2話投稿の予定です。


お楽しみいただけましたら幸いです。

黄の四角から白の四角までは、驚くほど早く着いた。


ネリスの案内が、迷いなく道を選び続けたおかげだった。


「相変わらず、早いな」


カインが、感心したように言う。


「これくらい、普通」


短く返しながらも、ネリスの足取りは軽かった。


歩きながら、ワングが板を覗き込む。


「残るは、白と黒でござるな」


「黒は、まだ全然見えない」


ノリアが、板の隅を指でなぞりながら言う。


「白まで来ただけでも、上出来だろ」


ダダが、軽く肩を回しながら言った。


通路は、今日もあちこちで作り替わっていた。


石の壁が、途中で木の柵に変わり、また石に戻る。


それでも、ネリスの足取りには、迷いがなかった。


「今日は、寄り道もなかったな」


カインが、拍子抜けしたように言う。


「寄り道、してほしかった?」


「いや、ないならないで、いいんだけど」


「じゃあ、良かった」


素っ気ないやり取りに、ダダが小さく笑った。


---


たどり着いた先は、これまでとは違う空間だった。


天井が、見上げても届かないほど高い。


床の広さも、ちょっとした広場ほどある。


音の響き方まで、他の部屋とは違っていた。


足音ひとつが、やけに長く尾を引く。


向こう側の端に、小部屋のような建物が、いつものように立っていた。


ドアは、すでに開いている。


その手前に、白い龍が眠っていた。


首を、自分の羽根の中に深く差し込んで。


体の白さは、ただの色ではなかった。


見ているだけで、目の奥が冷たくなるような、そんな白さだった。


「え、あれを倒すの?」


ダダが、思わず声を漏らす。


「無理でござろう」


ワングも、刀の柄に手をかけたまま、小さく呟いた。


六人とも、足が止まっていた。


「倒す、っていうより」


ミラが、小声で言う。


「ここまで大きいと、倒せそうにも見えない」


「だよな」


ダダが、力なく頷いた。


その時、白い龍の首が、ゆっくりと持ち上がる。


大きな瞳が、六人を映した。


瞳の色は、金でも銀でもない。


ただ、深い、透き通った灰色だった。


「お主らが、『求める者』か」


低く、静かな声だった。


聞いているだけで、体の芯が冷えるような響きだった。


「ならば、その力を見せてみよ」


言い終えると、龍は動かなくなった。


構える様子も、威嚇する気配もない。


ただ、静かにこちらを見ているだけだった。


「攻撃してこない、みたいだね」


ノリアが、慎重に一歩、様子をうかがう。


「これは、掛かってこいとのことか」


ダダが、確かめるように言う。


答えを待たず、ウォーハンマーを振り上げ、叩き込んだ。


鈍い音が、空間に響く。


龍は、微動だにしなかった。


打ち込んだ手のひらに、痺れだけが残る。


「うむ。まずまず。次は」


---


促されるまま、ワングが前に出る。


片手に持った氷姫を、袈裟懸けに振るった。


刃が空を切り、龍の鱗すれすれをかすめる。


手応えは、ほとんどなかった。


それでも、その一振りには、迷いのない軌道があった。


「おお、これは素晴らしい」


龍の声に、初めて、感嘆に近い響きが混じった。


続いて、ネリスが地を蹴る。


低く跳び、龍の首を狙って爪を伸ばした。


高さも、角度も、狙い通りだった。


「良い跳びじゃ」


着地したネリスの息が、わずかに上がっていた。


「私も」


ノリアが前に出て、雷殺を放つ。


雷が、龍の周囲の空気を焼いた。


光が消えたあとも、しばらく空気が震えていた。


「これまた」


龍が、面白がるように言う。


「ここでは、終焉は放てるか」


ノリアは、答えなかった。


答えられなかった、というのが、正しかった。


最後に、カインが剣を構える。


一直線に踏み込み、龍へ向けて突き刺した。


刃が届く寸前、龍が、ふっと目を細める。


沈黙が落ちた。


長い沈黙だった。


風の音すら、聞こえなくなるほどの。


「ほう」


やがて、龍がゆっくりと口を開く。


「其方が、『万能士』か……」


その先の言葉は、続かなかった。


カインは、何かを問い返そうとして、やめた。


龍の目が、それを許さない気がしたからだった。


---


「よし」


龍が、体を起こす。


翼を広げると、天井近くまで、その影が伸びた。


「『白の家』に入るが良い」


