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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第三十一章 サバト -淫魔の夜ー
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(16)

 地下食糧庫の扉の前では、以前と同じ顔見知りの兵士が、一人で見張りをしていた。

 

「おっ、ユウトじゃねえか。お前今までどこ行ってんだよ――あ、これはアリス様!!」


 僕がアリスを連れているのに気づき、兵士は急に姿勢を正した。

 

「任務ご苦労。このような場所ですまないな」

 と、アリスが兵士に声をかけた。

「ところで中の化けネズミたちはどうなっている」


「はあ……どうもこうも元気いっぱいで、というかキーキー鳴き声がうるさいのなんのってわけです。しかもそれが一日中続くもんだからこっちはもう気が狂いそうなくらいでして」


 確かに兵士の言う通り、扉の向こうから、無数のネズミの生理的に不快な鳴き声が、絶え間なく聞こえてくる。


「しかもですね。王都から来た援軍が糧秣をしこたま運んできてくれたおかげで、城のみんなはこの化けネズミに見向きもしなくなっちまったんですな。そりゃあ他に食うもんがあればネズミの肉なんか誰も食べたくありませんからね。だから一向に数が減らねえし、もしかししたらネズミども中で繁殖してんじゃねえかな?」


 兵士や城の住人がネズミを食べ尽くしてやしないかと多少心配だったが、数が増えてれば逆に好都合だ。

 

「なるほど、じゃあ中にはまだ数千匹はいますね。ああ、よかった」

 

「よかっただと? おいおいユウト、お前何言ってんだよ。こっちは全然よかねえよ! こんなネズミの大群、今さらどっかに逃がすわけにもいかないし、いちいち駆除するのも大変だしいったいどうんすんだよ」


「今さらも何も、これからすぐに扉を開けてネズミたちをすべて解放します」


「ええっ! はあっ?」

 兵士は唖然として言った。

「お前、本気かよ? こいつらを放して敵をかく乱しようというのか知らんが、しょせんたかがネズミでほとんど意味ないと思うぞ。むしろネズミが城の中かけまわって味方の方が大混乱になるんじゃねえか?」


「それはわかっています。しかし今は非常事態でそんなことを考えている場合ではありません。むしろこのネズミを利用するしかみんなを助ける方法はないのです」


「なんか外がヤバそうな状況だってのはわかるけどよ、でもなあ……俺にはお前がいったい何を考えているんだかさっぱりだ」

 兵士は困った顔してアリスに尋ねた。

「あの、アリス様、ユウトの言う通り、本当にネズミを放ってよろしいので?」


「ああ、かまわん」

 アリスは即答した。

「どうかユウトに従ってくれ。いや、この件は私の命ということにする。責任は私がすべて負うから安心しろ」


「……承知しました。アリス様がそこまでおっしゃるのなら仰せの通りにします」


 兵士は腰に下げた鍵束を手に持ち、扉についた巨大な鋼鉄製の錠前の鍵穴に、鍵の一つを差し込んだ。

 それをカチャリと回し、ロックを外す。


「ではいきますよ。ネズミの大群に押しつぶされないように、お二人ともどうか壁際によってください」


 兵士は大きく息を吸って、力の限り一気に扉を開けた。

 次の瞬間――

 閉じ込めらえていた数千匹の化けネズミが、一斉に食糧庫の扉から飛び出したのだった。


「うおおおおおーーーー」


 扉を開けた兵士が思わず叫ぶ。

 が、それもすぐにけたたましい鳴き声の前にかき消され、ネズミたちは、本能からか、地上へ続く階段に向かって一直線に走り出した。


「アリス様、僕に捕まっていてください」


 僕はアリスの引き寄せ、壁にぴたりと体をつけた。

 無数に連なってチューチューゾロゾロ走るネズミたちの背中は、まるで怒涛の勢いで流れる灰色の洪水のように見え、今まで異世界で見てきた光景の中でも、かなりのおぞましさだった。

 が、アリスは顔色一つ変えず、むしろ楽しそうに言った。


「行け行け、ネズミども! お前たちは全員釈放、すべて自由だ!!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 短時間のうちに、ネズミたちは食糧庫からすべて逃げ出した。

 もちろん倉庫の中の食料はすべて食い荒らされ、すっからかんだ。


「さあ、アリス様、急いで地上に戻りましょう」


 僕はアリスの手を引いたまま階段に向かおうとすると、一人取り残されそうになった兵士が焦って叫んだ。


「あのー、オレはどうすればいいんで? もうネズミどもを見張る必要はなくなったわけだし……」


「ああ、申し訳ないです。できれば僕たちといっしょに来てください。パンタグリュエルを倒すためには人は一人でも多い方が良い」


「パ、パンタグリュエル……? なんじゃそりゃ」


「説明は後です! 時間がありません」 


 僕とアリスは兵士を連れ、降りてきた時に負けないスピードで階段を駆け上がり一階に出た。

 すると案の定、城のあちらこちらから「キャー」「ギャー」というー複数の悲鳴が聞こてきた。


「ほーら、言わんこっちゃない――うわっ」


 そう言ってあきれる兵士のすぐ横を、逃げ出した大ネズミが何匹も通り過ぎて行く。

 

「とにかく男爵のところへ戻りましょう」


 ネズミの群れを避けながらエントランスに戻ると、そこには、男爵が集めた大勢の兵士たちが待っていて、僕が頼んでおいた縄や鎖が大量に床に積み上げられていた。

 だが、ネズミたちも、すでにエントランスにかなりの数が侵入しており、必死に追い払おうとする兵士などおかまいなしに、我が物顔で床や壁をはい回っている。


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