表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【異世界×医療】回復魔法が効かない患者だけを治す追放治療師 〜現代の手技で、制度に切り捨てられた命を拾う〜  作者: 蒼瀬灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/73

第61話 損なわれたもの

 家族が来たのは、朝だった。


 診療所ではない。


 看板のない家に、

 わざわざ回ってきた。


 母親と、

 当人の男。


「……あの」


 母親が、口を開く。


「診ていただけないかと」


 アークは、男の腕を見た。


 肩は、動く。


 肘も、動く。


 だが、

 腕が上がらない。


 途中で、止まる。


 触れた。


 傷は、塞がっている。


 きれいに、塞がっている。


 その下で、

 道が折れたまま固まっていた。


 ——見たことがある。


 辺境の町にいた鍛冶屋が、

 同じ形だった。


 あのときは、ほどけた。


 まだ、新しかったからだ。


 だが、

 これは。


 三日。


 早くはない。


 遅くもない。


 微妙な時間だった。


「治りますか」


 男が、聞いた。


 まっすぐな目だった。


「分からない」


 アークは、答えた。


「やってみる」


 ほどきにかかった。


 温める。

 広げる。

 呼吸に合わせて、圧をかける。


 男は、痛がらなかった。


 痛みは、もうない。


 痛みがないというのは、

 この場合、良い報せではない。


 時間をかけた。


 三十分。


 それ以上は、無理だ。


 腕は、少しだけ上がるようになった。


 肩の高さまで。


 そこから先は、動かない。


「……上がりました」


 男が、言った。


 嬉しそうだった。


「ここまでだ」


「はい」


「あと数回やれば、もう少し上がる」


「はい」


「だが」


 アークは、言った。


「元には、戻らない」


 母親が、息を吸う音がした。


 男は、黙っていた。


 しばらく、腕を見ていた。


「……仕事は」


「畑なら、できる」


「荷は」


「重いものは、無理だ」


 男は、頷いた。


 何度か、頷いた。


「分かりました」


 それだけだった。


 誰も、怒鳴らない。


 誰も、責めない。


 母親は、

 途中から泣いていた。


 声は、出していなかった。


 二人が帰ったあと、

 アークは椅子に座った。


 座って、動かなかった。


 それから、立ち上がった。


 机の上の紙束を、

 腕で払った。


 音が、思ったより大きかった。


 紙が、床に散る。


 しばらく、そのままにしておいた。


 それから、拾った。


 一枚ずつ、拾った。


 あの日、あの場にいたら。


 初期反応が薄いと感じた時点で、

 魔法を止めさせただろう。


 止めて、先に流れを整えた。


 そうすれば、

 腕は上がった。


 確実に、とは言えない。


 だが、

 高い確率で。


 あの治療師は、

 基準を守った。


 守ったから、こうなった。


 守らなければ、

 数に出た。


 夕方、リーナが来た。


 話は、もう聞いていた。


「……行ってあげたら」


「どこへ」


「あの子のところよ」


 アークは、答えなかった。


「行って、何を言う」


「なんでもいいわよ」


 リーナは、少し声を荒げた。


「あなたが黙ってるから、

 あの子は基準どおりにしたのよ」


 その言葉は、正確だった。


 正確すぎて、

 返す言葉がなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