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アイドル歌手と苦労が絶えない高校生マネージャー  作者: ともP
♠ イベントライブと転校生
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006. イベントライブに向けて(3)

 翌日――、桜の花が満開に咲き、風に吹かれたピンク色の花弁が空を舞っていた。まるで、桜に祝福されるように新入生が校門を潜っていく。

 僕はそんな光景を見ながら、制服姿の優里の手を引いて校舎の中に入っていく。


 久しぶりの制服に違和感を覚えるのか……、優里はしきりに自分の姿を気にしていた。


「どうしたんだよ?」

「いや……、なんか変な感じがして」

「まあ、慣れるまでは時間がかかるかもな」


 登校時間よりも先に校舎の中に向かった僕たちは校長室に足を運んだ。事前に優里の復学についての書類を提出しておくためだ。

 校長室のドアの前に立ち、ノックする。中からは「どうぞ」と言う声が聞こえた。


 校長は机の上に積まれた大量の資料を整理しながら僕たちに視線を向けた。僕は「復学書類を持ってきました」と告げ、優里は鞄の中から封筒を取り出した。


「まあ、今日から新学期のわけだが……、西宮さんと兼木くんは一緒のクラスにしておいたよ。その方が何かと都合がいいだろう。まだ担任はオフレコなんだけど二階堂先生が君たちのクラスを受け持つことになっているから、仕事で早退などする場合は彼女に言えば大丈夫だよ。彼女にはちゃんと君たちの事情を説明してあるから……」

「そうですか……、ありがとうございます」


 僕はそう言いながら頭を下げる。優里も僕に続いて頭を下げた。


 さて、まだ時間に余裕があるので、僕は優里の手を引いて校内を散策する。一階の昇降口にはクラス分けの張り紙がされていた。


 一年生だった頃は一階にあった教室が、二年では二階になる。この学校では学年があがるにつれて上の階になっていくのである。


「どこのクラスかなぁ」


 校長からは同じクラスにしておくということだったが……、具体的なクラスは知らされていない。僕たちは自分たちのクラスの貼り出されている場所へと向かう。


 クラスの名簿が張り出されている掲示板には人集りができていた。

 僕は優里をその場に待たせて、人だかりをかき分けて掲示板に張り出されているクラス名簿をスマホで写真に収める。僕は撮った写真を優里と一緒に確認すると……、そこにはしっかりと『2-A』の文字があった。


「同じクラスだね」

「そうだな……。とりあえず、教室に行くか」


 未だに掲示物が張り出されている掲示板には人だかりができており、クラス替えの結果に一喜一憂している生徒がたくさんいた。


 僕は優里の手を取り、人の波を避けながら廊下を進んでいく。階段を上り、二階のフロアを進む。そして、目的の教室の前で足を止める。その教室の表札には『2-A』という文字が書かれていた。

 席は出席番号順で、優里の座席は中央の一番後ろの席、僕は窓際最後列の席になっていた。教室の中には既に数名の生徒の姿があり、その中には二階堂先生の姿もあった。


 二階堂弘子――、この学校の国語教師であり、年齢的には三十代半ばで、ショートカットの髪と少し垂れ下がった目が特徴の女性。生徒からの評判は良く、授業も分かりやすい。そして、彼女は去年の一年B組の副担任でもあった。

 嫌いなものは虫類全般、好きなものは甘いものらしい。ちなみに独身である。


 僕は優里の方を見る。相変わらず人の視線を惹く存在だと改めて実感させられる。学校という空間において彼女は異様に目立つ。彼女自身が持つ魅力なのだろう。


 一通り、準備を済ませた優里がこちらの席に寄ってくる。


「龍之介の席いいなぁ、外の景色見れるじゃん」

「外の景色が見れるからっていいもんじゃないぞ?」

「そうかな? 私は結構好きだけど」


 優里は僕の椅子の後ろに凭れ掛かるようにして外を眺め始める。優里が何を考えて復学を希望したのかは分からない。でも、きっと彼女の中で何かしらの変化があったことだけは間違いないだろう。


 にしても……、異様に目立つ存在が僕の椅子に凭れ掛かっているので、クラスの注目を一気に集めてしまっている。


「復学初日から勘違いされるぞ?」

「んー、別にいいよ。私は気にしないし……」

「いや、ダメだから……」


 そんな会話をしていると予鈴が鳴る。それと同時に二階堂先生が手を鳴らしながら生徒に席に座るように促す。優里は小さく手を振って自分の席に戻っていく。


「じゃあ、始業式始まりますので体育館に移動して下さい」


 二階堂先生の指示に従い、僕たちは移動を始める。

 体育館に移動すると、そこにはもう多くの生徒たちが集まっており、ステージの上には新三年生の代表者が代表の言葉を読み上げていた。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」


 そんな感じで始業式は進んでいく。その間、僕はずっと優里のことをずっと観察していた。時々、優里は僕の視線に気付くのか……、ニコッと微笑みかけてくる。

 ただ、校長の長話に切り替わった瞬間に集中の糸が切れたのか優里はこっくり、こくりと船を漕ぎ始めていた。


(まあ、眠くなる気持ちは分かるけど……)


 僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 始業式の後はすぐにホームルームが始まり、その後すぐに下校となる。


 兼木龍之介という高校生は残念なことに友人と呼べる人はいない。

 まあ、去年は優里のデビューに向けて関連各社との調整や打ち合わせ、その他もろもろで忙しく、クラスの人と絡む機会が少なかったので仕方がないのだが……。


 僕は荷物をまとめて、優里に声をかける。優里は「うん」と返事をして、自分の鞄を手に取った。


 それから、僕と優里は一緒に昇降口まで歩いて行く。その途中、何人かの生徒とすれ違ったが、その度に僕たちに好奇の眼差しが向けられる。


「なんか注目されてるな……」

「そうだね……」


 僕たちは顔を見合わせる。優里の顔はどこか複雑そうな表情をしていた。

 彼女が欲しかったものは『普通の高校生活』だったのかもしれない。だが、今の状況は明らかに普通ではない。周りからはかなり注目されているし、優里の心境を考えれば自分自身の理想と大きくかけ離れていて複雑な気持ちかもしれない。


(一度休学したのも同じような理由だしな……)


 まあ、僕は優里が学校に通おうが通うまいがどちらでもいいと思っている。ただ、彼女の意思を尊重するだけだ。


 僕たちは靴に履き替えて、校舎の外に出る。春の暖かい風が僕たちの髪を揺らしていく。真新しい白い校舎を囲うように植えられた桜の木にはピンク色の花弁が満開に咲いている。


 そんな桜を歩きながら見上げて、優里は瞳を輝かせて笑みを零す。


「綺麗だねぇ」

「ああ、そうだな。春らしくていいな」

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