潜りこむ悪魔
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「──お、おいっ! 奴等を止めろ!!」
兵士達にそう言い残し、脱兎の如く馬車へと逃げ込むスネーク。なんとも情けない姿に、これで辺境伯を名乗るのか……と、民衆は呆れ返る。
そして、スネークを守る筈の兵士達は鬼の形相で迫る集団に、後退り始めた。
スネークの私兵三百に対し、暴徒は二百居るかどうか。数で言えばスネークの私兵が圧倒的有利だ。
それに、暴徒の殆どが市民、後退りする理由が分からないのだが──
「兵長!! エデン騎士団が迫ってます!!」
「分かっとる!! くっ! この数でエデン騎士団を止めるのは無理か……総員撤退! スネーク辺境伯様を領主邸までお守りする! その後、増援にてエデン騎士団を迎え撃つぞ!!」
兵長と呼ばれた男が兵士達に叫ぶが、エデン騎士団の圧に恐怖していた兵士達に、その声が聞こえていたかどうか分からない。現に、撤退の命令を受け動き出した兵士は僅かで、殆どの者はその場に立ち竦んでいた。
「兵長ダメです! 間に合いません!! 奴等が──う、うわっー!」
前方から響く兵士の悲鳴──最早、撤退は遅かった。
「くそっ! 間に合わんか……に、逃げるぞ!!」
「し、しかし、前方の者達は……」
「捨て置け!! 多少の犠牲は致しかたあるまい!」
「は、はあ!」
部下を見捨てる事をあっさりと決めた兵長は、さらに後方で退避していたスネークの元へ撤退し始めた。
──その光景を馬車から眺めていたスネークは「なんと情けない! あいつらは後でクビだ!」と、自分の事を棚に上げ一人憤慨していた。
「おいっお前ら! 使えない兵士などどうでもいい! さっさと私を逃がせ!!」
側で待機していたヨシュアとメーサに怒鳴るスネーク。そこで、ヨシュアはある提案をする事に。
「スネーク様、宜しければ自分が制圧してきますが」
「はあ!? あの騎士団相手に一人でどうにかすると言うのか!?」
「ええ、可能ですよ」
「フッ、だったら見せてみよ! もし出来たら報酬を上乗せしてやる。だが、失敗したらお前の分の報酬は出さんぞ!」
スネークのやたら上から目線の物言いに、ヨシュアは「それで構いません」と、呟き、一人暴徒の元まで駆けていく──
その頃、前方で騎士団の突撃を受けた百名の兵士達は、その数を残り一桁まで減らしていた。
「これがエデン騎士団か……恐るべし」
最後の兵士がそう呟き、バタッと崩れ落ちる。
『エデン騎士団』
小国との小競り合いなどには決まって顔を出し、圧倒的な力で敵を排除していた。そして、その名は自国だけに留まらず、他国にも響くほどの猛者達の集まり。
「──たくっあの人、暴れるだけ暴れろって言ったきり、何処にもいねえじゃねえか」
「副団長、この後はどうするんです? 逃げた奴等も追いますか?」
「さあね。とりあえず追いかけるふりで良いんじゃない? 団長も居ないし」
「それにしても、国からの勅命を出したスネークを襲うって……俺達、謀反者ですよね? 大丈夫なんすか?」
「団長の事だし何か考えが有るんじゃないの? まあ、振り回されるのには慣れたし、成り行きに任せるしかないっしょ」
「ハァー、それもそうですね」
副団長と呼ばれた男と団員の男が、そんな会話をしながら自分達がしでかした事を眺めていた。
二人の会話からも分かる通り、今回の暴動はとても町の問題だけでは片付かない。王から勅命を発表したスネークを襲うという事は、王に逆らったも同じ。
待っているのは謀反者の烙印と国からの追ってだ。それを覚悟で何故レメクが騎士団を動かしたのか……団員達も良く分からなかった。
「んっ? ……副団長、スネークの所から仮面を付けた奴が此方に向かってきてます」
「あっ? ああ、団長が言ってた奴か。なんか、一人で仮面の男が向かってくるから適当にやられとけって言ってたよ?」
「なんすかっ、そのフワッとした命令……もう、分かりましたよ! おいっ! お前らそんな感じらしいから頼むぜ!!」
「「了解です!!」」
「あっ、そう言えば仮面の男、メチャクチャ強いらしいから本気でやって良いって。何でもレメクさんでも赤子の手を捻る様にやられるらしいよ」
「はっ!? マジすか……ヘヘッ、なら相手に不足はないって事ですね! おしっ! お前ら、殺すつもりで行くぞ!!」
「「了解です!!」」
「じゃあ副団長、合図お願いします」
「ハイハイ、じゃあ──総員、突撃!!」
「「うおー!!」」
副団長の合図でヨシュアへと突撃する、総勢五十名のエデン騎士団。男達の雄叫びがこだまする。
(あれ? なんか凄い殺気で向かってくるけど……作戦では、お芝居の筈だよね?)
