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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第二章 異世界転移
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(2)

 セリカは運転手つきの車に僕を乗せ、自分の家――広大な庭のある大きなお屋敷に招き入れ、そこでお茶をだしてくれた。

 なぜセリカがそんなことをしてくれるのか、まったく見当もつかなかったが、彼女の不思議な雰囲気に呑まれ、僕はいつしかすべての悩みを彼女に告白してしまったのだった。


「そういうことだったの」

 と、話を聞いたセリカは言った。

「なかなか厳しい状況ね。――今、わたしが有川君に優しい言葉をかけてあげることは簡単。でも、たぶんそれじゃあなたを救うことはできない。はっきり言って、今のままで有川君が七瀬さんを取り戻すことは、ほとんど不可能でしょうね」


「………………」


「佐々木龍吾りゅうご先輩――確かに彼はあらゆる面であなたより秀でている。私が見ても格好いいと思うもの。二人はお似合のカップルよ。――でもね七瀬さんが有川君から離れて行った本当の原因は、佐々木先輩ではないと思う」


「え?」


「あなたは何も行動しなかった。あなたはあまりにも臆病だった。それが根本の原因よ。ねえ、そんなにも七瀬さんのことを想っていたのに、今までどうして告白しなかったの? 機会はいくらでもあったでしょう?」


 セリカの言葉を聞いて、目頭が熱くなってきた。

 どうしても涙が抑えきれないのだ。


「ほんの少しの勇気で、道は開けたかもしれないのに、ね」


「その通りだよ」

 消えりそうな声で、僕は言った。

「こうなったのは当然の結果なんだ……」


 理奈に対し何もできなかった自分。

 幼ななじみと言う地位に甘えていた自分。 

 情けなくて本気で死にたかった。

 膝の上でぎゅっと握ったこぶしに、涙がぽとりと落ちる。 


「さてと――」

 セリカは立ち上がって手を後ろで組み、ゆっくりと部屋の中を歩き出した。

「あなたを救うにはどうしたらいいか……」


「もういいよ」


「いいえ、ここまで事情を知ってしまって引き下がれないわ」


「いいから、もう止めてくれ!」


「静かに……」 

 セリカは突然くるりと振り向き、突拍子もないことを言った。

「有川君――いっそ死んだ気になって、異世界に行ってみない?」  


「は?」


「どうせ死ぬつもりだったんでしょ? そこまでの覚悟があるのなら、異世界に行って人生をやり直すのよ」


 いきなり何を言い出すんだこの人。

 頭おかしい……?

 僕はポカンとしてセリカの顔を見上げた。


「実はね、私は人を、その人が望むような世界に送り込むことができるの」


「へえ……」


「論より証拠、私があなたにピッタリの、あなたが力を発揮できる世界にいざなってあげる。――さあ、どんな世界に行ってみたい? 宇宙を自由に駆け巡るSFの世界? それとも剣と魔法の冒険ファンタジーの世界?」


「どっちもちょっと……」


「うーん。少し古臭かったかな? じゃ、いっそのこと、アニメやマンガにあるような美少女に囲まれるハーレムな異世界は?」


「いや、それも遠慮しとくよ。でも、あえて言うなら――ネットゲームの世界がいいかな」


「ネットゲーム?」


「はまっているネトゲでアナザーデスティニーというMMORPG」


「ああ、それなら私も知っている」


「そこで僕は回復役ヒーラーしてるんだけど、あの世界では確かに自分が必要とされていた。自分が存在していてよいという実感があった。まるで小学生の妄想みたいだけど、いっそゲームの世界が現実になればいいと思ったこともある」


「いい! それこそ有川君の力を生かせる最高の場所よ」

 と、セリカは目を輝かせて言った。


「……あのさ、それ、本気で言ってるの、清家さん」


「もちろん! そうときまったらいそがなきゃ。私の力を見せてあげるから。さあ、こっちにきて」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 僕はセリカに導かれ、安楽椅子が一脚置かれた殺風景な部屋に来た。

 あまりの展開の速さについて行けず、すべてがされるがままだ。

 でも、セリカがあまりに真剣なので、なんだか本当に異世界に行ける気がしてきた。


「さあ、その椅子に座って、あ、一つ言っておくけど、こっちの世界とはいつでも連絡できるし戻ってこれるから安心してね」


 なんだ、戻ってこれるのか。

 そこは少し拍子抜けだった。

 そういった異世界って、一度行ったら二度と戻れないってのが相場だと思っていた。 


「でもさ、異世界から連絡ってどうすればいいんだよ」


「それは簡単。向こうの世界に行く際、いっしょにスマートホンも転送するから、それでして」


 なんだそりゃ。

 そんなことができるのか? 


「ただし、あなたの望んだ異世界は剣と魔法が支配する冒険の地――ケガをしたり場合によっては命を落としたりする危険は、こっちの世界よりずっと高いと思う。で、その覚悟はある?」


「……覚悟するも何も、どうせ死ぬつもりだったんだから別にいいよ」


「いい心構えね、じゃあ早速始めましょうか」


 セリカはニッコリとした。

 それは屈託のない愛らしい笑顔にも見えたのだが――

 いまにして思えば、あれは悪魔の微笑みだったのかもしれない。


「じゃあ、これを飲んで」

 セリカは緑色の液体の入ったグラスを差し出した。

「これを飲むとしばらく意識を失うわ。そして目覚めた時にあなたは異世界にいる。オンラインRPGアナザーデスティニーに似た、剣と魔法が支配されたファンタジーな異世界によ」


 グラスを手に取って中身を確認する。

 見るからに怪しげな液体だ。

 いきなり飲むのにはさすがに躊躇ちゅうちょしてしまう。


「毒じゃないから大丈夫よ。ただの催眠導入剤みたいなもの。私があなたを異世界に飛ばすのに必要なプロセスと思って」


 もう深くは考えまい。

 ここまできて後戻りしたくない。そもそもこの世に未練なんてないのだから。


「じゃあ、飲むよ」


 そう言って、僕はその液体を一気に飲み干した。

 すぐに意識がもうろうとしてきて、頭がほわぁんとした感じになる。 

 そんな僕にセリカが耳元でささやく。


「有川君、最後に一つ約束して。向こうの世界に行っても絶対現実世界のことは向こうの人たちに話しちゃだめ」


「なぜ?」


「さもないと恐ろしいことがおこるから」


「?? よくわかんないけど、わかったよ……」


「よろしい! 有川君は私の見込んだ通りの人のようね。あなたが思えば、それはそこにある――じゃ、頑張って」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の意識は完全に落ちた。


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