021. ママと呼ばせたい人気漫画家(4)
ミュージック・ジャパンが運営しているサイトの名前は「Music Room」といい、たくさんのアーティストの作品が掲載されていた。
僕はその中でも優里の歌声に合いそうな作曲者の作品を探していく。
「うーん、結構たくさんあるな……」
楽曲を聞くだけでもかなりの数があり、その中から1つを選ぶのはなかなかに難しい。
まずは上から順番に聞き流し、気になった曲を片っ端からダウンロードしていく。そこから、じっくり聞いてみて判断することにしようと思った。
最近の音楽は初っ端からサビのフレーズを入れてくる曲が多いが……、僕の好みとしてはAメロBメロCメロと曲が進んでいくにつれて盛り上がっていくタイプの方が好きだったりする。
とはいえ、あくまでもこれは個人的な感想であり、万人受けするものとは限らない。
(この『夢見る少女に花束を』って曲はなんか良さそうだな……。ちょっと聴いてみるか……)
僕はダウンロードしたばかりの楽曲を再生することにした。その瞬間、ピアノの旋律と共にボーカロイドの歌声が流れてくる。歌詞の内容もどこか幻想的な雰囲気を感じつつ、爽やかな印象を受けるものだった。
アップロードされているのはフル音源ではなく、1番のみとなっていたが非常に完成度が高い曲だと感じた。僕は完全に心を奪われてしまった。
(この曲を作った人は一体どんな人なんだろう?)
僕は、すぐにこの作曲者に連絡を取ることにした。ちなみに、Music Roomにプロフィール欄に記載されている作者の連絡先は『インスタのDMのみ』と記載されていた。
普通はメールアドレスとか電話番号が記載されているものではないだろうか……。
しかも、僕インスタのアカウントを持っていないので、直接メッセージを送ることができない。
(インスタやってないんだよな……)
僕が難しい顔を浮かべながら画面と睨めっこしていると、隣の席に座っていたゆきが覗き込んでくる。
「どうしたの? そんなに険しい表情をして……」
「あぁ、なんか良い感じの曲を見つけてさ。それで連絡を取りたいんだけど……、アカウントを持ってなくてな……」
「作ればいいじゃん」
「インスタのアカウント作るのなんか抵抗感ないか?」
インスタといえば陽の者しかやらないイメージがある。優里もインスタをよく使っているが……。
そもそも、僕はあまり写真も撮らず、SNSに投稿することも全くない。そんな人間がSNSを利用する意味はあるのかと思ってしまう。
「別にそんなこと気にしなくてもいいと思うよ。見るだけでアカウント持ってる人は多いし」
「まぁ、そうなんだけど……」
「それなら、なおさら作った方がいいよ。ほら、何事も重要なのは行動力だよ」
「わかった、やってみる……」
数分後、無事にアカウントを作成することができたので、早速フォロー申請を送って直接メッセージを送ってみる。
『はじめまして。突然のメッセージ失礼します。私は西宮プロダクション所属の歌手の西宮優里を担当している兼木龍之介と言います。今回、楽曲提供を依頼させていただきたくご連絡しました』
こんな感じでいいだろう……。あとは相手の返事を待つだけだ。
「そういう畏まった文章を咄嗟に考えられるの凄いよね」
「伊達に数年間優里のマネージャーやってないからな……」
マネージャーをやっていれば企業や社会人とメールでやり取りする機会も増えるため自然とこういうスキルは身につく。
何事も第一印象が大事だからな……。
それから、10分くらい待ったところで返信が来た。
「初めまして。楽曲提供のお話ありがとうございます。是非ともお願い致します」
僕は思わず心の中でガッツポーズをする。これで楽曲を提供してくれる人物が見つかり、デビューに向けて準備に取り掛かることができる。
ただ、時間の猶予はそんなにない。そして、初配信までに1か月もない。曲のすり合わせ、優里の練習時間や配信準備を含めるとかなりタイトスケジュールになるだろう。
「よし、早速打ち合わせしないとな……」
こうして、僕は楽曲提供者と顔合わせをすることになった。
