宝葉祭4
「悪かったよ」後ろから東条さんが言ったけれど、
「二度とやめてよ、隠し事。気分が悪い。ただでさえ緊張してるのに、こういうことをされるのは困る」
「分かってるよ。ただ、言い出せなくて」
「嘘をつくな」振り返ってにらんだ。
「嘘じゃなくて」
「直前に、逃げられない状況にしておいてから言うつもりだったのは、見え見えなの」と怒ったら、やはりそのつもりだったらしくて、動揺していた。
「やっぱり」と言いながら歩き出した。
「これが終わったら、お詫びで何でもするから」
「しなくてもいい。会いたくない」
「いや、さすがにこのままじゃ駄目だろ。占う前に気を落ち着けてもらわないと、俺も困るし」
「怒らせておいて、よく言うよ」
「そこまで怒るとは思わなかったんだよ。瞬間湯沸かし器みたいだな、お前」
「火に油を注ぐ馬鹿」と言ったら、
「あ、えっと、訂正するよ」とおろおろしていて、さすがにその態度が滑稽だったので、あほらしくなり、
「ほら、行くわよ」と言った。
「完全に尻にしかれるだろうな、あれだと」清水さんと原西さんが近くで言って、浅木さんがそれを聞いて笑っているのには気づかなかった。
私たちの直前にイベントが遅れているらしくて、メイクや着替えに手間取っていたけれど、何とか間に合いそうだった。
「おーい、後、どれぐらい?」と怒鳴りあっていて、
「誰か、照明のチェック。音楽のほうは?」と聞いていた。
「照明、何とかなりそうです」と答えていて、
「バタバタしてますね」とメイクをしてくれている浅木さんに言った。今日は、着替えた後にメイクをしていた。
「真珠ちゃんは髪を伸ばしたほうが似合うかもしれないわ」と、浅木さんに言われたけれど、
「変えたくないんです」
「あら、どうして?」と聞かれて黙った。中学校のときは髪の毛や服装の規定がうるさくて、そのころから髪型をほとんど変えていなかった。本当は伸ばしたかったけれど……、
「かわいいと思うわよ。髪形を変えただけで印象がかなり変わるもの」
「浅木さんみたいにメイクをしなくても綺麗だったら良かった」
「あら、真珠ちゃんはきっと髪型だけでかなり変わると思うけれど。尚毅がうれしそうに何度も見ていたのもそのせいね。メイクだけの力じゃないから。舞台用のメイクと言っても、昼間だし、お客さんが近いからそれほど厚塗りにはしてないし」
「でも、別人になれるものなんですね。驚いた。姉は小さなころからそういうものに興味津々で、休日などはおしゃれして出かけていたけれど、私はそういうのはしてこなかったので」
「あら、そうなんだ」
「姉は派手な顔で美人なんです。私はかわいいと言われても美人とは言われたことはなくて」
「人にはそれぞれ個性があるからね。美人と言われるよりかわいいと言われるほうが私はうれしいわ」と言ったので驚いた。
「え、どうして?」
「そうね。近寄りがたいイメージって、困ることもあるから」
「そうなんですか? それだけ綺麗だから、そういう方面での悩みはないかと思った」と言ったら優しく微笑んで、
「人それぞれね、気になるところはあるものよ。私もこういう風だったらいいのにと何度か思ったから」
「えー、それだけ綺麗なのに」
「でもね、自分は自分。他の誰にもなれないから。だから、自分を大切にしたいと思っているしね」
「素敵ですから、そのままでいいです」
「じゃあ、真珠ちゃんも同じね」と笑ってくれて、やっぱり綺麗でいい人だなと思った。




