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【異世界×医療】回復魔法が効かない患者だけを治す追放治療師 〜現代の手技で、制度に切り捨てられた命を拾う〜  作者: 蒼瀬灯


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第74話 訪ねてきた人

 馬は、二頭だった。


 この町に、馬は少ない。


 荷馬車は月に一度来る。


 だが、乗るための馬は、

 めったに通らない。


 鞍に、紋が入っていた。


 町の誰も、それを知らなかった。


 男が一人、降りる。


 外套の裾を、手で払った。


 埃を気にする人間だ。


 集会所で、監督官が応対した。


「人を、探しております」


「どなたを」


「アーク・シグナス様」


 男は、そう言った。


 監督官は、すぐには答えなかった。


 この町で、その名が呼ばれたことはない。


 三年、一度もなかった。


「ご用件を、伺っても」


「王都の家の者です」


 男は、紋を示した。


「当家の若様が、

 四年前に亡くなりました」


「魔力の、暴走でした」


 男は、順序よく話した。


 感情を、声に乗せない。


 そういう訓練を受けた話し方だった。


「その折に」


「医療局に、処置を要請しております」


「断られたと、聞いております」


 監督官は、姿勢を正した。


「照会の様式が、ございます」


「存じております」


 男は、頷いた。


「先に、出しました」


「王都から、返答が」


「はい」


 男は、懐から一枚出した。


 王都の控えの写しだ。


 短い文だった。


照会の件について、

該当する記録は確認できなかった。


以上を回答とする。


 監督官は、それを読んだ。


 読んで、二度、読み直した。


「……該当する記録は」


「無い、と」


「はい」


 男は、紙を戻した。


 仕舞い方も、丁寧だった。


「無いということは」


 男は、言葉を選んだ。


「何も、起きていない、ということだそうです」


 沈黙。


 集会所の中で、

 薬師が薬をすり潰す音だけがしていた。


 音は、途中で止まった。


「亡くなったのは、事実です」


 男は、続けた。


「そこは、争っておりません」


「では」


「経緯を、伺いたいだけです」


 男は、頭を下げた。


「当家は、責任を問う立場にありません」


「四年、

 何も分からずにおりましたので」


 監督官は、しばらく黙っていた。


「その方は」


 男は、顔を上げた。


「この町に、おいでと伺いました」


「登録は、ございません」


「ないのですか」


「ありません」


 監督官は、そう答えた。


 嘘ではなかった。


 この町で、あの診療所は、

 どの帳面にも載っていない。


 男は、少し考えた。


「では、

 その方に照会を出すことは」


「できません」


 男は、頷いた。


 困った顔は、しなかった。


「承知しました」


「では、直接、伺います」


 夕方、扉が叩かれた。


 いつもより、強い叩き方だった。


 アークは、開けた。


 外に、外套の男が立っている。


「アーク・シグナス様でいらっしゃいますか」


 三年、呼ばれていない名だった。


 消えたはずの名だった。


 アークは、答えた。


「そうだ」

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