それぞれの育ち方2
「何が苦手だ」東条さんがお店を出てからぼやいていた。車を走らせた後も、
「マイク握りっぱなしで、上手じゃないか。俺のラブソングは聞きもしないし」と怒っていて、
「だって、名前を入れ替えて歌われると、引くよ。ああいうのって、人によって反応が違うから。私には無理だよ」
「お前はロマンチストじゃないなあ」
「片思いが長かったから、ロマンチストなの」
「勇気がないくせに」
「違う。紹介できないのは嫌で」と思わず言い返してやめた。
「紹介?」東条さんに聞かれても、
「どうでもいいでしょ」と言ってごまかした。
「でも、元気が出たみたいで安心した。また、行こうぜ」
「えー、ちょっと困る。東条さんはライバルだしね」
「お前が元気がないと俺も元気がなくなるの。真珠は俺の女神だと言っただろ」
「キザ」
「実際にそうなんだよ。俺も占いができなくなったからな。おまえのせいで」
「この間もそう言ってたけれど、意味不明でしょ。私と何の関係があるの」
「好きだからだろうな」と言われてしまい、むせてしまった。
「ナルシストが良く言うよ」
「ナルシストじゃないよ。俺だって、女性は好きだし、そこまでうぬぼれては……いるか」自分で言って、自分で納得していた。
「おめでたい男」
「初めてなんだろうな。真珠は俺の運命の女性だろう」
「ないです。東条さんはただのライバル」
「いい加減。尚毅と呼んでくれ」
「今は無理。そのうち、考えておく」と、笑った。
「他人行儀でよそよそしいからな。ライバルにしても恋人になるにしても」
「そう言われても、あなたは年が離れているし」
「誕生日には何くれる?」といきなり聞いてきて、
「あれ以上何がいると言うのよ」とにらんだ。
「あれって?」
「私の大事なものを奪ったくせに」
「ああ、あれね。いいだろ、あれぐらい」
「軽く言うんじゃない。あなたとは違う」
「真珠ちゃんは堅いねえ」
「軽すぎるのよ、そっちが」
「友達を見習えよ。彼女はデートの数は多いんだろ。神宮寺のほうも」
「良く分かるね」
「人間観察が趣味。占い師だから」
「デートの数が多いだけでしょ」
「観察しておかないと困るだろ。相手が嫌がることはできるだけ避けたほうがいいだろ」
「散々、私に言っておきながら」
「お前だとつい言ってしまうんだよ。それだけ相性がいい」
「逆、悪いの」
「いいんだよ。ここまで言い合える女性に出会えたことがない」
「あまり付きまとわないでよ」
「知りたくなったから」
「知らなくてもいいでしょ。あなたのお父さんが連れているようなお金持ちの女性と付き合ったほうが時間が無駄にならなくていいよ」
「そういうことは言うな」
「だったら、どうして付きまとうのよ」
「女性心理を一から知りたくなったから」
「は?」
「お前の言うとおり、女性が喜びそうな言葉を並べていただけ。扱いは上手になったかもしれないけど、その後、踏み込んでないから薄っぺらいんだろ。だったら、踏み込んでみようかと思ってね」
「他の相手でいいじゃない」
「お前は珍しいタイプだからね。俺に言い過ぎるから。今まで、そんな女はそばにいなかった」
「学校とかならいるんじゃないの?」
「学校でそばにいるのはいつも同じタイプ。ファンクラブはあったけど、そこまで深く付き合ってないし」
「ファンクラブ?」
「俺はモテるからね」
「自信過剰」
「自信もない女に言われたくないね」
「あなただけはイライラするから無理」
「正反対のタイプだからだろ。しばらくすれば慣れるさ」
「どういう意味よ?」
「占いのアプローチと同じ。広く浅く知識を持って占う俺と、人の本質を見て直感で占うお前との違い」
「どうせ、霊感占いだけの域ですよ」
「でも、それが一番大事なのかも」
「どうして?」
「占いの接客技術を磨いても、その後が問題だってことだよ。相談者が喜びそうな言葉とか、そういうのはいくらでも思い浮かべても、勘が悪かったら、当たり障りのない程度しか言えなくなる。お前の場合は相談者が思ってもみないところをついてくる」
「そう?」
「親父は女性心理には強くても、誰に取り入ったらいいかとかそういう要領の良さはあっても、占い師としてはどれぐらいの力量なのかって思う。薄っぺらいつながりならそれでもいいさ。でも、一歩踏み込んだところで、相手に信用されないから。『あなたは薄っぺらいわ』昔、付き合っていた女に言われたらしい」と言ったので驚いた。母が同じようなことを言っていたからだ。
「それって」
「相手の女のことは、よほど印象に残ってるんだろうな。それで、珍しくそういうことを口にしていた。女性のことはあまり言わないようにしてるからな。誰かに聞かれたら、しらけるだろうし」
「どうして?」
「女性客が相手だから。『女性にモテないと商売にならない』親父の口癖だから」
「そう言われても、よく分からない」
「親父も同じだよ。男性の相談客は常連にならない。信用されなくなるみたいだから。女とは評価する部分が違う。なんとなくの占い結果で満足しないからな。お前のほうが満足されるかもな。技術はまだまだだけど」
「そう言われても」
「恋愛のことは分かっても、人間のことは分かってないだろ。いつも、似たようなタイプとだけ、つながってるから、それ以外の人間は不得意なんだろうな」
「うーん」と考えていたら笑っていた。
「笑わないでよ」
「付き合ってくれたら考えるよ」
「無理。世界中であなたが一番付き合うことが想像できない」と言ったら、意味深に笑った。




