レンレン5
雪人さんのところに行って、また、話を聞いた。それから、彼の故郷の話になって、
「雪が多いからね。だから、みんなで助け合うところなんだよ。隣の家とはちょっとだけ離れているけれど」
「え、そうなんですか?」
「そこまで都会じゃないから」
「どこの出身でしたっけ?」
「秋田だよ」
「え?」と驚いた。
「どうしたの?」
「角館って知ってます?」
「もちろん、それほど離れてないからね」
「そうなんですか」と言ってから、
「旅行に行きたいと思ってるんです」
「旅行? お友達と?」
「いえ、父の滞在先を尋ねてみたくて」
「ああ」と雪人さんが、ちょっとだけ言葉に詰まっていたけれど、
「でも、お母さんと?」と聞かれて、
「いえ、母とではなく、親戚のところに行こうかと思って。宮城県なんです。仙台のほうで」
「ああ、あっちなんだね。そう、一人で行くの?」
「はい、その予定です。ただ、角館のほうにも足を伸ばしてみたくて」
「そう。でも、いつ行くの?」
「お金が溜まったら。春休みぐらいに」
「じゃあ、僕も向こうに行くだろうから、近くに来たら、寄って下さい」と言ってくれたので、
「はい、ぜひ」とお願いした。
「角館って、どんな感じでしょうか? あの辺りは」
「うーん、そうだね。落ち着いた感じかな」
「雪人さんは、家から大学院に通うんですか?」
「ああ、大学院は宮城のほうだよ。だから、家からは通わない。近くに下宿する予定だから」
「そうなんですか」
「今度は本に埋もれないところにしたいけれど、こっちよりは広い部屋を探したいね」と言ったので、今いる部屋を見た。家賃は安いと言われている。部屋は広くないし、使いづらい作りになっている。そのうち建て替えるつもりだと、大家さんが言っていたぐらい古くなっている。
「雪人さんは、真面目ですね。本も多いし」絶対に合コンなんて行かないだろうなと思えた。東条さんとは大違い。
「雪人さんの故郷ってどういう感じなんですか?」と聞いて、しばらく談笑していた。
家に戻ってから、
「あまり、あちらにご迷惑を掛けないようにね。それから、近所に噂になると困るから」と言ったので、雪人さんはドアを細めに開けて、誤解されないようにしていると教えたら、
「あら、まじめ」と驚いていた。
「東条さんと違うよ。優しいし、誠実で真面目。間違っても合コンばかりしないし、女遊びも派手じゃないし」
「そうでしょうけれど、でも、恋愛もしなさそうね」と言われてうなだれた。世間話ばかりで、恋愛には確かに発展しそうもない。告白はしたけれど、その後も変わらずに優しい笑顔で接してくれるけれど、確かに発展させにくい。デートに誘っても、何を話したらいいのか迷うかもしれないな。でも、そばにいられるだけで幸せな気分になれる。
「真珠には合ってないかもしれないけどね」と母に言われて、
「え、どうして?」と聞いたら、
「こっちの話」とごまかしていたけれど、携帯がマナーモードになっていて、
「あ、ごめん」と言ってから出た。
「さっきまでどこに行っていた」東条さんからで、
「どこって?」
「学校によったら、帰った後だと聞いたから、その後掛けたのにつながらなかった」何度か掛かってきたのは知っていたけれど、相手があの人だったので、雪人さんとのひと時を邪魔されたくなくて、電話を一旦切っていた。
「ああ、ちょっと、用事があって」
「誰と?」
「束縛」と言ったら、
「気になるだろ」と、勝手に怒っていた。
「リサーチ」
「ふーん、あいつのか? やめておけよ。絶対に無理。進展はありえないね。あいつ、デートなんて誘っても、『ごめん、レポートがあるから』って言うだけで、いつまでも実現しないタイプだろうし」どうして、分かったんだろう? 何度か、映画などに誘ってみたけれど、そうやって断られたことを。
「図星だ」黙っていたので分かったらしくて、
「うるさいわねえ」と怒った。
「ほらな、図星だ。俺って、どうしてこうも、女性心理が分かるんだろうなあ。俺のほうが絶対にお薦めだぞ。デートも相手に合わせてあげられる。会話だって途切れないし、楽しいぞ」
「そういうことは望んでない。あの人のそばにいられるだけで幸せなの」
「完全にのぼせ上がってるな、お前。それは自己満足であって、独り相撲じゃ、いつまでも続かないぞ」と言われて嫌な気分になり、
「さようなら」とわざと言って切った。
「あ、おい。その言葉だけは使うなとあれほど、切れてるよ」相手が呆れているのは、私は知らなかった。
「東条さん?」母に聞かれて、
「マメだね、あの人。ホストみたい」
「ほっときなさい。あなたが落ちるまでやるだけよ。落ちたら、飽きてしまうかもしれないしね」
「そういうものなの?」
「狙って落ちるまでが楽しいってタイプの男性もいるわよ。そういう人はマメだし、積極的だけれど、女性のことを楽しませることはできても、長くは続かないかもしれないわね。真珠とは話は合いそうだけれど、父親のことを思うとやはり反対だわ」
「お母さん、一緒にするのはやめた方がいいよ。東条さんは、違う人格みたいだよ。父親のことは好きじゃないみたい。何だか、聞くと嫌がるの」
「そう、そうだけれどね。今も許してないから、こだわってしまうんでしょうね」
「未練?」
「まさか、怒りよ。怒りって、一旦収まっても、後でぶり返すこともあるのよ。同業者だと特に」なるほど、向こうのほうが売れているのが面白くないんだなと思って、そこから逃げた。




