散りゆく花② 回想編
2日ほど空いてしまいましたが、またしばらくは毎日更新していきますのでよろしくお願いします!
エリーユに連れられ、少しくすんだ空の下平原を歩くヨシュア。向かう先も分からず、(何処に行くんだろう……)と、不安気な表情を浮かべていた。
そんなヨシュアの姿をチラッと見たエリーユは、首を傾げ不思議そうに問い掛けてくる。
「そう言えば、ヨシュアってどこの魔族? 私、ヨシュアみたいな魔族見た事ないや」
「あ、悪魔族……でも、へんてこな姿だよね」
散々馬鹿にされた容姿。馬鹿にされ続けるのは辛いものがある。だったら自ら貶めれば気が楽なのだ。
「本当に変よ! 自分の事へんてこだなんて言っちゃダメ! 私は……素敵だと思うけど」
ハニカミながらヨシュアを叱るエリーユ。
ヨシュアは予想外の言葉に驚きつつも、自分の冷めた心が少し暖かくなるのを感じた。
「あ、ありがとう」
恥ずかしさが込み上げ、お礼しか言えないヨシュア。
君も素敵だよ、なんて気の利いた台詞でも言えば良かった、と少し後悔した。
「──てか、アイツらに殴られてたけど、ヨシュアいじめられてるの?」
「……うん。僕の事気持ち悪いって」
「最低ね!! なんでやり返してやらないのよ!?」
「そ、そんな事出来ないよ……」
「そんなんだから苛められるの! 男ならやり返してやりなさいよ!!」
「無理だよ。僕弱いし……」
ヨシュアの弱気な言葉を聞いて顔をしかめるエリーユ。だが、すぐに何かを思いついたような表情を浮かべ、元気でよく通る声を高らかに上げる。
「だったら私が鍛えてあげるわ!! これは命令だからね!」
そんなエリーユの言葉に、ヨシュアは戸惑いながらも小さく頷く。
「よっしゃー! なら、先ずは体力を鍛えなきゃね! 追いかっけこするわよ。ヨシュアが追いかける方だからね!」
エリーユはそう言って広い平原を駆け出した。
どんどん遠ざかるエリーユに焦りを感じたヨシュアは、「ま、待ってよ!」と、すがるように声を上げ走り出す。
折角出来た自分をいじめない友達。
そんな欠けがえのないものが、遠くへ行ってしまう消失感に、「行かないで!!」と、ヨシュアの走る速度は知らぬまに上がっていた。
エリーユはヨシュアが追い付く事など、考えてもいない。森の中を縦横無尽に駆けるエルフ族にとって、脚力は強さの指針の一つ。
そして、エリーユはその脚力に自信が有った。
ヤンチャな女の子だけあり、同世代の男達とかけっこをしても負けた事など無かったのだ。
だから、ヨシュアが肩を掴んだ時のエリーユの驚いた顔は、見事なものだった。
「な、なんで!! 私……負けた事無かったのに! ず、ずるしたんでしょ!?」
「ハァハァッ、ずるなんてしてないよ……」
涙目で抗議の声を上げるエリーユだが、当然ずるなどしていないヨシュアは、謂れのない抗議に戸惑う。
「もういいわよ! 次はジャンプ力を鍛えるわよ!!」
「えっ? あ、うん……」
何故ジャンプ力が必要なのか、今一分からないヨシュアだったが、今は逆らわないでおこう、と素直に従う事にした。
「じゃあ、森まで競争よ! 今度は負けないんだから!」
「ぼ、僕だって負けないよ!」
二人はそう言って、平原の先に見えるエルフの森まで走り出した。
──魔界、エルフの森──
「ハァッハァ。わ、私の勝ちね!」
「あ~あ、負けちゃった……」
必死の形相で勝鬨を上げるエリーユに、ヨシュアはわざとらしく敗北宣言を上げる。だがその顔は一欠片も悔しそうではなかった。
「ちょっとあんた! 全然疲れてないじゃない! わざと負けたんでしょ!!」
「そ、そんな事ないよ! ハァハァ、あー疲れた」
「うわっ、わざとらし過ぎるわよ!! キッー! 何かムカつく!! 次は絶対、悔しがらせてやるんだから!」
その後、意地になったエリーユは謎の五番勝負をヨシュアに宣言し、ヨシュアを困らせる。
「最初はこれ! どこまで高く跳べるか勝負よ!」
高くそびえる樹木を指さし、興奮気味に話すエリーユ。ヨシュアを鍛えるという目的は何処へいったのか……。
「最初は私が跳ぶからね! 見てなさいよ!」
自信ありげにそう言うと、エリーユは膝を曲げ力を溜め始めた。そして、「それっ!」と、力の入った声を上げながら高く跳び上がる。
おそらく、三メートルほどの高さまで飛び上がったエリーユは、いつの間にか手に持っていたナイフで樹木を切りつけ目印をする。
「うわ~凄いよ、エリーユ!」
「まあね! さあ、ヨシュアの番よ!」
仰天した表情で褒めるヨシュアに、勝ち誇った顔で胸をはるエリーユは、勝ったという事実を味わいたい思いに駆られ、早く跳びびなさいと、ヨシュアを急かした。
「えー、僕じゃあんなに跳べないよ……」
「いいから早く跳びなさいよ! 私がやったみたいに力を溜めて跳べばいいの!」
「わ、分かったよ」
エリーユにせっつかれ、不承不承ながらもヨシュアは樹木の下に向かう。
(えっと、こうだっけ?)
