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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第三十一章 サバト -淫魔の夜ー
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(17)

「ちょっと、ユウちゃん! なんなの! このネズミたちは!!」

  

 ヒステリックに叫ぶ男爵。

 どうやら男爵は、城壁を破壊しデュロワ城の間近に迫る外のパンタグリュエルよりも、目の前で走り回るネズミの方が気になるようだった。


「我慢してください男爵。このネズミも一応みんな食糧になってくれたわけじゃないですか。それにこれはすべて外にいるパンタグリュエルを倒すためなんです」


「ええ――!? もしかしてユウちゃん、このネズミであの巨大なゴーレムを倒すつもりなの? やだぁ、そんなのどう考えても無理じゃない」


「無理かどうかやってみないと分からないでしょう。勝算もちゃんとあります。それより男爵様、城の外へ通じる扉を全部開けてくださいとお願いしたのに閉まったままじゃないですか」


「ごめんなさい。でもいくらユウちゃんの頼みでもそれはちょっとねェ……。お城の外にはゴーレム以外の敵はまだいるわけでしょう? そいつらが城の中に入ってきたらと思うと、怖くてできなかったのよ」


「グリモ、その点は大丈夫だ」

 と、アリスが男爵に言った。

「その他の敵はリューゴたちがほとんどすべて駆逐した。――さあ、兵士たちよ、扉も窓もすべて開けよ! ネズミたちを野に放してやるのだ!」


 アリスの命令となれば、誰も反対する者はいない。

 兵士たちは城の外に通じる大小複数の扉や窓を、次々開けていった。

 同時に、陽の光が薄暗い城内に差し込み、辺りが一気に明るくなる。

 そしてその明るい光に誘われるように、ネズミの大群が我先にと外に飛び出し始めた。

 アリスがその光景を見て僕に言った。


「ネズミも本来なら暗い場所を好むはずだろうに、長い間地下に閉じ込められていてよほど鬱憤がたまっていのだろうな」


「ええ、ここまで計算通りに動いてくれています。さあ、外に出て様子を見ましょう。そろそろ城壁はもたなくなるはずです。パンタグリュエルがそこを通過すれば、あとはもうこのお城を破壊するだけです」


 僕とアリスは、みんなの先頭に立って城外に出た。城の中に立てこもっていたほとんどの兵士たちも後からついてくる。

 青い空のもと、すでに城壁の一角は大きく崩れ去っていた。その間から、この世の終わりを告げる破壊神のように、パンタグリュエルの巨像が現れた。


「おおお……」


 パンタグリュエルの人知を超えた圧倒的な姿に、兵士たちが思わず息を漏らした。    

 いつもことあるごとに悲鳴を上げて大騒ぎをする男爵ですら、口をパクパクさせるだけで何も言えなくなってしまっていた。

 これではもう、戦う前から負けている。

 だが、こちらにはまだ切り札がある。

 ――ネズミだ。

 生物の中では知能も体力も最弱に近いはずのネズミたちだからこそ、パンタグリュエルなど恐れもしないんのだ。


「行け、行ってくれ! ネズミたち」


 僕はそう叫んだが、ネズミたちは誰に操られているわけでもなく、城の中から溢れるように外に飛び出し、まるでレミングスのように列をなして一斉に疾走し始めた。本能的に自由を求めて行動しているのだろうか、彼らが走って目指す先には、パンタグリュエルが開けた城壁の大穴あった。

 このままいくと、巨人パンタグリュエルと、ちっぽけなネズミが、正面から衝突する。


「ちょっと、ユウちゃん」

 男爵がようやく口を開いた。

「水を差すようで悪いけど、あんなネズミ、ゴーレムが踏みつければアッという間に全滅じゃない? ――あらら?」


 男爵が目を真ん丸にして驚いたのも当然だ。  

 ネズミの大群がスピードを増しながら近づくにつれ、すべてをなぎ倒し進み続けてきたパンタグリュエルの足の動きが、突如に鈍くなった。それはまるで、電池がなくなりかけた機械仕掛けのおもちゃのロボットのようだった。


 パンタグリュエルは、それからすぐに足元をネズミの波に呑まれた。同時に、全身の動きが完全に停止してしまった。 

 予想通りだ。

 いかにパンタグリュエルが巨大で強大でも、中身はリナ――つまり弱点はそのままなのだ。

 

「ユウト、なぜリナの嫌いなものがネズミと知っていた?」


 目の前で繰り広げられる、今まで見たことないような不思議な光景を眺めながら、アリスが聞いた。


「はい、以前リナ様のことを『スキャン』の魔法で調べたことがあったのです。その時にネズミが弱点だということがわかりました。それを覚えていただけです」


 アリスが眉をピクリと動かす。


「……お前、得意の魔法を使ってそんなことをしていたのか。あまり趣味がいいとは言えんな」


「い、いえ! その、あの……ちょっとした必要に迫られてです」


 まさか、今さらその点をアリスに指摘されるとは思わなかった。

 これでは、以前、アリスのステータスものぞき見したことあるなどと、とても言えない。


「まあよい。それよりも今がその時ではないのか?」


「は、はい、チャンスは今しかありません。パンタグリュエルがいつまで停止していてくれるか定かではないですから」


 アリスの追及を逃れてほっとする暇はない。

 僕は周りの兵士に向かって目いっぱい叫んだ。


「皆さん、今です! ネズミのおかげで動きが止まった今こそパンタグリュエルを倒す唯一のチャンスです! さあ、ペアになって鎖や縄を手に取って、それを広げるようにしてください。いいですか? それを使って、パンタグリュエルの足をぐるぐる巻にしてやるのです」

 

 しかし、兵士たちは黙ってその場から動こうとしない。パンタグリュエルがあまりの巨大すぎて、突撃しようにも、どうしても身がすくんでしまうのだろう。 


「全員聞け!!」


 その様子を見ていたアリスは、置いてあった鎖をつかんで馬にまたがると、喉が張り裂けんばかりに指示を飛ばした。


「ユウトの言う通り、パンタグリュエルがいつまた動きだすとも限らん! その前に何としてでもやつを倒せねばならない。まずは私とユウトが先頭に立つから、後からついてこい」

 

 アリスがそう言い終えてから、僕に手を伸ばし、馬に引き上げてくれた。そして、鎖を手渡してきた。

 その時――


「アリス様、ユウト、鎖の片一方の端はオレに持たせてくれ。そいつを巻き付けてあのゴーレムをすっころばしてやるんだろ?」


「エリック!! 」


 馬にまたがったエリックが、僕とアリスに近寄ってきた。外城壁の守備から戻ったばかりなのだろう。

 しかし間近でエリックと言葉を交わすのは、ずいぶん久しぶりな気がする。

 アリスはエリックに向かって言った。 


「これまでの見事な働き、ご苦労であった。だが、休んでいる暇はない。ロードラントの王の名代として私が先陣を切るが、協力してくれるか」


「もちろんでさあ。――ユウト、ほら、俺は鎖のこっちを持って馬を走らせるからお前もそれに合わせろよ。いいか? 放すんじゃないぞ」


「わかった、エリックも気を付けて!」


 その様子を確認すると、アリスは愛馬の腹にけりをいれ、同時に叫んだ。


「さあ、みんな私に続け!! 今、目の前にいるパンタグリュエルは、ただの動かぬ石像にすぎん!!」


「ううううぉぉぉぉ――!!」


 アリスにしっかり勇気づけられた兵士たちが、一斉に鬨の声を上げる。


 ――いよいよ、そして今度こそ、最後の戦いが始まろうとしているのだ。


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