散りゆく花① 回想編
──荒れ果てた地『ヨシュア邸』──
「いや~こうも上手くいくとはな」
「本当ですよ。見事に釣れてくれましたね」
「ヨシュヨシュカッコ良かったよ~」
「ハハッ、ありがとう、イブ」
「ハグハグモキュモキュ。貴女誰ですの?」
「あっ? ヨシュアの嫁だけど。居候さん」
ヨシュア邸に戻った一同、作戦の成功を明るい雰囲気で話す四人に対して──キレ気味に肉をかっ食らう女神。ふてぶてしい態度で女神を見ているメーサ。
女二人はバチバチと苛烈な戦いを繰り広げていた。
「嫁!? ……ハッ! 冗談は顔だけにした方がよくってよ」
「あっ!! 居候の分際で偉そうにすんな! 私とヨシュアわね、深ーい絆で結ばれてるの!」
「貴女、ヨシュア様と一緒に住んだ事は? 一緒に寝た事は?」
「な、ない……って! 一緒に寝たってどういう事だよヨシュア!? こいつとは何にも無いって言ってたじゃん!」
「へっ!?」
女神の爆弾発言により、火種が飛び火してきたヨシュアは戸惑いの声を上げる。
「へっ! じゃないわ!! どういう事か説明しなさい!」
ヨシュアへ詰め寄るメーサに対して、ララは勝ち誇ったような笑みで腕を組んでいた。
「いや、寝たっていうか……ララちゃんが寝惚けてベッドに入ってくるだけだよ」
「……なにそれ!! あんたが勝手に寝てるだけじゃない! ヨシュアも部屋に鍵位付けなさい! この泥棒猫に何か盗まれてるかもしれないわよ!」
「し、失礼ですわ、私は盗みなど致しません! それに、寝たのは事実です! だから、貴女より私の方が、ヨシュア様とずーと、深い関係ですわ。フッ」
「んだとこのアマ!! くっ……分かったわ、私も此処に住む!」
「何を勝手な事を! 貴女が此処に住む理由なんてないでしょうに!」
「うっさい! 良いわよね、ヨシュア!!」
「えっ!? ……あ、うん。部屋はまだ余ってるし、別に構わないけど」
「そんな……」
うってかわって絶望の表情を浮かべるララ、逆に勝ち誇った表情のメーサ。気分を害したララは、目の前にある肉に苛つきをぶけるように貪り出す。
「とりあえず、落着したみたいだな。それよか、メーサが人間界に来てるとは思わなかったぜ。それに、昔と随分雰囲気変わったな……」
「うっさいわね女には色々あんのよ。それに、私だってヨシュアとレメクが居るとは思わなかったわよ」
「ははっ、懐かしいね。また、こうして二人と会えて嬉しいよ」
「あいつが居ればまた、懐かしい四人組なんだけどな! そういや"エリーユ"は元気にしてんのか?」
「「…………」」
レメクが呟いた『エリーユ』という名前が出ると、ヨシュアとメーサは下を向き押し黙ってしまった。
「おい、どうしたんだよ二人とも? ……もしかしてエリーユに何か有ったのか?」
「……レメク。それは私が後で話すから」
「はぁ? なんだよそれ……よっちゃんからは話せねえ事なのかよ!」
「…………」
「黙ってねえでなんとか言えよ!!」
「レメク! 事情が有るのよ、だから──」
「良いんだ、メーサ。俺からちゃんと話すよ」
「でも……」
「俺もそろそろ、前を向かないといけないとは思ってたんだ。エリーユに叱られちゃうしね」
(そうだろ、エリーユ……)
ヨシュアは、心の中で問い掛けるようにその名を呟き。そして──巡る思い出を寄せ集めていた。
──数十年前、魔界──
子供の頃のヨシュアは角も生えておらず、人間と変わらないような容姿をしていたため、その事でよく、同世代の魔族からいじめられていた。
「お前本当に魔族かよ? 肌も真っ白だし気持ち悪いんだよ! 俺の父ちゃんも言ってたぜ、お前の母ちゃんは人間みたいな姿で気持ち悪かったって!」
「…………」
そして、当時のヨシュアは引っ込み思案で泣き虫、その姿は後に魔界で最強の男などと呼ばれるとは思えないほど。
「ちっ! なんとか言えよこの愚図! おいっ、お前らやっちまえ!」
「「はい!!」」
ガキ大将の子供がそう命令を下すと、取り巻きの連中は下卑た笑みを浮かべながらヨシュアをいたぶり出した。
「や、止めてよ。痛いよ……」
「悔しかったら抵抗してみろよ愚図!」
抵抗しろと宣ういじめっ子連中だが、実際に抵抗した所で余計にいじめが酷くなるだけだ。それを分かっていたヨシュアは身を丸くして(早く終わって)と、祈る事しか出来なかった。
この連中からのいじめは、もう一年近くになる。ヨシュアを見つけては絡んできて暴言、殴る蹴るを繰り返す。
そして、飽きるとピタッと止まるのだが、また数週間するといじめを再開する。そんな事を一年間飽きずに繰り返されている。
最早、ヨシュアに抵抗する気力など無かったのだ。ただひたすらに彼等が飽きるのを待つだけだった。
そんな絶望が続く日々。
しかし、そんな日々に、光が差し込む──
「ちょっとあんた達!! やめなさいよ!」
そんな気が強そうな女の子の声が聞こえてくる。
「あっ? なんだお前……って、エルフじゃんか! 森に引きこもってるエルフが何の用だよ」
ガキ大将の見下すような言葉に、女の子は怒りに震えると、
「うっさい!! 喰らえ!」
そう言ってガキ大将に駆け寄り、見事なストレートパンチを顔面にめり込ませた。
ガキ大将の子は一発KOで地面に倒れると、それを見ていた取り巻き達も何事かと女の子に視線を合わすが、
「あんた達もこいつと同罪よ!」と、何の罪なのか分からないが、取り巻き達にも鋭いパンチをお見舞いしていく女の子。
「うぐっ」「うえっ」
取り巻き達が倒れこみ苦痛の声を上げる中、女の子はヨシュアの手を掴み立ち上がらせると、花のような笑顔でヨシュアを見つめた。
「大丈夫? それよりあんた、エルフに似てるわね!」
「あ、ありがと……」
「あんた名前は?」
「えっ、ああ……ヨ、ヨシュア」
「ヨシュアか! 私は……エリーユ! 良かったら一緒に遊ばない?」
「えっ……僕と?」
「そうよ、あんた以外いないじゃない!」
「で、でも……」
「でももヘチマもないわよ! ほらっ、行くわよ!」
そう言いながら、エリーユは強引にヨシュアの腕を掴み引っ張っていく。端から見れば新たないじめっ子に連れ去られていくようだが──
荒れた心の平原に一輪の花が咲く。
エリーユに引っ張られていくヨシュアは、そんな気持ちがしていた……。