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それから数日後の土曜日。今日はこの前連絡した人と会うことになっている。場所は新宿にある喫茶店で、約束の時間より少し早く着いてしまった。
まだ待ち合わせまで時間がある。僕は店内に入って注文をし、飲み物を受け取るとその席についた。
しばらくすると、目の前の扉が開き、制服姿の女の子が入ってくる。彼女はきょろきょろと周りを見渡した後、こちらの姿を見つけると軽く会釈をしてくる。
まさか、相手が学生だと思ってもいなかったので……、僕は驚いた。
「えっと……、君が『夢見る少女に花束を』の作曲者さんであってるかな?」
「はい、そうです。お待たせしてすみません。私、天宮紫乃です。活動名義は『SHINO』です。よろしくお願いします」
彼女の名前は天宮紫乃というらしい。背丈は僕よりも小さく、ショートカットの茶髪に黒い瞳が特徴の可愛らしい女の子だった。
僕は彼女と向かい合うように座ると、早速本題に入ることにする。
「その制服って堀口高等学校のものですよね? もしかして高校生ですか?」
「はい、高校2年生で16歳になりました」
「へぇ、同い年なんだ……」
「そうなんですか!? なんか大人っぽい雰囲気だったのでもっと上の方だと思っていました!」
「そんなことないよ。ただ、世の中の高校生より社会を知り過ぎて老けて見えるだけだと思うから……」
そんな自虐的な冗談を挟みながら……、僕はさっそく楽曲提供について話を始めることにした。
「楽曲提供の依頼を受けてくださりありがとうございます。改めまして、僕は兼木龍之介といいます。一応、西宮優里のマネージャーをしています」
「あ、はい! 知っています! この前のライブも見に行きました。優里ちゃんのライブは初めて見たのですけど……、凄く良かったです!!」
「それはよかった。それで、早速なんだけど……、Music Roomに投稿していた曲を優里に歌わせて欲しいと思っているんだ」
「あの、私が投稿している曲を使ってくれるのは嬉しいのですが……、大丈夫なんでしょうか……?」
「うん、問題ないよ。実はオフレコでお願いしたいんだけど……」
僕は今後控えている優里の活動構想を彼女に説明していく……。
それを聞いた天宮さんは目を輝かせながら聞いている。あぁ、ちゃんと優里のファンなんだなって僕は嬉しくなった。
「本当に凄いですね。そんな凄い企画に参加できて光栄です」
「それで、スケジュールなんだけど……、Music Roomの運営からは初配信前に曲を運営の公式アカウントからMV付きで動画をアップロードして欲しいって言われてるんだ」
配信は1ヵ月もないが、それまでに曲を完成させ、優里にレコーディングをさせて、動画のMVを仕上げるとなるとかなりタイトなスケジュールになってしまう。
そこから更に配信の準備諸々が待っているわけだが……、果たして間に合うだろうか?
「なるほど……。わかりました。私は今週中に音源を作っておきます。歌詞に関してはある程度作っているので、すぐにでも取り掛かれます」
「助かるよ。それじゃあ、早速だけど、今日のところはこれで終わりにしよう。急な連絡になっちゃって申し訳ないんだけど……」
「いえ、大丈夫です。むしろ、私のことを気にかけてくれてありがとうございます」
こうして、楽曲提供者との交渉は無事に終わった。僕は早速、優里に連絡を入れる。
『楽曲提供者が見つかって、初配信の日に歌う楽曲の提供をしてくれることになったよ。これでようやくデビューに向けて本格的に動き出せる』
『本当に!?』
『あぁ、あとは優里の練習時間とか配信準備との兼ね合いになるけど……、なるべく早めに新曲を出す予定だから引き続きレッスン頑張ってくれ』
『うん、分かった!』
こうして、楽曲提供者の天宮紫乃との顔合わせを終えた僕は最後の課題をどうするか頭の中で悩ませていた。
(Music Roomに投稿する予定のMVどうしようか……)




