それぞれの育ち方4
「いつからだ?」かなり経ってから聞かれて、
「中学のとき」と答えた。
「そうか」
「お母さんもおねえちゃんも諦めてる。『何か理由があるはずだから』と母は言いながら、どこかで諦めているの。でも、私は諦めたくないの」
「どうして?」と聞かれても言えなくて、
「父親が家出するなら、かなりの理由だろ。お母さんが諦めているのなら、理由を薄々知っていて隠しているんじゃないのか?」
「違う。お母さんは、多分……」と言ってから言えなくて黙っていた。
「もう、かなり経っているよな。それで、諦めたくないと思い続けるのは辛いだろ」と聞かれてうつむいた。
「父親のことは諦めたほうがいいのかもしれないな。俺もそう思うよ。お母さんが一番辛いはずなのに、娘のためにあえて、気丈に振舞っていると思う」と東条さんに言われて、驚いて彼を見た。東条さんがうなずいた。
「お前たちのためにそうしているんだよ。自分がお前たちを守らないといけないと覚悟をしている。だから、そう言うんだよ。生活していかないといけないからな。前に家族のことでお前と似たような相談に来た人の話を聞いたことがあるよ。その人に『なんて声をかけていいかわからない』と答えていた占い師がいたよ。どんな言葉も慰めにはならないからな。でも、生きていかなければいけないとだけは伝えたそうだ」
「そう」
「お前が諦めないと母親が辛いと思う。だから、あまり考えないほうがいい。待つのはお前の自由だ。でも、それを母親の前には出さないほうが、俺はいいと思う」
「そうだね、そうやって考えていなかった」と言ってしばらく考えていた。
「どうして分かったの?」東条さんに聞いた。
「なにが?」
「お母さんのこと。私、そういうのは気づかなかった。お母さんが私たちのために無理してるってこと」
「別に気づかないのが普通だろ。中学生なら、そんなに余裕がないだろう?」優しく言ってくれて、何だか涙が出てきて、
「お前」と言った後、車を路肩に止めていて、ハンドタオルを渡してきた。
「大丈夫」と言ったけれど、手を引っ込めなかったので、それを借りた。
「ブランド物じゃないんだね。珍しい」
「もらい物だよ。女性から、そういうプレゼントはいくらでももらうから」
「せっかく見直しても、すぐそれだ」
「客商売だから、そういう部分で気を使わないといけない。全く使わずに捨てるのは一番嫌がられるだろうし」
「そう」
「お前にもファンができたらそうしてみろよ」
「ファン? 男性の?」
「テレビなどに出たらできるかもよ」
「出るつもりはないよ」
「なんで?」
「母に止められた。素顔で出るのはやめたほうがいいって」
「ふーん、なんでだろうな」
「多分、そのまま結婚してほしいからだと思う。職業にしてほしくないみたいなことを言っていたから」
「せっかくの才能をもったいない」
「才能なんてないよ」
「お前は分かってないな。あれだけ会場に来ていて、俺の目に留まったのはお前だけだぞ」
「なにが?」
「サバトだよ。みんな、何度もチャレンジしているようなセミプロだ。でも、お前だけ違ってた。荒削りだし、どうしようもないところがあるのに、お前だけは無難なことは言わなかった」
「無難?」
「ああいうときは型にはまりすぎてる人も多いし、反対に突拍子のないことばかり言ってアピールをしてくる人もたまにいるけれど、お前だけは違ってたからな。印象に残って」
「なにを?」
「自分で考えろよ」
「そう言われても、自信が無いよ」
「それは経験不足だからだろう。数こなせば慣れるさ」
「そう言われても」
「セミプロとしてやるつもりなら、もっと人が集まるようなところに弟子入りしたら」
「無理。そういうところって、まず教室に通ったりするでしょう。お金がないし」
「だから、橋添さんか。あそこはカウンセリング能力は優れていると思うし、人生経験も豊富だから、色々と相談しやすいと思う。ただ、数が少なすぎる。練習を積むには物足りないはずだ」
「カウンセリング能力?」
「それも必要だと思う。相手の悩みを聞くためには、そういう部分も考えていかないと」
「どうやって?」
「俺は本で読んだり、人に聞いたりはしてみたよ。お前の場合は実際に現場を見たほうが早いと思う」