見よう見まねで膝を曲げ、脚に力を溜めるヨシュアを、既に勝ち誇った表情で見るエリーユ。しかし、その顔が驚愕の表情に変わるまで、後三秒といったところだ。
「それ!」と、エリーユの真似をする様に、力の入った声を上げ跳び上がるヨシュア。さて、何処まで跳ぶのだろうか──
「えっ、おー! うわっー!! $¥♀♂@!」
「嘘でしょ!? あんた何者なのよー!」
言葉にならない声を上げるヨシュアに対して、目の玉が飛び出るほど驚きをあらわにするエリーユ。
実際ビックリしているのは他ならぬ本人だろう。まさか、天辺まで自分が跳び上がるとは、思っていなかったのだから。
「助けてー!! 降りれないよ~!」
天辺の幹にしがみつき、情けない声を上げるヨシュア。だが、エリーユはそれどころでは無かった。
自身の敗北もさることながら、有り得ないヨシュアのジャンプ力に頭の中は空っぽ、何も聞こえない何も考えられない──そんな状況だったのだ。
その後、叫び声を上げ続けたヨシュアは、異変を聞きつけたエルフの大人によって救出されたのだった。
──エルフの森、族長の家──
巨樹群が立ち並ぶ深い森の中、エルフ達は自然を利用し、慎ましくも心豊かに暮らしている。
そんなエルフの集落に、一際大きな怒鳴り声が、けたたましく森の木々を揺らしていた。
「──馬鹿者ー!! まったく、お前は問題ばかりおこしおってからに! もっと族長の娘だという自覚を持たんか!!」
「へいへい。大変すみませんでした~」
「なんだその態度は!!」
長い銀髪を束ねた凛々しい男に、雷を落とされているエリーユ。見たところ、怒っている雷親父はエリーユの父親のようだ。
その様子を遠巻きに眺めるヨシュアは、自分の不甲斐なさのせいでエリーユが怒られている事に、申し訳なさを感じていた。
「──気にしなくて良いのよ? 何時もの恒例行事だから」
ヨシュアの申し訳なさそうな表情を気にして、優しく話し掛けてくるエリーユの母──艶やかなエメラルドグリーンの髪を揺らしたエルフの女性だ。
「でも、あれは僕のせいなんです……だからエリーユを叱らないであげて下さい!」
「あんたのせいじゃないわよ。元々は私が跳べって言ったんだから」
「そうだ、悪いのはこのヤンチャ娘だ! それにしても、エリーユには勿体ない位に優しい子だなヨシュア君は」
エリーユの母に懇願した筈の言葉、それに反応したのは説教タイムを終えたエリーユと雷親父だった。
「あら、終わったのね。ヨシュア君が心配するから、あんまり叱っちゃダメよ。ゴルちゃん」
「ゴ、ゴルちゃんは止めなさい! ヨシュア君の前だぞ! それに叱りたくて叱ってるわけじゃ──」
「はいはい。ヨシュア君、こんな感じだから心配しなくても大丈夫よ。それより、折角来たんだからゆっくりしていってね」
「ハハッ、ありがとうございます。実はエルフの森は初めてだったんで少し興奮してたんです」
和やかな空気に、不安な気持ちが払拭されたヨシュア。初めて訪れたエルフ森の幻想的な世界に、胸が躍らされる。
「なら、私が案内してあげる! 行きましょ、ヨシュア!」
エリーユがヨシュアの腕をとり、さあ行きましょう、とキラキラした笑顔を向ける。その笑顔に少しドキッとしたヨシュアだったが、ふと、エリーユの影にあるものを発見した。
エリーユの影から、エメラルドグリーンの物体がピョコピョコと見え隠れしていたのだ。謎の物体を不審に思ったヨシュアは、「なんだ?」と、疑問の声を上げる。
「あらあら。メーサちゃん、ダメよそんな所に隠れてちゃ。ヨシュア君にちゃんと挨拶しなさい」
エリーユの母が謎の物体に向かって言葉をかけると、恥ずかしそうにピョコっと、小さな女の子がヨシュア前に現れた。
「……メ、メーサ」
メーサは自分の名前を小さく呟くと、うつ向いてしまう。ヨシュアはそんなメーサに微笑むと、優しく言葉をかける。
「メーサちゃんか、宜しくね。良かったら、エリーユと一緒に森を案内してくれない?」
ヨシュアはそう言いながら、ついつい愛らしいメーサの頭を撫でてしまった。小さくて可愛いものは愛でたくなるものだ。
「う、うん、分かった! メーサ案内する!」
メーサは優しく微笑むヨシュアに、表情をパアッと明るくさせそう返すと、ヨシュアの腕を引っ張り走り出した。
「あっ、ちょっと待ちなさいよ! 私が案内するって言ったんだからね──」
エリーユは焦った表情をして、出て行ってしまった二人を追いかける──平和で微笑ましい光景。
くすんだ空のどんよりとした日──ヨシュアは、美しく輝きを放つ二人の姉妹と、運命の出会いを果たすのだった。




