(2)
「準備はよいか!」
竜騎士たちの指揮をとる副官――例の赤銅色の鎧を着たマティアスが、集合した四十騎の騎士たちの前で叫んだ。
見送るアリスが馬を操り、僕とリナの前に止まって両手を伸ばす。
それから右手で僕の手を、左手でリナの手をぎゅっと握った。
「絶対に死ぬなよ、二人とも」
「はい、アリス様。必ず――」
アリスの手はやっぱり冷たい。
でもそれは、確かに心のこもった握手だった。
「さあ、そろそろ行きましょうぜ。急がないと、戦い続けている兵士がますます消耗しちまう」
と、エリックが言った。
「この作戦の成否はすべてお前にかかっている。頼んだぞ」
アリスがエリックの肩に手を置いてうなずく。
「これはもったいないお言葉。まあこいつの威力、見てて下さいよ。」
と、エリックが腰に差した『オーク殺し』の柄を握った。
「アリス様、それでは行ってまいります」
マティアスがアリスに挨拶をしてから、竜騎士に向かって号令をかけた
「ゆくぞ! 栄光あるロードラント王国竜騎士団の力、見せてやれ――!!」
それを合図に、兵士たちが陣形の一部を崩し通り道を開け、四十騎の竜騎士団が一斉に走り出す。
ついに乾坤一擲の大勝負が始まったのだ。
「私たちも行きますよ、ユウトさん!」
リナが馬の腹を蹴った。
馬は軽やかに走り出し、一気にスピードを上げ、竜騎士たちの真後ろにぴったりと付いく。
さらにその左横には、エリックの馬が並走する。
エリックは馬術にも長けているようで、初めての乗る馬を難なく操っていた。
そしてアリスたちを後ろに残し、円陣を出た途端――
うわっ!
すごい数……。
戦場は見渡す限りコボルト兵で埋め尽くされていた。
あまりの数の多さに、ただただ圧倒されてしまう。
「進め進め!! 雑魚にはかまうな!!」
マティアスが声高に叫ぶと――
「はッ!」
と、竜騎士たちが力強く呼応した。
そこからが圧巻だった。
竜騎士たちは行く手を阻むコボルト兵を馬で踏みつぶしたり、長槍で薙ぎ払ったり、まるで電動芝刈り機で雑草を一気に刈り取るような感じで、どんどん前へ進んでいく。
不意を突かれたコボルト兵は、慌てて弓や手投げ斧などの飛び道具で反撃する。
しかし竜騎士たちはそんな攻撃ものともしない。
槍や盾ですべて跳ね返してしまう。
すごい!
この人たち強すぎる!
僕は敵の真っただ中にいるのも忘れて感心してしまった。
「ほらな、これが竜騎士の真の強さだ。連中、やっぱり守るより攻める方が得意なんだな」
エリックはそう言いながら「おっと」と、手に持った長槍を素早く横へくり出す。
すると――
「ギャッ」
という叫び声がして、コボルト兵が地面を転がっていくのが見えた。
馬に飛びつこうとしたコボルト兵を、エリックが槍で一突きしたのだ。
軽々やってのけたように見えるが、そんなことない。
猛スピードで走る馬を乗りこなしながら、敵の急所を狙うのはかなり難しいはず。
エリックの戦闘力も、竜騎士に決して引けを取っていないということだ。
「気をつけろ。横からどんどんくるぞ!」
先行する竜騎士が叫ぶ。
前からぶつかっては敵わないと見たのか、コボルト兵が竜騎士団の側面を狙って襲い掛かってきたのだ。
「ユウトさん、しっかり捕まって!」
リナは馬を巧みに操りながらクロスボウを構え、飛びかかってくるコボルト兵に照準を合わせた。
リナの指がトリガーを引いたその直後――
「ギャッ」という悲鳴がして、コボルト兵がもんどり打って倒れた。
よく見えなかったが、矢はコボルト兵の胸を射抜いたらしい。
リナの弓の腕もかなりのものだ。
「おい、ユウト、右だ! 右が危ない!!」
続けてエリックが叫んだ。
数匹のコボルト兵が、僕とリナ目がけて一斉にハンドアックスを投擲したのだ。
――よし、今こそ!
僕は素早く『ガード』を唱えた。
一瞬、魔法の透明な壁がきらりと光り、僕とリナを包みこむ。
直後「ガンガン」という音がして、コボルト兵の投げたハンドアックスはすべて弾かれ、下に落ちた。
「へえー、今の『ガード』の魔法だろ。大した効果だ」
エリックが感心したようにうなる。
「なんかあったらそいつで俺も守ってくれよ」
「……うん」
だが、僕はあいまいに返事をしてしまった。
『ガード』の魔法の特性上、戦いの最中にエリックまでカバーできるか自信がなかったからだ。
「お、余計なことを言っちまったようだな」
口ごもった僕を見て、エリックが言った。
「冗談だ、冗談。とりあえずは自分と、リナ様の身を守ることを優先してくれりゃあそれでいいんだ」
「わかった。でも、できる限りのことはするよ」
申し訳ない気持ちになりながらも、僕は思った。
それにしても、エリックっていったい何者なんだ? ――と。
やたら強いし、すごい武器を持っているし、おまけに魔法の知識もいくらかある。
少なくとも、田舎出身の平凡な兵士というのは絶対に嘘だ。




