価値観の違い4
「誕生日か?」と聞かれて、
「そういうようなものだから」とごまかしたら、
「俺もお祝いしてくれ」と言ったので、
「あなたも誕生日なの?」と聞いたら、いつの間にか顔が近くにあって、すばやくキスされてしまい、
「きゃあ」と慌てて突き飛ばそうとして、無理やり抱きしめてきて、意外と強い力で、離してくれなくて、離れたときに、
「嫌」と、にらんだ。
「ごめん」東条さんが謝ったけれど、
「許せない」ファーストキスだって奪われて、何でこんなやつに。と思った。
「ごめん」と言った顔が寂しそうで意外だった。
「どうかしたの? そんな顔をして」と言ったら、
「お前の言うとおりだよ。俺は本当の恋愛なんてできないのかもな」
「どういう意味?」
「母親は男を作って、家を出て行った。あのビルは母親の持ち物だ。親父には金なんてなかった。母の人脈で今の地位に上り詰めた。あのビルは母親所有のままだけど、二人は俺が小さいころに離婚したからな」
「え、あ、ごめん」
「お前の言うとおり、女性不審なところがある。どこかで恋愛を馬鹿にしてる。俺の占いを聞きに来て、相手が満足しそうな言葉を並べていただけだったかも。軽い恋愛相談ばかりだからじっくり占ったことなんてないよ。この間が初めてかもな」
「この間?」
「お前を占ったときだよ」
「え、だって、初恋は実らないと」
「そう出たんだよ。お前の初恋は実らないってね」そんな……うつむいていたら、
「言わないほうが良かったようだな。じゃあ、信じなくてもいい」
「占いに頼る気持ちがあるからいけないと、男子に言われたことがあったけれど、恋愛に悩むとそういう部分も依存したくなると思う。ファッション感覚で気軽に楽しむ人もいるかもしれないけど、でも、私は」
「俺はそれも分かってなかった。行列で並ぶ、その後やっと占ってもらえる。値段が高かったり、行列が長かったりすると期待感が違う。そして、それほどでもなくても、自分でよかったと思いたい心理が生まれるからな。だから、俺の占いには苦情が少なかったのかもな。たまに、変な人が来ても、おかしな客だと相手のせいにしてた。お前の言うとおりだよ。他のライバルができたら、そちらに行ってしまう」
「どうかしたの?」
「雑誌に取り上げられた占い師がいて、そっちに流れたよ。ちょっとショックだったからな」
「え、そうなの?」
「疎いな。それぐらい把握しておけよ」
「だって」
「お前の言うとおりだ。同性がいないってことに危機感を感じてなかった。親父のやり方を見てきたからな。今じゃ、金持ちしか占ってない。しかも、女性が多くて。若い子は自分の弟子に占わせて、その弟子も気に入らなければ首にして終わり。ネームバリューがあるから弟子にしてほしいって人はいくらでも来るから」
「そう」
「お前のところにさえ、負けてるのかもな」
「上から目線だね、そういう言い方はやめてよ」
「俺はこうやって生きてきたからな」
「価値観を変えたらいいだけでしょ。今日からね」
「そこまで切り替えが早くないさ」
「そう?」
「お前はあっけらかんとしてるな。価値観が出来上がってないから言える言葉だ」
「どうせ、子供だって言うんでしょ」
「子供にキスするかよ」
「おふざけの癖に」
「この間のはそうだ。今日は違う」
「あなたの場合は分かりづらい」
「あの人のことをうれしそうにするから、面白くなくてね」
「だからって、しないでよ」
「したかったから」
「したかったからって、するものなの? 相手の同意も得ずに」
「女って結構、強引なのに弱いだろ。お前のように突き飛ばす女は少ないし」
「はいはい。いったい、何人に同じ手を使ってきたの?」
「それなりしかいない。それほどじゃない子はキスは別の場所にするし」
「呆れるなあ。完全にホストじゃない」
「違うよ。そうすると喜ぶ子が多いからね。食事のお礼」
「嘘ばっかり」
「信じてくれよ」
「いや、絶対に信じられない」
「どうしたら、信じてくれる」
「とりあえず、買い物があるから、これで」
「あの人のプレゼントを選ぶのか?」
「合格祝い」
「なんだよ、それ」
「どうでもいいでしょ。さようなら」
「やめてくれ」と東条さんが慌てて言ったので、車から降りようとしてやめて、東条さんを見た。
「何で、そんな慌てるのよ」
「それを言うのはやめてくれ。胸が痛くなる」
「はあ?」
「二度と言わないでくれ。なんだか、こう、グサっと来るんだよ。お前に言われると」
「何か言ったっけ?」
「『さようなら』って言葉」
「挨拶でしょ」
「お前に言われると堪えるんだよ。二度と会えなくなりそうで怖くて」
「はあ?」と東条さんを見てしまった。
「じゃあ、なんて言えばいいの?」
「今日は楽しかったわ、また、誘ってね」
「ない」と即答したら東条さんににらまれてしまった。




