分からない男9
「今日、どこに行く予定だったんだ?」家に送ってもらいながら聞かれて、
「ちょっとね、知り合いに頼んで、色々と」
「ふーん、俺に言えないことか?」
「言う必要はないでしょ。あなたは赤の他人なんだし」
「恋人候補だろ」
「違います。あなたが勝手にそう思っているだけ」
「じゃあ、何で、今日、付き合ったんだよ?」見透かすような含むような顔でこっちを見ていたけれど、
「敵の実態を知りたかっただけ。ライバルでもないけど、占い師としてのあなたは興味があるからね。まだ、未知数だけど」
「計り知れないだろ?」
「分からない。あなたの占いって当るの?」
「当ると思えば、当る。当らないと思えば当らない」
「なによ、それ?」
「自分で確かめてみれば」と笑っていた。
家に着く直前に、
「これからデートなんでしょ」と聞いたら、
「いい勘してるんだな」と笑った。
「夕方からデートする前に時間が空いたから暇つぶしって訳なの?」
「楽しかっただろ」と平然と言い切った。つくづくおめでたい。自分と付き合える女は幸せだと思い込んでいる。
「あなたが良く分からない」家に着いて、車を降りてから、
「付き合えば分かるよ」と言い出した。
「絶対にありえない」と言ったら、そばに寄ってこようとしたので、
「やだ」とにらんだ。
「『楽しかったわ。ご馳走さまでした。また誘ってね』と、言えばいいものを」
「ない」
「じゃあな、俺は楽しかったよ」と、言いながら車に乗り込んで行ってしまった。
「呆れるなあ」
「お前のほうが呆れるだろ」怒った声がしたので、振り向いたら、神宮寺がお店から出てきて、
「え、いたの?」
「何がいたのだよ? 俺の誘いを断って、あんなやつと」とかなり怒っていたので、
「ごめん」と言ったけれど、
「呆れるよ。何が気軽にデートできないだよ。あいつと付き合ってるじゃないか」
「学園祭の打ち合わせ」
「言い訳はいいよ。あいつにだけは近づくなって言ってるだろ」
「神宮寺、変だよ?」いつもだと、そこまで怒らないのに、どうしたんだろう? と思った。
「お前は俺が心配したことも分かってないみたいだ。あいつと付き合うとろくなことにならないぞ。それぐらい分かれよ。俺がどれだけ心配してたか。携帯だって出てくれなくて」と言われて、慌てて、携帯を取り出した。電池切れだった。
「ごめん」と謝った。
「昨日、充電しようと思って疲れてそのまま寝ちゃったから」
「言い訳はいいよ。勝手にしろ」と帰ってしまった。