気分転換3
「やっぱり受け取れない」店を出てから言った。
「どうして?」
「無理。高価すぎる」
「かなり安くしてもらったから、大丈夫だよ」
「あなたのバイト代が足りないでしょ」
「いや、洋服とか持ち物などは必要経費としてカードで買ってるんだよ。もちろん、予算は決まってるけどね。それから出してるから、気にしなくてもいい」
「無理です。だいたい、別のもので返せって何?」
「インスピレーション」と言ったので、
「もう一度殴られたいの?」と聞いた。
「嘘だよ。デートしてくれるだけでいいよ。それを着てどこかに行こう」
「デートしないです」
「お前と出会ってからさ、俺、占いの勘が良くなった気がしてね。こう、ひらめくというか。だから、そばにいたいし」
「まだ、言ってる。懲りないね」
「お前だって、そういうのが重要だってわかるだろ。自分に足りない部分があるなら、補いたいと思うだろ」
「そう言われても」
「弱ったときの神頼みと一緒だよ。真珠は俺の女神だし」
「キザ」
「実際、そうだよ。真珠と出会ってから、何だか楽しいからね」
「散々女性と楽しんできた人に言われたくないの」
「次は、髪をセットしてもらわないと。もう少し伸ばしてくれよ。そのほうがかわいいし」
「嫌。今のままでいいでしょ」
「あのときのかつらのようにフワフワさせたほうが絶対にかわいいと思う。そうしろよ」
「したくない」
「じゃあ、休日だけそうしろ」
「嫌です」
「俺のためにしてくれてもいいだろ。さっき、買ってやっただろ」
「わがまま男」
「普通なら、恋人に一番かわいい姿を見てもらいたいものだろ」そう言われて、雪人さんを思い出した。
「誰を思い浮かべているんだよ」
「あの人、優しい人だから。あなたと違って見た目で選ばないと思う」
「まだ、幻想抱いてるよ。お前はつくづく子供だな。あいつだって、恋人ぐらいいるかもよ。希恵だっていたからな。学校のやつらが知ったらショックを受けるだろうな」
「いるのは当然でしょ」
「違うよ、浮気されたほうだよ。俺ももしかしてと思ったけれど、そこまで言えなかったのに、お前がはっきり言うからびっくりしたよ。ただ、当っていたようだけど」
「え、そうなの?」
「あのときに浮かない顔をしていた。結論を出したほうがいいと言われて考えていた。だから、そういうことだろうな。当ってるんだよ。お前はよくもそこまで言い切るよ。ああいうのって、普通は相手がどう思っているか聞き出してから言うもんだろ」
「だって、そう見えたから」
「見えた?」
「え、だって、あなたも同じでしょ。見えるじゃないカードで」
「お前、簡単に言ってくれるな。俺は迷うけど」
「私も迷うよ」
「お前、ひょっとして分かってないとか言うなよ」
「なにが?」
「お前は勘が鋭いってことだよ」
「お母さんのほうが強いよ」
「あの人はそこまで興味がないから分からないけど、お前は感じたんだよ。直観力というか、そういうのがあるように見えた。あの時」
「あの時っていつ?」
「初めて会ったときだよ」
「初めてって」といいながら思い出していた。
「俺があれほど印象に残っているのに、お前は忘れているようだ」
「ああ、サバトの選考会場だったっけね」
「忘れていただろ」とにらまれてしまった。
「だって、不愉快な男に会ったのが嫌だったから、忘れてただけ」
「俺は忘れられなかったよ。後で、名前を確認したし、もう一度会いたいと思っていたら、会えたからな」
「二度目って確か」
「それも忘れているのか?」
「ルーカスでしょ」
「犬の名前のお店ね」
「え、犬の名前なの?」
「お前知らないのか? 結構有名だぞ。かなり大雑把だな」
「うるさい」
「昔飼っていた犬の名前から取ったんだってさ。そういうのもいいよな。俺は小さいときに飼いたいと頼んだけれど母親が動物嫌いで駄目だった。空気清浄機を部屋ごとに置いてあったよ、当時は」
「すごいね」
「母はうるさかったよ。家政婦さんに色々と命令してたし」
「家政婦? お母さんはやらないの?」
「母親は外に出て仕事をするのが好きな人だから、家事は一切やらない」
「お父さんはそれでいいと言ってるの?」と聞いたら黙った。
「ごめん」
「お前のところだって、お母さんは家事をやらないだろ」
「お母さんにあまり言うなと言われているけど、近所の人はみんな知ってるの。おとうさんがやってた」
「なるほどな。画家だったっけ?」と聞かれて、窓の外を見た。
「ごめん」と謝ってくれたけれど、説明したくなかった。
「どこに行くの?」と言っている間に着いてしまった。