殺気を放つエデン騎士団に「おかしい」と、疑問抱くヨシュア。レメクから聞いていた話だと「俺の騎士団で一芝居うつから付き合え」という事だった筈なのだ。
しかし、相手は芝居どころか此方を殺す気で向かって来ている気がしてならない、ヨシュアだった。
──そして、
「どうも。誰だか知りませんが団長より強いらしいですね? お胸、お借りしますよ」
「はは……手加減してよ?」
「まさか、手加減出来るほど器用じゃありませんよ。お前ら! 囲んでやるぞ!」
「「はい!!」」
そう言ってヨシュアを四方から囲む騎士団。団員達の目は、一様に闘志が宿っていた。
「こりゃ、本気みたいだね……しょうがない、やるか」
騎士団員の本気を見たヨシュアは、覚悟を決めたように呟く。すると、四方からヨシュアを囲んだ団員達は、剣を振り上げ、斬りかかる──
どうだ? やったか? と、他の騎士団員達は固唾をのんでその様子を見守るが、
ヨシュアを取り囲んだ団員達は一斉に地にふせる。
「なっ! 何が起こった!?」
見守っていた騎士団の面々は驚きを隠せない。皆、エデン騎士団に入り、レメクに鍛えられた屈強な男達。いくら団長より強いと聞いていても、たった一人の男に自分達が負ける筈はないと強く思っていたのだ。
「お前ら! 相手はレメク団長三人分だと思え!! 十人でも二十人でも囲んで叩き潰せ!」
「くそっ! やってやるよ!! 行くぞー!!」
「「おおー!!」」
後方から副団長の言葉が団員達を煽る。すると、団員達は自分達を鼓舞する様に叫びを上げ、ヨシュアに総員突撃していった──
一人の男に殺到する騎士団。端から見ていた民衆達はそれほどまでに強い男なのか? と疑問を感じ、行く末を見守るのだが、
数秒後──そんな疑問は、一人の仮面の男に幻が如く掻き消された。
「うぐっ!」「カハァッ!」
「奴は何処に消えた!? っ! ぐぁっ!」
ヨシュアを取り囲んだ筈の団員達だったが、早々にヨシュアの姿を見失い──見えない何かにむざむざとやられていく。
あれだけ闘志を燃やしていた騎士団、しかし、姿が見えない強者に初めての恐怖を覚えていた。
「こんなのありかよ!? うぁっ!」
「そんな……俺達エデン騎士団が、たった一人にやら──あいてー!!」
そして、ヨシュアによりエデン騎士団は見事に散り、初めての敗北を味わう。
ものの数十秒で猛者と呼ばれるエデン騎士団を打ち倒した仮面の男。民衆の目には恐怖の対象として強く焼き付いた事だろう。
「いやー、お強い。団長三人分どころの話じゃなかったですね」
と、パチパチと喝采の拍手でヨシュアへと近付く副団長。彼は、戦いに参戦せず後方で成り行きを見守っていたのだ。
「すいません。手加減したつもりなんですけど……」
「いや、いいんですよ。近頃こいつらも調子にのってましたし、いい薬になりましたよ。それより新しい領主がお待ちみたいですよ?」
副団長の言葉に馬車へと視線を移すと、確かにスネークが馬車から降りて此方を伺っている。
「ああ、じゃあ、もう行きますね」
「ええ、それでは」
ヨシュアがスネークの元へ行くのを見送った副団長は、倒れた団員達を起こしつつ気だるそうに呟いた。
「ふぁ~あ、眠い。帰って寝よ」
──ヨシュアが戻ると、スネークは顔をニヤつかせ偉そうに話し出した。
「良くやった。まさか本当に一人で制圧するとは、確かに強いようだな。約束通り報酬は上乗せしてやる」
「いえ、これも任務の内ですから報酬は同じで良いですよ」
「ほう、それは殊勝な心がけだな」
ヨシュアの言葉に感心した様に呟いたスネークは、ハッと思いついた表情をする。
「そうだ。貴様、私の専属護衛にならないか? 貴様の強さなら申し分ない。これは闇ギルドを通さない貴様自身への直接的な提案だ。もし、私の従者になる気があるなら……そうだな、報酬は金貨千枚でどうだ? それに、信を置ける者だと私が認めれば、いずれ貴族として取り計らってもいいぞ。どうだ? 魅力的な提案ではないか? フヒヒヒッ」
「ちょっと! それは困ります! 彼はうちの者なんですよ、勝手な事をされては──」
「うるさい!! 私はこやつに聞いておるのだ。下衆な女の意見など求めておらん!! それに、引き抜き料も払ってやるから黙っておれ!!」
メーサの言葉を遮るように言葉を重ねるスネーク。メーサも引き抜き料を払うと言われれば黙るしかない。そこから先の話は最早、ヨシュアに委ねるしかないのだ。
しかし、ヨシュアがこんな男の従者になどなるとは思えなかったメーサは、仮面の裏で安心しきった表情をして素直に身を引いた。
そして、ヨシュアの答えは、
「分かりました。その提案、喜んでお引き受けいたしたます」
「そうか! なら後は私が話を通しておこう。貴様は今から私の従者だ、頼むぞ」
「御意」そう言って深々と頭を下げるヨシュア。
(えっ! 嘘でしょ!? 何でこんな男の従者なんかに……)
ヨシュアのまさかの答えに、態度こそ冷静だったが心は大きく乱れていたメーサ。
何故ヨシュアがスネークの提案を受け入れたのか?
それは、ヨシュアが後ろでに立てた親指を見れば、何となく分かってもらえるだろう。
そして、遠くからその親指を見つめていたフードを被った三人組は、口角をあげ『ニヤッ』と微笑みを浮かべていた。
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