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アイドル歌手と苦労が絶えない高校生マネージャー  作者: ともP
♠ イベントライブと転校生
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005. イベントライブに向けて(2)

 

 夕飯はカレーにすることにした。冷蔵庫から野菜を取り出し、適当な大きさに切っていく。一度包丁を洗ってから再び肉を切っていく。玉ねぎは皮を向いてから半分に切り、繊維に沿って切る。

 すると、後ろの方から足音が聞こえてきた。


「手伝いに来たよ」


 優里はエプロンを着て髪を束ねてポニーテールにしている。中学生の時やった調理実習をふと思い出す。

 あの頃はまだ身長が低かったからおままごとみたいな感じだったけど、今ではすっかり大人っぽくなった。


「じゃあ、ジャガイモの皮剥いてくれる?」

「分かった」


 優里はピーラーを使って、器用にジャガイモの皮を剥いていく。僕もニンジンの皮を剥き、一口大に切っていく。それから暫くして、全ての材料を切り終え、鍋に入れて炒める。


「じゃあ、後はルーを入れて煮込めば完成だ。食器を持ってきてくれるか?」

「うん!」


 優里は棚の中から皿を取り出す。そして、二人で台所に立ちながら、夕食の準備を進めていく。


「龍之介、ちゃんと鍋見てないと焦げちゃうよ!」

「ああ、悪い」


 僕は鍋にカレーのルーを入れて、鍋の蓋をしめた。作ってから思ったけど……、これ明日もカレーになりそうなくらい大量に作りすぎた気がする。


 明日も責任を持って優里と一緒にカレーを食べることになりそうだと、心の中で苦笑した。


「じゃあ、食べようか」


 テーブルの上に並べられた何の変哲もない二つのカレーライス。それを目の前にして、僕は手を合わせる。優里も同じようにして手を合わせた。

 さっきまで見ていたテレビ番組の話をしながら、食事を進める。今日の収録が上手くいったことや、来月発売になるCDの宣伝はどうするかなど話題には事欠かない。


「あのさ、私復学したいと思ってるんだけどさ」

「……えっ?」


 突然の質問に僕はスプーンを動かす手が止まる。突然の話題に思わず脳がフリーズしてしまった。


「いや、この前さ、学校の制服着てる女子生徒が楽しそうに登下校してるの見てちょっと気になって」

「あぁ……、そういうことね……」


 優里は芸能活動が忙しすぎて学校には行っていない。在籍上は休学扱いになっているが、それもいつまで続けてられるか分からない。

 明日から四月に入り、新年度に切り替わる。もし、復学すればクラスは変わって新たな環境に身を置くことになる。


「龍之介も学業と仕事の両立してるし、私も学校に行きたいなって思ってるんだけど……」


 正直驚いた。優里からそんな言葉が出るなんて……。だけど、優里がやりたいというのなら止める理由はない。

 こんな時間だけど学校に連絡してみるか……。


「わかったよ。後で校長先生に話しておくよ」

「ありがとう! 龍之介」

「その代わり……、仕事はしっかりとやってもらうからな」

「分かってるよ」


 僕と優里は笑い合いながら、夕食を食べ進めていった。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」


 僕が洗い物を始め、優里はその間に風呂を沸かし始める。

 洗い物が終わり、僕は片付けが終わると学校に連絡をする。時刻は夜の八時だし、繋がるかどうかは微妙ではあったが、運よく繋がった。


「もしもし、兼木です」

『はい、どうされました?』

「あのですね、西宮優里の休学の件でお電話させていただきました。来年度っていうか、明日から復学の手続きさせていただきたいんですが」

『しょ、少々お待ちください。校長先生に連絡させていただきますので……』


 電話の向こうで慌ただしく人が動く音が聞こえる。その音が止むまで僕は受話器を耳に当てていた。

 そして、少し間があってから女性の声から男性の声に変わる。


『はい、代わりました。校長の日比野です』

「あっ、兼木です。先程連絡させていただいた西宮優里の件についてなのですが……」


 それから僕は優里が復学することを伝え、今後のスケジュールについても説明していった。

 仕事の都合上で早退などの可能性もあることも伝え、校長もそれに頷いてくれる。

 とりあえず、学年は二年生からスタートになるが、去年の一年生の試験はどこかのタイミングで受けてもらうとのこと。そして、出席日数は試験を受けて合格さえしてくれれば大丈夫だそうだ。

 

「それではよろしくお願いします」


 僕はそう言ってから電話を切る。


「優里、一応話はついたぞ」

「本当? よかった~」


 優里はソファーの上でぐったりとしていた。今日は朝からずっと収録をしていたから疲れているのだろう。


「じゃあ、お風呂入ってくるね」

「ああ、分かった」


 僕はソファに座ってテレビを見始める。特に面白い番組はなかったが……、ボーっと眺めているだけでも時間は過ぎていく。


「ねえ、龍之介も一緒に入る?」

「馬鹿なこと言うなよ」

「えぇー、いいじゃん。昔はよく一緒に入ってたんだしさ」


 確かに小学校低学年の頃は優里とお風呂に入っていた記憶はあるけど……、今はもう違うだろ。

 僕は揶揄うためだけにリビングに戻ってきた優里を風呂場に押し返して玄関に向かう。


「冗談だってば。てか、帰っちゃうの?」

「そんなに遅くまでいたら終電なくなりそうだしな……。明日から学校なんだから夜更かしせずに寝ろよ?」

「う、うん」


 優里はどこか寂しそうな表情を見せる。こういう顔をされると本当に困る。


「まあ、また明日も来るからさ……」

「うん、待ってる」


 優里は笑顔を見せてくれる。やっぱり優里は笑っている方が可愛いと思う。

 玄関に向かい、靴を履いていると、優里が見送りに来てくれた。


「じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 扉を開けると春の暖かな夜風が頬を撫でる。僕はその風にまるで背中を押されるように家路へと向かっていった。

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