創世I-⑯
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「──ふぅん」
季節は本格的に冬に差し掛かっていた。秋と冬の狭間の、特有の空気。溶けるように澄み、それでいて妙に冷たい。
ラドはマドリードの王宮の自室にいた。窓の外はすっかり暗い。寒かったので、ラドは羊毛で織られた大きな毛布を頭から被って、椅子の上ですっぽりと丸まっていた。丸まりながら、机に向かっている。机の燭台の蝋燭の灯りがゆらゆらと揺らめき、毛布から覗く陶器のような白い肌をささやかに照らした。
毛布に包まったまま、ラドは手紙を読んでいた。あの男からの手紙。国境の制定、領土の交渉、二人で会う約束、つまり条約を結べということだ。そして、わざわざこのタイミングで手紙を送ってきた。
暴動で、民衆側は王に破れた。スペイン軍も撤退したが、ラドは軍を先導する人間の何人かにスペインの銀貨を持たせていた。持ち運びやすく、尚且つ国を特定することができる物。そして案の定、その内の一人が取り押さえられ、物品を押収されたと軍の人間から聞いた。……つまり、ちゃんと気づいている。その上でのこの手紙だ。暴動に関しては何も書かれていなかったが、「分かっている」という言葉の無い圧を読めないわけがなかった。
ただし、ラドにとってそれは「圧」ではなかった。むしろ、こういうことがこの男の「おもしろい」指数を底上げするのだから、どうしようもなく厄介なものだった。
「なんてお返事しようかな〜」
ラドは手紙を机の端に放り、羽根ペンと便箋を手に取った。その拍子に頭に被っている毛布の縁がずり落ちてきたのを、ペンを持った左手で押し上げた。
考える間もなく、ラドはペンを走らせ始めた。「なんてお返事しようかな〜」と言いつつ、手紙を読んでいる間に答えを出していたのだ。国境の件も領土の件も承諾する。その代わり、領土を引き渡すことによる金銭のやり取りは一切しないことを掛け持った。自国とフランスの経済力を見比べた上での結論だった。
……国境の制定は単に争いの火種を消す、という意味では無いだろう。国境を定めるにあたって、着実に領土を広げにかかっている。王権をしっかり立てた上でのこの行動。「分かっている」ことを示した上で「権威」を振りかざしてきているのだ。国家間情勢でのフランス優位の維持、そして何よりエルネの絶対的な王政の形を認めることにはなる。表面上は。
──そんなことよりも、ラドにはとっておきの「おもしろい」ことがあった。
「……会うに決まってるじゃん」
ラドはエルネへの返事を書き終えると、羽根ペンを弾くようにしてペン立てに戻した。それから、毛布に包まれながらくすり、と笑った。
──今回の暴動に関するスペイン軍からの報告書。ラドは一通り読んだ。結局ボルドーは奪えなかった。フランスの王権も確立した。だが、それを全て帳消しにできそうな「おもしろい」情報を、スペイン軍はパリの貴族から引き出してくれたのだ。
自国の軍には、「パリの貴族には同情しろ」と命じた。そして予想通り、暴動の際にパリの貴族の中でも王への反抗心が強かった者が軍の人間に話した。
──今回の暴動は増税や中央集権への批判だけではなく、”宰相への批判”も含まれている。ラド自身、エルネに宰相がいることは知っていた。だが、今回の”これ”はラドの中でほぼ「確定」に近かった。
その貴族はこうも言ったらしいのだ。”王は宰相に長年連れ添っている”。王「は」。主語は宰相ではなかった。そう言わせるほどあの男は宰相を気にかけているということだ。つまり、二人の間には「王と宰相」だけではない”何か”があるのだろう。
「……おもしろい」
ラドはより一層毛布に包まった。毛布の塊は、くすくすと笑いだした。
あの男が地の底から欲しがって、守りたいものは権威だ。十分に理解している。ならば、なぜ権威をそこまで大事に抱える? ”それ”が無くなったら何がどうなる?
──考えるだけで気持ちが昂った。自分でも恐ろしいと思えるほどに。
「あの銀貨でなに買うかな〜。要らないって捨てられちゃってるかも」
毛布の中から、くぐもった声で。その声にはまだ笑いが混じっていた。──夜は、長かった。
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【お詫び】
22時過ぎに投稿するはずが、いつの間にか睡魔に敗北していてうっかり寝落ちしてしまい、少し遅れての投稿になってしまいました……! 大変申し訳ございません。今後気をつけます!




