気分転換4
「ちょっと困る」と言っていたけれど、美容師の男性が私の髪を軽くカットした後セットしてくれて、
「かわいらしい人ですねえ。尚毅さんも、やるわねえ」口調が柔らかく中世的な雰囲気の人だった。
「ちゃんとお手入れしてくださいねえ。眉毛も手入れをしたほうがいいわ。かわいいのに」と言われて、苦笑いした。ちょっと不思議な雰囲気の人だった。
「やっぱり似合う。かわいい」車に乗ってから、東条さんが何度もこっちを見てはそう言っていた。あの時とは長さが違うけれど、髪を軽くカールさせていて、かわいらしい感じになっていた。軽いメイクまでしてもらったので、東条さんはうれしそうだった。
「事故ると困る。前を見る」と注意したら、
「お前、年下の癖に時々、そうやって言うよな」
「年上だったら、もっとちゃんとしてよ」
「してるよ」
「あなたの場合は、まだまだね」
「俺の口癖を取るな」
「言われたくなかったら、あなたも言うのをやめてよ」
「お前だとつい言ってしまうからなあ。他の女性と喧嘩もしたことがないのに。どうしてだろうな」
「へえ、クラスの女子と喧嘩ぐらいするでしょ」
「俺、人気あったから」
「はいはい」
「お前もそういう態度だろ。神宮寺とも、それなのか?」
「さあ、彼はあなたと違って、失礼なことは言わないよ。人が嫌がるようなことはしないよ。女子にも人気あるし」
「へえ、あれで。確かに運動神経も頭もそれなりに良さそうだな。ちょっと、武士系だけれど」確かにライトで明るい東条さんと違って、神宮寺は肌も浅黒く、見た目も無骨と言うか眉毛も太めで武士って言われたら、そう見えなくもないけど、
「ナンパ師とは違うだけ。そう言えば、あなた、武道か何かやってる?」
「いや」
「だって、神宮寺を撃退してたじゃない」
「ああ、あれね。誘拐避け」
「は?」と驚いた。
「家の人が送り迎えしてくれるような家なら別だけど、俺は狙われたことがあったから、それで護身術を一時期だけ習わされただけだよ。結構、そういうのはみんな気をつけてる」
「はあ」
「なんだよ?」
「何だか、ちょっと驚いた。へえ、そういうのを習うんだ」
「全部が全部じゃない。俺は事情があってね」
「事情?」と聞いたら、ちょっとだけ嫌な顔をしていたので、
「ごめん」と謝った。
「色々あったからな。お前と同じだ。お前のところも父親が家事をしてるから言われるだろ」
「確かに、色々言われたけれど、でも、私は別のことで言われたことがあるし。母が占いをしているから、それで誤解はされた」
「ああ、それね。プロ野球の今年の優勝チームを当ててみろってやつだろ」
「何で分かるの?」
「俺もやらされそうになるからな。でも、当たり障りないことを言ってごまかす」
「どうやって?」
「今日は日が悪いとか、カードが嫌がってるからとか」
「それでもしつこい男子がいるでしょ」
「そういうときは、選手の誰かが故障したらとか監督が途中で変わったらとか、色々並べておいて、どうとでも取れそうな感じにしておく。当らないと後でうるさいからな。しっかり覚えて、後で言ってくるやつが中にいるし」
「似たような苦労はしてるね」
「そうだろ。だから、付き合ったら楽しいよ」
「楽しくない」
「お前の場合は素直じゃないなあ。ステージ前の時が一番かわいかったな」
「うるさいの。あれだけ大勢集まってたら怖いよ」
「そう言えば、お客は増えたか?」
「問い合わせがかなりあったよ。ただね、別の件で人が増えた」
「別件って、なんだ?」
「難癖つけて代金を払わないことで有名な親子がいたの。その子供が私のところに来て、同じことをしようとしたら、母がきっぱり言って料金を払ってもらったの。それで、お客が増えた」
「どうして、そうなるんだよ?」
「似たような被害にあったことがあるんじゃないかと、秋さんが教えてくれた。それで同調してくれたんだろうって」
