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(3)

 ハイオークの巨体がいよいよ近づき、コボルト兵たちの攻撃もいっそう激しさを増す中――


 ついに、竜騎士に最初の犠牲者が出た。

 先頭を走っていた一騎が、いきなり馬ごと地面に倒れ込んだのだ。

 コボルト兵の投げたハンドアックスが、竜騎士の乗る馬の脚を直撃したらしい。


 勢いに乗ったコボルト兵が馬に攻撃を集中させ始める。

 続けざまに別の一騎が落馬し、さらにもう一騎がやられてしまう。


 そこへマティアスの怒声が飛んだ。


「脱落した者に構うな!! とにかく先へ急げ!!」


 僕は一瞬、非情すぎる、と感じてしまったが――しかしそれは指揮官としてやむを得ない判断なのだろう。

 ここで仲間を助けるため足踏みすれば犠牲はさらに増えるし、逆にハイオークを少しでも早く倒せば、落馬した竜騎士を救える可能性は高くなるからだ。

 

 後で必ず助けるから、その時まで何とか持ちこたえてくれ――

 彼らに対し、今はそう願うしかなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 コボルト兵の執拗(しつよう)な攻撃により、さらに数人の脱落者を出したのち、僕たちはようやくハイオークの元へたどりついた。


「うへえ、でっけえな!!」


 エリックがハイオークを見上げ叫ぶ。


 確かに、ハイオークは想像をはるかに超える巨人だった。

 身の丈は7メートル以上あるだろうか、鬼のような恐ろしい顔に、灰色の暗い目。全身ごつごつした黒い皮膚に覆われている。

 さらに体には頑丈そうな鋼鉄の鎧を身に付け、両手に巨大な鉄球付きの戦斧を持っていた。


 こんな化け物、本当に倒せるのか――?

 恐怖と緊張で、僕の心臓はバクバクと鼓動する。 

 

 一方ハイオークは、竜騎士に取り囲まれてもまったく動ずる様子はなかった。

 その場に仁王立ちしたまま、白く濁った眼でじろりとこちらを見下ろし、牙だらけの口を開く。


「キサマラ……ミンナ……コロス……」


 聞いただけで背筋がゾクッとするような、低く不気味な声。

 この怪物、コボルトとは違い人語が使えるのだ。

 エリックの言う通り、知能はかなり高いのだろう。


 ハイオークが一歩前にずしりと踏み出す。

 それだけで凄まじい威圧感だ。

 竜騎士たちはその強い「気」に押されるように、馬を少し後退させた。


 周囲のコボルト兵たちも攻撃を止め、こちらを威嚇(いかく)するように低い唸り声を上げている。

 辺りには風一つ吹いていない。空気がビリビリと張りつめる。


「思った通り、かなりやばそうな相手だな」

 エリックは額の汗をぬぐった。


 剣士としてかなりの腕前を持つエリックでさえそう思うのだ。

 そんな相手に対し、竜騎士たちは一体どうやって戦うのだろう?


「リナ様、奴に安易に近づかないで下さいよ。どんな攻撃を仕掛けてくるかわかったもんじゃねえ」

 エリックがハイオークの動きを警戒しながら、リナに声をかけた。


「は、はい」


 そう答えるリナの体は大きく震えている。

 振動が僕の体にも伝わるぐらいだ。


「リナ様、安心してください。僕が魔法で絶対に守りますから」


 戦闘経験ゼロの自分が言っても、気休めにしかならないかもしれない。

 正直、僕も怖くて仕方ないのだ。

 が、今は虚勢を張ってでもリナを安心させたかった。


「ありがとう。ユウトさん」


 リナが後ろを振り向き、無理に笑顔を作る。

 その大きな瞳にうっすらと涙を浮かべていた。

 こんな化け物と戦うのだから、泣きたくなるのも当然だ。


 ――だいたい何でリナみたいな女の子まで、戦争に駆り出されなきゃいけないんだ?


 彼女の涙を見てそう思った。

 アリスの場合は、まあわかる。

 病床に伏せる王の代わりに、ロードラント軍を率いて参戦したというはっきりとした理由があるのだから。

 しかしリナは何のために? 単にアリスのお付きとして従軍したのだろうか?




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