森、林2
「そこまで盛らなくても」東条さんが呆れるぐらい、母はお皿に塩盛っていた。しかも見える位置に。
「あー、波長が悪くて、嫌だったわ。穢れる」と母が怒っていた。
「波長ですか」東条さんがため息をついていて、
「あなたは良く付き合えるわね。私、一分だって一緒にいられない。ああいう人は絶対に占えないわ。気分が悪くなるのは当然ね。私も同じ場所で息を吸いたくないぐらいだったもの」
「おかあさん」と言ってから、私もため息をついた。私も同じだった。
「すみません。僕のせいで」東条さんが頭を下げていたけれど、お店にあったテレビでニュースを見たいと提案されて、そっちに移動した。ニュースでは、川尻さんのお父さんの会社が映し出されて、その前で記者がどういう容疑なのかを説明していた。
「良く分からない」と私が言ったら、東条さんが説明してくれた。政治家と川尻さんのお父さんの会社で贈収賄の疑いがあり、その件で取調べを受けているという。
「政治家の秘書の名前が『林』と聞いて、俺もさすがに怖くなった。お前はやっぱりすごいな」と、東条さんに言われて、
「人の名前なんだろうか?」と口に出しながら考えていた。
「森さんがいたら、確実だろ」東条さんに言われたけれど、
「そこまで悩まなくてもいいわよ。森さんも林さんもありふれた名前、偶然よ」と母が言って、
「いえ、僕には偶然には思えません」東条さんが引き下がらなかったけれど、
「疲れたでしょう。休みなさい」と母が言ったので、
「あ、でも家事が」と言ったら、
「ゆっくりでいいわ」と言われて、
「じゃあ、そうする」と奥に行った。
「なぜ? 真珠さんに聞かせたくないことでもあるんですか?」私がいなくなった後、東条さんが母に聞いた。
「あの子は、あなたが思っているような子じゃないわ」
「どういう意味ですか?」
「あの子のことに興味を持つのはいいけれど、あの子はあなたとは違う。繊細な子なのよ。だから、本当は近づかないでほしいのが本音よ」
「でも、彼女はすぐに元気に」と、東条さんが言いかけたら、母が遮るように、
「違うのよ。真珠はあなたが思っているような霊感少女じゃないわ」と強めに言った。
「どういう意味ですか?」
「あの子の能力が分かりやすくなったのは、割と最近なの。中学の3年生からだから」東条さんがしばらく黙った後、
「お父さんが行方不明になったからですか?」と聞いて、
「すみません」と謝った。母がにらんでいたからだ。
「お父さんのことは真珠さんから聞きました。彼女の霊感は生まれつきじゃないってことですか?」
「生まれつきと言われたら、いつぐらいかは分からない。ただ、今のように強くなったのがそれからなのよ。それまではそこまでじゃなかった。ただ、占いは当たることが多かったみたいね。その前からね」
「だったら」
「さっきの人のようなことはそれまでは無かったのよ。言葉が浮かぶなんてことはね」
「言葉?」
「興味本位だったら、離れてほしいの。真珠はあなたとは違いすぎる。将来占い師になることも私は反対なの。あの子には幸せになってもらいたいから。占い師をするとああいう悪い『気』を持った人にも出会う。それはかなり大変だからね」
「でも、彼女は占い師を目指して」
「父親を探すためよ。旅費を稼ぐためと、お父さんを探すために占い師として一人前になりたいんだと思うから」
「え?」東条さんが母を見てから、
「でも……」と言ってためらっていて、
「必ずしもいい結果になるとは限らないから。あの子には父親のことは忘れて、幸せになってもらいたいけれど、こだわっているみたいだからね。だから、興味本位で近づかないでほしい」母に頼まれて、東条さんがそれ以上言えなくなっていた。
「川尻のことで何かあったら、また、連絡してください」しばらくしてから、東条さんが言って、
「できれば、真珠のことはそっとしておいて。川尻さんのこともあなたが監視しておいてほしいわ。あなたと関わらなければこんなことには」と母が言いかけて、
「ごめんなさい。八つ当たりね。あなたはあの人と違うものね」と母が訂正していて、
「川尻のことですか? それとも、父の……」
「お父さんのことがあるから、真珠には同じ目に合わせたくないの。だから、分かって」母に頼まれて、
「真珠さんを傷つけるつもりはありません。確かに最初は興味本位で近づいたのは認めます。でも、今は違います」東条さんが強く言ったために、母がため息をついてから、
「あなたのそういうところを見ていると、思い出してしょうがないわ。そうやって強く言い切るところがそっくりね。あの人は相手を振り回しているのに気づかない。あなたも同じ。あの子は明るく振舞ってはいるけれど、強気な人には合わせてしまうところがあるから、心配なの。あなたは父親に似て相手を振り回してしまう。あの子が合わせるのは無理よ。年が違うし、家柄も考え方も違う」
「僕はそうは思いません。違うからこそ、惹かれると思うから」東条さんが言い返して、
「強気ね。そういう部分がそっくり。だから、女性にもモテる。でも、真珠にはそういう人は近づいてほしくないのよ」
「女性との付き合いは最低限で抑えることにしました。真珠さんに言われたので、そうしています。彼女は嫌がっていたから。彼女に色々と指摘されました。今まで注意してくれる人はいたけれど、僕はそういうのを聞き流していた。でも、彼女だと、グサッと胸に刺さるから、直そうと思って努力しているつもりです」
「あなたが努力しても、あの子はあなたを好きにならないかもしれないわよ」
「知っています。雪人さんという人のことでしょう。でも、彼女はあこがれているだけだ。相手のことは何も知らないだろうから、知ったら違ってくる」
「そうかもしれないわね。でも、あの子、熱を出して寝ていたの。元気が無くなって、占いもできない。あの子は恋愛をしたら占いはできなくなるでしょうね。あなたにとっては必要が無くなるかもしれないわ。それでも好きでいられる?」と母に聞かれて、東条さんが考えていて、
「わかりません」としばらくしてから答えていて、母がため息をついていた。