「それぞれの者に、それぞれの言葉がある」


そう言い終えたかと思うと、龍の姿は、かき消えるように消えた。


残された六人は、しばらく顔を見合わせていた。


「消えた、でござるな」


「消えたな」


誰も、それ以上は言わなかった。


代わりに、それぞれが、自分の得物を見下ろす。


叩き込んだ手のひらの痺れも、振り抜いた刃の感触も、まだ体に残っていた。


開いたドアの先へ、六人は足を踏み入れる。


---


部屋の中央に、白い石板が立てかけられていた。


近づくと、それぞれの目に、違う言葉が映る。


ダダには、「自らの望む道を」


ワングには、「己の刀をみがけ」


ネリスには、「兄はやがて戻ってくる」


ノリアには、「さらなる高みを」


ミラには、「聖なる守り手たらん」


そして、カインには、「究極の選択が待つ」


それぞれが、しばらく無言で、自分だけの言葉を見つめていた。


「お前には、何て書いてある?」


ダダが、隣のワングに聞く。


「拙者には、拙者の言葉しか見えぬでござる」


「え、そうなの」


「そちらも、覗いても、見えぬはずでござるよ」


試しに、ダダが石板を覗き込む。


そこには、確かに何かが書かれていた。


だが、文字の形が、どうしても像を結ばない。


「本当だ。見えない」


「不思議な仕組みだね」


ミラが、静かに石板に触れる。


指先が触れても、文字は変わらず、ミラだけのものを映していた。


「これも、エランドの仕業か」


カインが、誰にともなく呟く。


「かもしれないし、この場所自体の力かもしれない」


ノリアが、素っ気なく返す。


「どちらでも、今は確かめようがない」


ネリスは、石板の前から、しばらく動かなかった。


「兄はやがて戻ってくる」


小さく、声に出して読み上げる。


その声は、いつもより頼りなかった。


誰も、その意味を問わなかった。


問えば、何かが壊れてしまう気がした。


ただ、ミラだけが、そっとネリスの隣に立った。


言葉はなく、ただ、そこにいるというだけで。


しばらくして、ネリスが小さく息を吐く。


「大丈夫」


誰に向けた言葉かは、分からなかった。


自分自身に向けた言葉だったのかもしれない。


白の家を出るころには、六人とも、それぞれの言葉を胸にしまい込んでいた。


口にするかどうかは、まだ、誰にも分からなかった。


板の上には、黒の四角だけが、最後の色を残していた。


白の家を出て、来た道を戻り始めても、誰もすぐには口を開かなかった。


「石板の言葉、他の人のは、本当に見えないんだな」


しばらくして、カインが呟く。


「見えないでござるよ、多分」


「多分って」


「拙者も、確かめようがないので」


ワングが、律儀に言い直した。


「気になる?」


ノリアが、横目でカインを見る。


「気にならないと言ったら、嘘になる」


カインは、正直に答えた。


「何て書いてあったか、顔に出てるよ」


ノリアが、からかうように言う。


「顔に出てる、って」


「出てる」


断言されると、それ以上は言い返せなかった。


カインは、ただ苦笑いするしかなかった。


「無理に聞かなくていい」


ダダが、話を引き取る。


「言いたくなったら、言えばいい話だろ」


「それは、そうだけど」


「それでいいでござるよ」


ワングが、静かに頷いた。


六人とも、それぞれの言葉を、まだ誰にも明かしていなかった。


それでいて、誰も焦っている様子はなかった。


黄と白、二つの色を越えたことの手応えの方が、今は大きかったからかもしれない。


「残るは、黒だけ」


ネリスが、板を見ながら言う。


「黒は、どんな場所なんだろうね」


ミラが、少し不安そうに呟いた。


「行ってみないと、分からない」


ノリアが、いつも通りの調子で答える。


「わからないことの方が、まだ多いな」


カインが、小さく笑って言った。


それは、諦めではなく、どこか前向きな響きを持っていた。


板の上で、黒の四角が、まだ何色にも染まらないまま、静かに待っていた。


明日は、黒のポイントか・・・


6人はそう思っていた。


ただ、帰還すると状況は激変していた。


いかがでしょうか?


感想、フォロー 頂けましたら喜びます。


よろしくお願いいたします。

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