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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
二章 エノク奪還編
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散りゆく花③ 回想編

「──じゃ、勝負の続きよ!」


 エリーユとメーサ姉妹の案内を終え、族長宅で一休みしていた時、エリーユのそんな一言が場に響く。


「え~、まだやるの?」

「なに言ってるのよ! 私はまだ一回も勝ててないのよ!! 勝つまでやるわ!」


 負けず嫌いのエリーユが悔しそうに叫ぶ姿に、それ以上文句を言えなかったヨシュアは、渋々ながらも付き合う事にした。


「分かったよ……次は何するの?(勝ちそうになったら、わざと負けてあげよう)」

「言っとくけど、わざと負けるような事したら、許さないんだからね!」


 心を見透かすようなエリーユの言葉に、ドキッとするヨシュアは取り繕うように口を開く。


「わ、分かってるよ! 全力でやるさ!」

「なら、良いけど。じゃあ、次はこれよ!」


 エリーユが手に持っていたのは円盤状の物体だ。どっからどうみても木の皿にしか見えない。


「お皿で何するの? 料理?」


 ストレートな質問。皿を持っていれば料理のワードが出るのは当然だと思うが、エリーユは首を横に振り『えっ知らないの?』とでも言いたげな表情だ。


「お皿じゃないわよ! 『フリスビー』よ! これをこうやってやると──ああして飛んでくの、分かった?」


 お手本とばかりにエリーユは、フリスビーという円盤状の物体を水平に投げた。すると──フリスビーはクルクルと回転しながら一直線に飛んでいく。


「お姉ーちゃーん! キャッチ出来たよ!」


 そして、フリスビーの向かう先には(大体五十メートル先)メーサが待機しており、メーサはフリスビーが目の前に来ると、それをキャッチして嬉しそうにジャンプしていた。


(成る程、ああやって遊ぶんだな。なんか楽しそう)


「それで、フリスビー? で、どう勝負するの? 僕としては普通に遊んでみたいんだけど……」

「簡単よ、遠くまで飛ばした方が勝ち。最初は私がお手本を見せるわ! 大丈夫、終わったらちゃんと遊んであげるから」


 と、余裕の笑みのエリーユ。流石にこれは自分が勝てると思っているのだろう。


 そして、エリーユはメーサが投げ返してきたフリスビーをキャッチすると、体を捻り力を蓄え、まるで円盤投げの選手のように体を回転させた。


「おりゃ!」


──エリーユが投げたフリスビーは「ヒュンッ!」と、風を切り飛んでいき、メーサの場所まであっという間にたどり着くが、まだまだスピードは落ちていないようだ。


『──ポトンッ』


 そして、とうとう回転を終えたフリスビーは、地に落ちる。落ちた先はメーサの場所から、さらに三百メートル地点。


 中々だわ、とエリーユもご満悦のようだ。


「凄いよ、エリーユ!」

「まあね。ほらっ、ヨシュアも投げてみなさい」


「う、うん。でも僕じゃあんなに飛ばないと思うな……」

「いいからやってみなさいよ!」


 エリーユにせっつかれたヨシュアは、もう一つ用意してあったフリスビーを受け取ると、エリーユの真似をして体を捻り、力を蓄える。


「とりゃ!!」


 回転はせずに投げたヨシュアのフリスビーは「ビュンッビュンッ!!」と、エリーユの投げた時の非ではない風切り音をさせ猛スピードで飛んでいく──


「なんでよ……」

「凄いよ、ヨシュアお兄ちゃん!!」


 二人の姉妹の反応は対称的だ。信じられない、と項垂れるエリーユの一方で、手放しでヨシュアを称賛するメーサ。そして、ヨシュア自身も、自分が投げたフリスビーがあんなに飛ぶとは思っていなかったらしく、口をあんぐりさせ放心していた。


『いでー!!』


 しばらくすると、そんな痛がる声がヨシュア達の所まで轟いてきた。


 回転を続け落ちる事なく、フリスビーがたどり着いた先。他の民家より一回り大きい家、間違いなくあれは族長宅で、窓から鬼の形相でこちらを睨んでいるのも間違いなくエリーユの父こと雷親父だろう。


「馬鹿者ー!!」


◆◆◆


「──さあ、次は弓よ」

「え、まだやるの?」


 先ほど、散々怒鳴られたにも関わらず、まだ勝負を諦めていなかったエリーユ。タフな少女なのは間違いないが、少ししつこい。


「当たり前よ!」

「ご、ごめん。僕そろそろ帰らなきゃ……」


 暗闇へ落ちゆく空を見ながら、残念そうに呟くが──帰りたくはなかった。やっていたのは勝負だとしても、ヨシュアは今日という日が、何時までも続けば良いのにと、願ってやまない。


