第67話 廃止される欄
是正は、静かに進んだ。
新しい様式が配られる。
枠がある。
欄がある。
番号が振ってある。
前のものと、よく似ている。
違うところは、二つだった。
一つ。
集計を、やめた。
貼り出しも、やめた。
もう一つ。
「判断理由」の欄が、なくなっていた。
薬師が、それに気づいた。
「これは、書かなくていいのかね」
「書きます」
監督官は、答えた。
「ここに」
男が指したのは、
経過の欄だった。
広くなっている。
「現在の指針では、
症例ごとに治療方針を決め、
その理由を記録することとされています」
「記録するのは、理由です」
「特別な欄を作ると」
男は、少し言葉を選んだ。
「そこだけが、数えやすくなります」
「数えやすいものは、
いずれ数えられます」
誰も、何も言わなかった。
男は、続けた。
「私は、それをやりました」
「ですので、
欄を分けるのを、やめます」
紙が、配られていく。
新しい様式には、
特別な場所がない。
迷いを書いても、
処置を書いても、
同じ欄に並ぶ。
並んだものは、
数えにくい。
数えにくいものは、
残る。
アークは、その紙を受け取らなかった。
この診療所は、
どこにも登録されていない。
もらう理由が、なかった。
ただ、
配られていくのを見ていた。
守るために作った欄が、
守るために消えた。
同じ言葉で、
逆のことが起きている。
どちらも、間違っていない。
同じ月。
王都。
私の机に、地方からの報告が上がってきた。
是正の報告だ。
目を通す。
二年前の改訂が、
ある町に届いていなかったという。
正確には、届いていた。
綴じられて、開かれなかった。
私は、その紙を二度読んだ。
仕組みは、あった。
写しは、回した。
回したものが、読まれたかどうかを、
確かめる仕組みは、なかった。
報告の末尾に、
現地の処置が書いてある。
当該様式より「判断理由」欄を削除し、
経過欄へ統合する。
私は、しばらくそれを見ていた。
あの欄は、私が作った。
署名はいらん、と言った。
咎めもない、と言った。
あれを、余白のつもりで置いた。
余白は、囲うと余白でなくなる。
当たり前のことだった。
当たり前のことに、
何年もかけて気づいた。
私は、報告書を束の一番下に差し込んだ。
評価もしない。
承認もしない。
ただ、残す。
窓の外、王都の灯りが点りはじめる。
整然と、秩序だって。
欄は、消える。
消えたことを、
私は止めない。
止める理由が、
どこにも見つからなかった。
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