「なるほどな、却って宣伝になったというわけか。普通はそういうごたごたは嫌がられるから、避けるけどな」
「プロキオンはそうなの?」
「粗品を渡して、飲み物をご馳走して、なだめて帰ってもらう。でも、相手のほうが悪いケースの場合は二度と来ないように次からは断るし」
「へえ、そうなんだ」
「そのほうがいいんだよ。どちらが悪いかどうかは当事者同士しか分からない。だから、訴訟とか起こされると、やっかいだからね。お客様は訴訟を抱えていると言うだけでイメージを悪く取る人もいるから、客が離れてしまうことがあるから。次から気をつけろよ」
「そうなんだ」
「評判が悪くなると困るから、苦情担当係がいるんだよ。奥の部屋に連れて行って、何とかなだめる。品物を受け取ったら、それで相手も気分を変えてくれることがあるからね。飲み物を出すのもそのためだ、気分を落ち着かせるため」
「そう。うちでもそうしたほうが良かったかな」
「いや、その子の場合は微妙だぞ。次から味をしめて、何度もそれ目当てにやってきそうだから」うーん、やっぱり同じことを言う。
「そう」
「気をつけろよ」
「分かった」
「ちょっと心配だな」
「もう、学祭は終わった」
「お前の場合は半人前にもなってないから心配なんだよ」
「あっそ。どうせ、一人前にすぐ手が届きそうな人とは違う」
「がんばれよ」
「見下してるわね。見直したと思ったら、すぐそれだ」
「いいだろ、本当のことだ。あの店と俺の店では客の数が違うだろ。まだ、数年は掛かるね。俺のところに来たらもっと早いだろうけれど」
「一番言われたくないことを言う。あなた、ひょっとして」
「なんだよ?」
「本当の恋愛なんてしたことがないでしょ」
「したことはあるよ。ただ、どこかでセーブはしてたかもしれないけど」
「トラウマでもあるんじゃないの。恋愛のようなことはしてても、相手の女性が何を望んでいるか分かってないんだわ。デートを重ねたってね、あなたは相手の立場になっているようで、本当の気持ちなんて分かってない。資料集めしてるだけじゃない。少なくとも相手が好きだったらね、セーブするなんて中途半端なことはしない。雪人さんなら、絶対にできないもの」
「お前には人のことは言えない。憧れと恋を勘違いしてる典型的な例だろ。相手を神格化してるんだよ。お前のほうが分かってないな。男なんて女と一緒にいるのは、自分の欲望を満たすためだけだよ。女だって、男が金を持ってたり、みんなが注目している男を捕まえて、周りに自分を顕示したいから一緒にいるだけだろ」
「ゆがんでる。あなたはゆがみすぎ。一度、本当の恋愛をしてから占いなさいよ。あなたと恋人になりたいとか、あなたの表面だけを見てあこがれている人は何度か来るかもしれないけど、本当に悩んでいる人はあなたのところには行かなくなるんだろうね」
「何が言いたい」
「そう思っただけ。お洒落で綺麗なビルの一室で行列に並んで占ってもらって、おしゃれな感じだから喜んで帰っていく。行列に並んでいるだけで、流行のスポットに来たことで、すでに満足感がある人たちを占って、他に注目される人が出たら、そっちに行くだけでしょ。あなたより見た目が良くって、あなたより注目されている人がいたら、そっちに走るでしょうね。せいぜい、今からいっぱい取り巻きを増やしておけばいいでしょ。そのうち来なくなるわよ」
「お前の店と一緒にするな」
「お母さんのところにはお年よりも来るもの、あそこは女性しかいない。男性に指示されてないところで本質が見える」そう言ったら、珍しく東条さんが黙った。さすがに何も言えなくて、
「ごめん、言いすぎた」と、しばらくしてから謝った。それほど、東条さんは思いつめた顔をしていた。
「ごめん」
「お前」と言われたけれど、きまづくて黙っていた。




