インフルエンザ3
怜奈ちゃんに報告したら、
「自己満足して、どうするのよ。もっと、強く誘わないと。まんざらでもなかったかもしれないのに」と怒られたけれど、
「いいの。やっと言えたから」」
「もう、そういうところはあっさりしてるね。相手が好きなら手に入れたいでしょうに」
「いいの。雪人さんが笑っていてくれるのが一番うれしいの」
「恋に恋してるって感じだね。がんばればいいのに」
「でも、決心がついた。ちゃんとお父さんを探す」
「あれ、どうしたの?」
「バイト代が溜まったら、春休みぐらいに行くことに決めた」
「そう。雪人さんのほうはいいの?」
「お父さんのこともちゃんと決着付けておかないといけないと思ったからね」
「そう」怜奈ちゃんはそれ以上聞かなかったけれど、東条さんから母が無理していると聞いてからは、けじめの儀式として父の最期の滞在先に行って、気持ちの整理をしようと決めた。
「雪人さんの地元ってどこ?」
「東北」
「のどこよ?」と聞かれて、そう言えば聞いてないなと思った。
「お父さんの滞在先の近くなら家に泊めてもらったら」
「え?」とちょっとうれしくなって、
「そんな、いきなり」
「それぐらい積極的に行きなさいよ。最後のチャンスだと思って」
「ははは、無理だよ。どこの人か知らないもの」
「もっといっぱい話しかけておけばいいのにね」怜奈ちゃんが呆れて見てきて、笑ってごまかした。
本屋に寄って地図やガイドブックを調べていたら、電話が掛かってきた。
「また、あなたなの?」と移動しながら言ったら、
「第一声がそれかよ。呆れるなあ。全然かわいくない」と、東条さんがぼやいていた。
「せっかくの気分が」
「気分?」
「こっちのこと。それよりなに?」
「もっと優しく言えよ。つくづくかわいくないな」
「じゃあ、掛けてこないで」
「お前は落ち込んでいたほうがしおらしくていいよな。元気を取り戻すと途端にそれだな」
「切るよ。今、本屋だから」
「何か買うのか? 占いなら俺が教えてやるし、恋愛なら実践で俺が教えて」と言い出して遮った。
「ちょっと下調べ。それより何よ」
「下調べって?」
「旅行するかもしれないから、気分だけでも味わおうと思って」
「旅行? どこに?」
「内緒。それより用事が無いなら切るよ」
「お前、冷たい。まあ、いいや。この間の子が持ってたお守り覚えてるか?」
「さあ、何か持っていたなって、程度」
「大雑把なやつ。あのお守り、変だと思わなかったか?」
「知らない。なに?」
「お前の母親は知らないのか? ちょっと噂が出てるよ。ある占い師が『秘められたパワーを発揮する』とか、何だかすごい前置きで買わせているみたいだな。それなりに高いみたいだけど、効き目があるかもしれないからとお客が買っていくらしくて」
「あなたのところでも売ってるでしょ」
「お前のところに置いてある物と同じぐらいの価格設定だよ。オリジナルのものもいくつかあるしね。そうじゃなくて、あのお守り、縁切りとか、復縁とか、それから、ちょっと怖い系もあるみたいだからな。気をつけたほうがいいかと思ってね」
「なにそれ?」
「『聖水』って言ってただろ。俺もそこまで知らなくて同僚の人に話を聞いて、お客さんが、その『聖水』って言うのも買わされたらしいんだよ。プロキオンに来てる客もうれしそうに話していた人がいるらしい。ご利益があるからと」
「ふーん、それで?」
「お前のところにも来たら注意しろよ」
「それだけのために電話してきたの」
「当たり前だろ。それに川尻のこともあるからな」
「ああ、あの人ね。ニュースを見るのも何だか嫌でチャンネル変えちゃうから知らないし」
「それでいいさ。何かあったら言えよ」
「ありがと」
「じゃあな」マメだなあと思いながら、携帯をしまった。強引で雪人さんと正反対の性格かも知れないなと思った。