「現場」
「そう。相手から話を聞きだすにはそういう部分も磨いていかないと。相手が自分から積極的に話してくれる人とは限らないからね。それをこちらから色々働きかけて、心を開いてもらわないと、満足して帰ってもらうにはそういう部分も考えろよ」
「はあ」
「ゆっくり考えろ。お前はどういう占い師になりたいかをね」
「あなたは考えているの?」
「自分の特性は最大に生かしているつもりだ」
「特性?」東条さんの顔をじっと見た。
「色々あるだろ」
「さあ、なんだろ。あなた、占い師としてどうなの?」
「俺のこと、どういう目で見てるんだよ。これだけ話してきて、何度か占い師としても見てきているだろうに」
「良く分からない。カードの解釈はやんわりソフト、明るい前向きな言葉に変えているのは分かるけど」
「相手に合わせて話しているつもりだ。真珠ちゃん、それだと、まだまだだぞ。もっと、他の人の占いも観察しろよ。自分でできそうな部分を真似するとか参考にするぐらいの気持ちはないのか」と言われて、考えていた。母の占いはそれほど間近で見ることはあまりない。お客さんがいると飲み物を出すぐらいで、母が占っているところに近づくと怒られる。占いを始めたのもいつの間にか始めていて、注意してくれるけど、それもそこまで口うるさくいわれたことはなかった。
「あなたは親の占いを見たことはあるの?」
「そばに付けさせられたよ。それに、ことあるごとに色々と教えてくれたぞ。女性の扱い、挨拶、言葉の選び方とか。相手がどう言ったら喜んでくれて、また、来てくれるかってことを一番教えられたかも」
「ホストみたいだね」
「違う」
「でも、相手が喜んでというところが、ちょっと驚く」
「客商売だから当たり前」
「相手が借金で首が回らないとか、夫に愛人ができたりした場合は?」
「その辺もソフトに対応。相手を怒らせないように」
「母と違うんだ。母ははっきり教えていたよ。弁護士に相談しろって怒ってた時が一度あった」
「なんだよ、それ?」
「色々あったんだと思う。後で聞いても教えてくれなかったけれど、方針が違うんだね」
「俺のところとお前のところの客層と客の数の違いだろうな」
「それだけ?」
「親父は占いで有名になりたいって意識が強いから。本もいっぱい書いてるし、そういうのが大事かもな。俺は好きになれないところがあるけどな」
「ふーん、仲はいいの?」
「いや。親父は俺のことに口出すのは占い関係だけ。学校のことは無関心」
「え?」と驚いた。
「両親が仕事を優先してるから、それが普通でね」
「寂しくないの?」と聞いたら黙ってしまい、
「ごめん」と謝った。
「親や兄弟でも仲がそれほどじゃないって言うのはあるだろ。お前もお姉さんと会話してるか?」
「姉は嫌がるよ。芸能人の話とか友達と長電話して、母とけんかしてばかりいたし。それに、私や父とはほとんど話さなかった。食事の内容で文句を言われたり、アイロンをかけていないと怒ったり」
「自分で、やるわけは……ないか」と尚毅が、考えながら自分で答えを出していて、
「あの人は無理だよ。文句ばかり言われて、聞き流すのが大変。こっちが怒ると反対に文句言われるから泣き寝入り」
「俺の一番苦手なタイプだな。やっぱり当たりそうだ」
「なにが?」
「俺の占い」と言われて、
「姉のときってどう言っていたっけ?」と聞いたら、
「お前のほうがいっぱい縁があるだろうな、きっと」と言われてしまい、
「だって、お姉ちゃんは綺麗だよ。私とは違うと思っているみたいで、私はそばにいないでほしいって言ってた。何度も見た目などで駄目だしされるし。髪型とか服装とか気を使わないからって」
「あの人のほうが服装より気持ちに気を使ったほうが俺はいいと思うけど。ただ、真珠ももっと服装に気を使えよ。今はまだいいけど、高校卒業したら化粧もしたほうがいいし、服装もそれなりに気を使えよ。お客はしっかり見てくるからな」
「そういうものなの?」
「親父にそう、注意されて育ったんだよ。親父は見栄っ張りだから」
「あなたも同じでしょ」
「両親がそうだから、自然とそうなってるかもな。でも、彼女にはそういう部分は求めてなかったんだろうな、俺」と言われて東条さんをじっと見てしまった。




