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002. 醒めない夢の続き(2)

 目を覚ますと真っ白な天井が見えた。


(ここはどこだ……)


 ゆっくりと体を起き上がらせると全身に強い痛みを感じた。どうやら体の節々に怪我をしているらしい。よく見ると体には包帯が巻かれており、左腕に至ってはギプスで固定されていた。


「痛ってぇ……」


 ポツリと呟くと聞き覚えのある声で返事があった。その声はどこか震えていて、今にも泣き出しそうなものだった。


「当たり前でしょ! 龍之介が私の代わりにあんな大事故に巻き込まれて、私本当に心配したんだからね。当たり所が悪かったら死んでたんだよ?」


 振り返るとそこには目に涙を浮かべた優里の姿があった。彼女は僕の横たわるベッドに身を乗り出し、必死に訴えかけてくる。

 彼女はオーディションの衣装のままだった。恐らく僕が寝ている間ずっと付き添ってくれていたのだろう。


「良かった……、本当に無事で良かった」

「ごめん、心配かけたな」


 ポロポロと涙を流しながら、優里は安堵の声を漏らしていた。僕は心の中で気になっていたことを口にする。


「オーディションはどうだったんだ?」

「受かったよ」


 僕は優里が普段どれだけ努力してきたかを知っている。彼女がどれほどの想いを持ってこの場に臨んでいたのかも知っている。だから彼女の口からその言葉が出た時、自然と笑みがこぼれた。

 どこか微妙な表情を浮かべる優里を僕は痛みを感じる体を起こしながら頭を撫でる。


「おめでとう!」

「ありがとう、でも私はまだスタートラインに立っただけだよ。これからもっと頑張らないと……」


 そう言うと優里の目つきが変わった。何かを決意したようなそんな力強さを瞳の奥に感じる。龍之介はこの瞳が大好きだった。どんな辛い状況であっても決して折れない強い意志を持った目。

 僕は誰よりも近くで彼女を見てきたし、彼女のことを理解しているつもりだ。だからこそ、今の彼女の決意に満ちた目が眩しく感じてしまう。


(優里ならきっと大丈夫だ)


 優里なら必ず成功する。そしていつか夢に向かって羽ばたいていくのだろう。その時、僕は一体何をしているだろうか?

 自分の将来のことはわからないけれど、少なくとも今は目の前の少女の夢を応援することが一番大切なことだと思った。それからしばらくして病室に医者がやってきた。優里は邪魔にならないように部屋から退出していく。


「目覚めたばかりで申し訳ありませんが、診察結果のご説明をさせていただければと思います」


 医者の話によると僕の体は全身打撲と肋骨二本骨折に加え、左腕骨折、左脚の大腿骨亀裂骨折という状態だったらしい。幸い命に関わるほどの怪我ではなかったようだが、まともに動かせるようになるには早くても一ヶ月ほどかかるそうだ。

 それを聞いた僕は改めて今回の事故で受けたダメージの大きさを知ることになった。


「もしかしたら、左腕の方は元に戻ったとしても後遺症が残る可能性がございます。日常生活に支障が出るほどのものではありませんが、激しい運動をする場合には注意が必要です」


 医師の言葉を聞いて僕は口の中に溜まっていた唾を飲み込む。最悪の事態は免れたものの、やはり代償は大きかったようだ。

 それでも、あの瞬間の判断は間違っていなかったと思う。ただ、俳優を目指し続けることは難しいかもしれない。


(そうだよな……、あんな事故に巻き込まれればな)


 僕は自分に言い聞かせるようにして、頭の中を整理していった。


「では、私はこれで失礼します。また後日に来ますので、詳しい問診はその際にさせていただければと思います」


「はい、よろしくお願いします」


 そう言って医者が出て行くと、再び一人になった空間には静寂が訪れた。正直、頭の中で整理が出来ていなかった。

 多分、怪我が治って自分の体を動かした時――、初めて役者として兼木龍之介の時間は終わりを告げることになる。それが現実になると考えるだけで、胸が締め付けられる思いだった。


(でも……、これは時分が選択した結果なんだ)


 僕は自分自身に強く言い聞かせた。


「もう舞台に立つことはない……。それでいいじゃないか」


 これは僕の選択の結果なのだ。だから、後悔なんてしていない。

 僕は自分に何度も言い聞かせて気持ちの整理をつけようとした。だが、どうしても心の奥底にあるモヤモヤとした感情が消えることはなかった。

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