↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【異世界×医療】回復魔法が効かない患者だけを治す追放治療師 〜現代の手技で、制度に切り捨てられた命を拾う〜  作者: 蒼瀬灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/88

第78話 閑話 守るための仕組み

今回は、王都側の一日です。

主人公アークではなく、

王都医療局・実務責任者バルドの視点で綴ります。

 照会の束は、日ごとに厚くなる。


 私の机ではない。


 三つ隣の部屋に、

 そのための係ができた。


 人が四人。


 紙を探し、写し、返す。


 それだけの仕事だ。


 地味な部屋だと言う者がいる。


 私は、そうは思わない。


 昼過ぎ、その部屋を通った。


 用があったわけではない。


 通り道だ。


 中で、女が待っていた。


 身なりから、市民だと分かる。


 係の若い男が、写しを渡していた。


「こちらが、当日の記録です」


「読めますか」


「……読めます」


 女は、紙を受け取った。


 受け取って、その場で読み始めた。


 立ったまま、読んでいた。


 係の男は、急かさなかった。


 椅子を、勧めていた。


 女は、座らなかった。


 しばらくして、女が顔を上げた。


「あの」


「はい」


「ここに、待った、と書いてあります」


「はい」


「すぐには、

 治さなかったということですか」


 係の男は、答えた。


「すぐに治す方法は、ありました」


「ですが、担当の者は、

 先に様子を見ることを選んでいます」


「その理由も、書いてあります」


 女は、もう一度紙を見た。


 時間をかけて、見ていた。


「……理由を、書くんですね」


「書きます」


「そういう決まりです」


 女は、それきり何も言わなかった。


 紙を折って、鞄に入れた。


 入れてから、頭を下げた。


「息子は、助かりましたので」


「はい」


「ずっと、

 なぜ待たれたのかが、

 分からずにおりました」


 出て行った。


 私は、廊下でそれを見ていた。


 覗いていたわけではない。


 通り道だ。


 自室に戻って、椅子に座った。


 窓の外は、いつもの王都だ。


 石畳。

 高い壁。

 整った街路。


 この仕組みは、私が始めたものではない。


 評議会の決定だ。


 だが、元は私の通達だった。


 判断の理由を書け、と私は言った。


 署名はいらん、とも言った。


 書けば、守られる。


 そう思っていた。


 いまも、そう思っている。


 さきほどの女は、

 書いてあったから、納得して帰った。


 書いていなければ、

 あの人は一生、

 息子が放っておかれたと思っていた。


 現に、そういう者を私は何人も見てきた。


 説明できない、という理由だけで、

 医療が恨まれてきた。


 紙は、そのためにある。


 夕方、報告が上がってきた。


 地方からの回答の写しだ。


 几帳面な字だった。


 私は、三度読んだ。


 几帳面な字を見ると、

 誰が書いたか分かる気がする。


 気がするだけだ。


 名前は、いつも読み飛ばす。


 その報告に、一行だけ、

 妙な数字があった。


 当該機関における、

 記載欄への記入率。


 先月より、下がっている。


 少しだけだ。


 増える月もあれば、減る月もある。


 私は、その紙を束に戻した。


 戻して、灯りを消した。


 仕組みは、動いている。


 訊かれて、答えられる。


 答えられて、人が帰っていく。


 悪いことは、何も起きていない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。