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アイドル歌手と苦労が絶えない高校生マネージャー  作者: ともP
♠ 女優への一歩と恋の始まり
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031. 初恋と過去の因縁(2)

 教室に入ると、いつも通りの光景が広がっていた。クラスメイト達は楽しそうに会話をしたり、席について読書をしていたり……、それぞれ自由に過ごしている。


 自分の机の上に鞄を置くと、そのまま窓際の一番後ろの自席に座る。

 僕は鞄の中から教科書とノートを取り出して、今日使う分の筆記用具を机の中に入れていく。その作業が終わると、スマホを起動させてメールを確認する。


「龍之介は今日も朝から仕事なんだね……」


 いつの間にか、僕の隣にはゆきがいた。彼女は心配そうな表情を浮かべながら僕の顔を覗き込む。


「最近、本当に忙しくなってきたよね」

「そうだな……、ようやく軌道に乗り始めたからこれからどんどん忙しさが増していくことを想像すると胃が痛くなるな……」


 僕はため息をつく。すると、ゆきはくすりと笑う。


「龍之介も大変なんだから優里に負けないように私も頑張らないと……」

「ゆきは十分頑張ってると思うけど」

「そんなことないよ……、まだまだだよ」

「そうか……、でも無理はするなよ」

「うん、ありがと」


 ゆきは笑顔を見せる。最近のゆきはどこか変わった気がする。少し前まではあまり笑わなかった彼女が最近はよく笑うようになった。

 そんなことを考えながら、ふと隣のゆきを見ると……、彼女は僕のことをじっと見つめていた。


「どうかしたか?」

「ううん、なんでもない」


 そう言うとゆきは僕から離れる。それから、しばらく待っていると担任の教師がやってきてホームルームが始まった。

 午前中の授業が終わり、昼休みになると僕は優里からかかってきた電話に応答する。パラレルシンガーとして初配信を決めた西宮優里は今日はエンタメ雑誌のインタビューに答える仕事があるので欠席。


 マネージャーとしての僕にとっては、仕事が増えていくのは好ましいことである。

 パラレルシンガーは通常のVtuberと違って素顔を隠す必要性がないので、こうしたインタビューも今後増えていくことになるだろう。


 ただ、同じ学友としては中間テストが近いので勉強に集中させたいという気持ちもある。


『もしもし、どうしたの?』

「雑誌のインタビュー大丈夫だったか?」

『バッチリ! 紫乃ちゃんも一緒だったから色々助けてもらったよ』

「そうか、それなら良かった」


 優里の専属コンポーザーとして活動することを決めた天宮紫乃は優里と一緒にユニットを組むことを予定している。まだ、活動名義も決まってはいないが……、きっと人気が出るだろうなという予感はある。

 埼玉スーパーアリーナでのライブも控えているので、今が大事な時期だ。


「それでなんだが……、最近欠席続きだけど勉強の方は大丈夫だよな?」

『うっ……、そ、それは……、まあなんとか……』

「そうか……。まあ、赤点を取らなければいいんだ。そこまで難しくはないはずだから……」

『わ、分かった……、勉強するよ……』


 優里はどこか不安そうな声で言う。もう長い付き合いだ……、優里がこういうことを言う時は決まって大丈夫じゃない時だということくらい分かる。


「確か金曜日は特に予定ないんだよな、事務所で勉強会でもするか」

『えっ、いいの? ありがとう!』

「ああ、いいぞ。ただし、教えるんだから赤点は取るなよ?」

『任せてよ! 私だってやるときはやるんだから!』

「了解、それじゃあ放課後に事務所でな」


 僕は通話を切ると小さく息を吐く。そして、教室から出てきたゆきに話しかける。


「明日勉強会やるんだけどゆきも一緒に来るか?」

「いいの?」

「ああ、構わないよ」

「それじゃあお邪魔しようかな……」

「それじゃあ、優里にも伝えておくよ」

「うん、よろしくね」


 僕は優里にゆきが来ることをメールで伝えると、午後の授業を受けることにした。


☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・゚*。・☆


 翌日、事務所にはゆきと優里が集まり、勉強会を始める。ゆきはちゃんと芸能活動もしながら合間を縫って勉強していたのだろう、しっかりと基礎が出来ており飲み込みが早い。


 一方、優里はというと……、かなり危なかった。こればかりは仕方がない。高校に入ってからの基礎が欠けているのを補わなければならないからだ。


「優里……、流石にこれはヤバいわよ。どうせ、龍之介もずっと甘やかしてきたんでしょ」


 ゆきのジトっとした視線が僕に突き刺さる。


「いや……、そんなことはないぞ」

「ほんとに〜?」


 ゆきの疑いの眼差しが僕に向けられる。確かに、中学時代の優里に勉強教えていた時は取りあえず赤点を回避するためだけに答えを丸暗記させていた。

 そんな勉強の仕方をしていたせいで基礎知識なんて身につくはずもなく……、その結果がこれである。


「龍之介、ここはどうすればいい?」

「ああ、そこはこの公式を使って……」


 優里がわからない箇所を僕に聞いてくる。ただ、彼女の顔が近い。ふわりとしたシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。

 なんともまあ異様な光景である。芸能活動している二人に囲まれ、そのマネージャーをしている男が勉強を教えているというこの状況……、客観的に見たらどんな風に思われるだろうか。


 まあ、そんなことを考えても意味はないのだが……、でもやっぱり考えてしまう。

 彼女たちが人気になればなるほど世間の目は厳しくなっていくだろう。特にゆきは女優、優里はアイドル歌手としてスキャンダルには細心の注意を払わないといけない。


 週刊誌なんかはこういった話題に敏感だからな……。


「ゆきは意外とマメなんだな……、ノートも綺麗にまとめてるし」

「まあね……、授業中にメモを取る癖をつけておかないと忘れちゃうから……。これは演技でも同じよ」

「あぁ、なるほど」


 ゆきの言葉を聞きながら、僕は養成所時代の彼女を少しだけ思い出した。

 稽古の度にノートにメモをまとめていた彼女の姿……、その姿勢は今も変わっていない。ゆきはきっと昔から努力家だったんだろう……。


「ねえ、ゆきちゃん。ここ分からないんだけど……」

「どれ、見せてみて」


 ゆきは優里の隣に移動し、二人で教科書や参考書を見ながら会話をする。

 おかげで僕の負担がだいぶ減って助かっている。


「よし、今日はこれくらいにしておこうか……」


 時刻は既に夕方になっている。かれこれ、四時間も勉強していたのか……。外はすっかり暗くなっており、窓から見える景色は闇に染まっている。

 事務所でデスクワークをしていた神坂さんが三人分のお茶を持ってきてくれる。


「みんな、お疲れ様」

「ありがとうございます、神坂さん」


 僕は温かい緑茶を一口飲む。


「で、優里ちゃんは赤点回避できそうかな?」

「はい、なんとかなりそうです!」


 自信満々な表情を浮かべている優里……、本当に大丈夫なのだろうか。中間テストまでは猶予がそんなにないので定期的に勉強会を開かないとな。


「ところで、龍之介君。ちょっと相談があるんだけれどいいかな?」

「はい、大丈夫ですよ。何でしょうか?」

「実は、優里ちゃんに今度会ってお話したいって子がいてね……」

「それは、仕事としてですか?」

「そうだね、できればお願いできるかな?」

「分かりました……、優里に伝えておきます。希望の曜日もらえれば日程調整しておきますよ」


 それから、ゆきと優里は帰り支度をして事務所を出て行く。まあ、優里は自宅が事務所の上の階だからマンションのエレベーターで別れた。

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