「しょうがないわね。途中まで送ってあげるわよ!」

「えっでも、帰り一人になっちゃうよ……」


「大丈夫よ。どうせ親父が迎えに来るわ」

「そっか……エリーユは愛されてるんだね。なら、お願いしようかな」


 羨ましい──『エリーユは愛されてるんだね』ヨシュアが発言した言葉に、そんな気持ちが、吐露していたのかもしれない。


「むうっ……明日も、遊びましょう」

「いいの?」


「良いに決まってるじゃない!! 命令よ! 明日も遊ぶの」


 相変わらず強引だが、ヨシュアはその強引さが何故か心地良かった。


──魔界、悪魔族『族長邸』──


「ただいま帰りました」

「…………」


 帰宅の報告をするヨシュアに父ことインフェルノは、目を少し合わせただけで、なんの返答もしない。それどころか、出ていけ、とヨシュアを追い払う仕草をする。


「失礼しました……」


 そっと扉を閉めてその場を後にするヨシュア。何時もの事だ、と自分に言い聞かせるが、やはり寂しい。


 その後、ヨシュアは自室に戻る前に、古びた扉を開ける。所狭しと並ぶ本棚と、何やら不思議な物体(祖父の発明品)が乱雑に置かれ、部屋を圧迫していた。


 そう、そこは祖父の部屋。そして、窓際でロッキングチェアに寄り掛かる人物は、間違いなくヨシュアの祖父だ。


「おじいちゃん、ただいま」

「その声は、ヨシュアか──おかえり。今日は遅かったのう」


「うん、友達と遊んでたんだ!」

「ほう、友達が出来たか。良かったのう」


「明日も一緒に遊ぶんだよ! だから、今日はご飯食べて早く寝るんだ!」

「そうかそうか。それは楽しみじゃの~」


「うん! じゃあ、また明日ねおじいちゃん!」


 ヨシュアがそう言って部屋を出ると、祖父はヨシュアの背中を見ながら思う。


(あの子を見守れるのも後少しかの? 天界との交わり子など、遠い歴史を遡らねば出てこん。それに、交わった者が『○○○○』じゃ、あの子が強い力を持っているのは間違いないじゃろう。目覚める前に、力の使い方を教えねば……)


 この時、ヨシュアがエルフの森で見せた力の片鱗を少しでも語っていれば、最悪の事態は避けられたのかもしれない。


 だが、運命というのは、そう簡単なものではなかった。



──一週間後。


 晴れ渡る空、平原にそびえる大きな木の下で、ヨシュアは敵に立ち向かっていた。


「──これでどうだ!」

「うぐっ!」


 ヨシュアのパンチが決まり、倒れるガキ大将。エリーユとの特訓? の成果が出た瞬間だった。


 その光景に、取り巻き達は散り散りなって逃げていく──なんとも薄情なものだ。


「やったよ! エリーユ!」

「よくやったわ!」


「うぅー。ぐぞー!」


 ハイタッチを決めるヨシュアとエリーユ。残されたガキ大将は、一人悔しさで泣き叫んでいた。


「大丈夫かい? 痛かったよね、ごめんね」


 ヨシュアは、地面を叩きながら泣くガキ大将に、声を掛ける。自分も殴られて顔を腫らしているのにも関わらず、相手の心配をしてしまう。これはもう、ヨシュアの性分としか言いようがない。


「な、なんでだ! なんでお前はそんな……うぅー」

「きっと僕をいじめてたのも、何か理由が有ったんだろ?」


「…………」

「言いたく無かったら、言わなくても良いよ」


 無言のガキ大将に、ヨシュアはそれ以上突っ込む事なく立ち去ろうとする。すると、


「お前が! 羨ましかっだ!!」

「え?」

 

 ガキ大将の言葉に立ち止まるヨシュア。魔族とも言えない容姿の自分を、羨ましいだなんて、信じられない言葉だった。


「いつも、のほほんとしてるお前が、羨ましかっだ! 俺は……親父から過度な期待をされて、いつも優秀な自分でいなきゃいけない! でも、兄貴からは妬まれ、嫌われて、顔を合わせる度に暴言ばかり。そんな時に見るお前のボケッとした顔が、堪らなく癪に障るんだ! お、俺の……俺の居場所なんて何処にもないんだ!!」


(なんだ、僕と同じじゃないか)


 ガキ大将の気持ちを知ったヨシュアはふと、そんな事を思う。そして、ガキ大将の元に歩み寄りそっと背中を撫でる。


「僕と同じだね。あ、でも優秀って所は違うけど、フフッ」

「同じ? 俺とお前が?」


「うん。僕もね、居場所がないと思ってた。父さんや、お兄ちゃん達に嫌われてるし、母さんも居ないし。友達も居なかった。あっ、おじいちゃんは心配してくれるけどね。 でもね、今は違う──僕にも、大切な友達が出来た! そしたら、毎日が凄く楽しいんだ! そしたら、自分の居場所なんか、どうでも良くなった。 だから、君も僕と友達になってくれないかな?」


「お前と友達? ば、馬鹿かお前! 俺は……お前をいじめてたんだぞ!!」

「そんなの、どうでも良いよ。君とは良い友達になれそうな気がするんだ」


「お前って……本当に馬鹿だな」


 ガキ大将は伏し目がちにそう言うと、ヨシュアの差し出した手を取り、立ち上がる。


「俺で良かったら……友達になってくれ」


 恥ずかしそうに、改めて手を差し出したガキ大将。

 ヨシュアは、その手を満面の笑みで握った。


「宜しくね! 僕は、ヨシュア」

「あ、ああ。俺は、レメクだ」


「ちょっとー! あんた達何してんの!?」


 ヨシュアとレメクの雰囲気に、置き去りにされたエリーユが、痺れを切らして駆け寄って来る。


「エリーユ。新しい友達が出来たよ! レメクって言うんだ!」

「はぁ……あんた、いじめっ子を友達にしたの? ホント、ヨシュアって変わってるわよね」


 嬉しそうに報告するヨシュアに、呆れた口調で返すエリーユ。しかし、嫌な顔はしていないようだ。


「まあ、いいけど。さあ、早く遊びに行くわよ! ヨシュア! それとレメクも!」


「うん! ほらっ、レメクも行こう!」

「あ、ああ。あっ! 待てよ、ヨシュア!」


 快晴の空の下を駆ける三人。


 こうして、ヨシュア、エリーユ、レメク、そしてメーサを加えた四人は友情を深め、欠けがえのない友となる。


 笑い、泣き、時には喧嘩もしながら幸せな日々を送る四人。だが──幸せな日々は、そう長くは続かなかった。

回想編は、後1、2話を予定しています。

もう少しお付き合いください。

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