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【異世界×医療】回復魔法が効かない患者だけを治す追放治療師 〜現代の手技で、制度に切り捨てられた命を拾う〜  作者: 蒼瀬灯


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第70話 照会という仕組み

 二枚目は、厚かった。


 枠がある。

 番号が振ってある。

 様式の見本が、付いている。


 集会所に、人が集まった。


 薬師。

 回復魔法の使い手が、二人。


 この町で医療に関わる者は、四人だった。


 一人、減ったままになっている。


 監督官が、紙を配る。


「読み上げます」


 男は、そういう進め方をする。


 省かない。


記録照会の実施について


一、患者本人または家族は、

過去の症例について照会することができる。


二、照会を受けた機関は、

当該記録の写しを添えて回答する。


三、対象は、記録の残る症例とする。


 読み終えて、男は紙を置いた。


「以上です」


「ずいぶん、丁寧だね」


 薬師が言った。


「王都は暇なのかね」


「暇ではないと思います」


 男は、真面目に答えた。


「数年前の事故の患者に、

 説明が始まったと聞いています」


「事故」


「治療の失敗です」


 男は、それだけ言った。


「ずっと、

 誰も説明していなかったそうです」


 誰も、何も言わなかった。


 そういう話は、この町にもある。


 名前を出さないだけだ。


「よい仕組みだと思います」


 男は、続けた。


「訊かれて、答えられる」


「答えられないままの家族が、

 これまで大勢いました」


 その言い方には、力があった。


 この男は、こういうときに強い。


 リーナが、手を挙げた。


「一つ、いい」


「どうぞ」


「書いてなかったら、どうなるの」


 男は、少し考えた。


「書いていなければ」


「照会の対象に、なりません」


「ならないのね」


「はい」


 リーナは、それ以上訊かなかった。


 訊かなかったが、

 顔は納得していなかった。


 解散したあと、

 リーナが診療所に寄った。


 椅子に座って、しばらく黙っていた。


「ねえ」


「なんだ」


「あれ、変じゃない」


 アークは、紙を見ていた。


「どこがだ」


「書いた人だけが、訊かれるのよ」


 沈黙。


 アークは、答えなかった。


「あなた、分かってて黙ってるでしょう」


「分かってはいない」


「じゃあ何」


「引っかかってはいる」


 リーナは、鼻で笑った。


「それを、分かってるって言うのよ」


 立ち上がった。


 扉のところで、一度止まった。


「隣の町、

 人が足りないって、まだ言ってるわ」


「行くのか」


「行くとは言ってない」


 出て行った。


 扉は、静かに閉まった。


 夜。


 棚の綴りを、一つだけ下ろした。


 半年前の分だ。


 開くと、自分の字がある。


 署名は、ない。


 これまで、それでよかった。


 署名がないということは、

 誰が書いたか分からないということだ。


 分からないものは、

 訊かれない。


 アークは、綴りを戻した。


 戻して、少しだけ考えた。


 訊かれない、というのは、

 守られているのとは、違う。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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