ため息3
「なんだか、変なんだよ」東条さんの友達の若田さんは本を読んでいて、東条さんをチラッと見ただけだった。
「なんだか、おかしいんだ」
「どうかしたの?」
「耳鳴りが聞こえる」
「耳鼻科に行ってきたら?」
「そうじゃない。あの言葉が耳に残っていて」
「それは耳じゃなくて頭に残ってるんだろう?」
「あいつに言われたことが聞こえる」
「あいつって?」
「真珠」
「ああ、占い師のお嬢さんだったっけ?」
「おかしいんだ。何度も聞こえるんだよ」
「それは重症だね」
「それに、何だか、こう、この辺りが」と、東条さんが胸の辺りに手を置いていて、
「ふーん、胸焼け?」と聞かれて、
「そうじゃなくて、酒じゃなくて、気分が何だか落ち着かないんだよ」
「珍しいな。お前はいつも明るく気にしない性質だったのに」
「分からない。何だか、この辺りに空洞があって」と手で円を作って見せていた。
「空洞?」若田さんが聞き返した。
「おかしい、どうしたんだろうな、俺」と東条さんが言ったら、若田さんが笑った。
「笑い事じゃないよ。こんなこと今までなかったのに」
「誰でも一度は経験することだと思うけど」
「誰でも?」
「そう。でも、珍しいね。尚毅はとっくの昔に経験していたと思ったよ。あれだけ女の子と付き合ってきたのにね」
「どういう意味だよ? 大体、俺はその辺のやつらが経験したと思えることはしてきている。そんなことは言うなよ」
「自信満々だね」と若田さんが笑った。
「でも、そうだね。多分、付き合う相手が変わってきたから、分かるようになったのかもしれないね」
「どういう意味だ?」
「そこにあるのが何なのか、尚毅なら分かると思うけど、あれだけ占いをしてきたんだし」
「見えないんだ。自分のことなのに占いもできない。どこか空虚で乾いた感覚が残って、相手の立場になって占えなくなってる」
「重症だな。でも、それに効く薬はたった一つしかないよ」
「薬?」
「そう、彼女に会ってくればいいんだよ」若田さんが笑ったら、東条さんが、
「もう、会ってくれそうもないよ」と寂しそうに言った。
「自分でも分かってるはずだよ。そこの当てはまるパズルのピースはたった一つしかないんだよ。彼女しかね」若田さんに言われて、東条さんが考えるようにしていた。