第55話 減った数字
報告は、三月目に届いた。
王都へ送る集計の写しが、
町にも回ってくる。
監督官が、
わざわざ集会所に持ってきた。
「よい結果が出ています」
男は、そう切り出した。
紙には、三月分が並んでいる。
十四。
十一。
六。
右へ行くほど、小さくなる。
「迷いの記述が、減っています」
男は、その列を指した。
「これは、
現場が落ち着いてきたということです」
薬師が、頷いた。
「書き方に慣れた、ということですかな」
「それもあります」
男は、丁寧に答える。
「それだけではありません」
「判断の根拠が揃ってくると、
人は迷わなくなります」
「迷いは、情報が足りないときに起きますから」
誰も、反論しなかった。
その説明は、筋が通っていた。
アークは、壁際に立っていた。
立っているだけだった。
——迷いは、情報が足りないときに起きる。
半分は、当たっている。
残りの半分が、違う。
情報が足りているのに迷うことがある。
むしろ、
よく見ている者ほど、迷う。
見ていない者は、迷わない。
だから、
迷いの数が減った理由は、二つある。
現場が落ち着いたか。
迷いを書かなくなったか。
この紙では、
その二つを見分けられない。
見分ける欄が、ないからだ。
「何か」
男が、こちらを見た。
視線が合った。
「いえ」
アークは、答えた。
男は、少し待った。
それから、視線を戻した。
礼儀正しい人間だった。
集まりが終わり、人が散る。
外に出ると、リーナが待っていた。
「言わなかったのね」
「ああ」
「言えばよかったのに」
「何を」
「数の読み方が、逆かもしれないって」
アークは、歩き出した。
リーナが、隣に並ぶ。
「言ったら、どうなる」
「直るかもしれないでしょ」
「誰が直す」
リーナは、答えなかった。
「あの男が直す」
アークは、続けた。
「俺の言葉で、あの男が直す」
「それの、何が悪いの」
「悪くない」
風が、少しだけ強い。
「だが、次に何かがおかしくなったとき」
アークは、前を見たまま言った。
「あの町の連中は、
俺のところに聞きに来るようになる」
リーナは、しばらく黙っていた。
「……相変わらず、
分かりにくいわね」
「そうだな」
「でも」
リーナは、足を止めた。
「その理屈だと」
「あなたは、
一生、何も言えないわ」
アークは、
返す言葉を持たなかった。
夕暮れの道に、
二人分の影が伸びている。
どちらも、
止まったままだった。
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