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第2話 鉢と土って大事だよ


 ——さて、そうと決まったら今日中に揃えちゃおっかぁ!


 と、専属ハーブアドバイザー、マリーが話す。必死の交渉…というか頭擦り付けての懇願の末、必要な道具はマリーの家族のお店である芦頭商店で買う約束でなんとかしてもらった。

 

 冗談だよとクスクス笑われたけど…。うーん、あれは本気だった気がする。

 

 そんなことがありかがらも、カモミールを育てるのに必要な道具を一緒に揃えてくれるみたい。みくる専属のハーブアドバイザーとして。


 

「まずはこれだよぅ」

 

 マリーはさっきまで座っていたカウンターのすぐ近くから、植木鉢を取り出した。

 

「コップだと上手く育たないんだよねぇ」

「え!なんで!」

「水はけって聞いたことあるー?」

 首を傾げてマリーが聞く。

 

 全く知らない!水はあればあるだけいい!とでも言いたげな表情をみくるから感じ取り、生徒は選ぶべきだったなぁと若干後悔する。


 次から試験はめちゃくちゃ難しくしてやろう。

 

「ずーっと水があると、どうなると思う?」

「草が育つ!!!」

「0点!!」

 

 みくるの元気に負けないように元気を出してみた。みくるが驚いた表情で固まってるところを見るに、大成功だったわけだ。

 

「まあ、ペットボトルとかに水を入れておいたら藻は育つだろうけどー、人間が欲しい野菜とかハーブは育たないんだよぉ」

 

 いつも通りの間延びした口調に戻り、続ける。

 

「簡単に言うと、呼吸が出来なくなっちゃうんだよねぇ」 

「呼吸…?植物って光合成するんじゃないの?」

 

 …!?びっくり返された…。コイツにそんな知識があったとは…。

 

「植物も呼吸はしてるんだよぉ、呼吸で使う酸素より、光合成で出す酸素が多いから、酸素を出すって言われてるだけ〜」

「そうなんだ!なんで自分で作った酸素を使わないんだろ…?そのまま使えばいいのにね!」

「…それは帰ってからAIにでも聞いてみて、わからん」

「わかった!!」

 後で自分も聞いてみよう。難しすぎる。



  

 えーと…どこまで話したっけ…。あ、なんにも話してないや。

「植物って、葉っぱだけじゃなくて根っこからも呼吸してるんだよねぇ。水が入ったり乾いたりすると、土の中に酸素が入ってくるって感じぃ。」

「なるほどー!わかった!」

 

 水やり→空気が押し出される→水が乾燥する→空気が入り込むのイメージを伝えたいけど…まあわかったならいっか。

 

「でも、どうしてコップじゃだめなの?乾かせば根っこも息出来るんだよね…?」

 

 まさか…植木鉢を売りつけるために…!?とでも言いたげな表情をするみくる。

 その質問待ってましたと言わんばかりのニヤケ顔を見せるマリー。

 その顔を見て更に疑いを強めるみくる。最悪の悪循環が完成した。

 

「じゃあさぁ、家で1番お水を使う場所…お風呂を想像してみてぇ?」

 

 想像したよ!とみくる。どんな綺麗なお風呂なのかな。さーて汚すぞー!

 

「そのお風呂、お水入れてドアも窓も全部閉めっぱなしにしてみてぇ」

 

 頭にはてなマークを浮かべながらも想像してみる。閉め切って、お風呂からどんどん蒸発してきて…うーん、なんか嫌な匂いがする気がする。

 

「カビる…!?」

「せーかーーい!!」

 

 胸の前で2つグッドポーズを取るマリーに、やったー!と喜びを見せるみくる。

 

「根っことか、土とかがカビちゃって、植物がだめになっちゃうんだぁ」

 

 ふむふむと頷くみくるを見て、詐欺師や怪しい植木鉢販売士の疑いは晴れたなと安心する。


 

「植木鉢がそんなに大事なものだなんて知らなかったよ〜…」

「ふふ、今後ご贔屓に〜」

 

 新たな顧客が安定しそうな気配に、マリーは喜ぶ。新しいお客さんはどんな人でも嬉しいね。


「さてさてぇ、植木鉢は分かってくれたみたいだけど、土も大事なんだよぉ」

「えぇ…土もなのー…??」

 

 おかしい…。さっき詐欺師の疑いは晴れたはずなのに…!今度はなんたらパワーサンドを売りつけるスピ系販売者を見る目をしている…!


「土ってね、植物からしたらご飯と、お家と、足場なの。」

 植物の呼吸以上に頭に?が浮かんでいるみくるを見て、次の弟子は本気で試験をすることを決意する。

 

「まず、ご飯。植物も栄養がないと育たないんだよねぇ」

「光合成だけじゃだめなの?」

「うん、だめ、なんだけど…ちょっと説明が難しいから、みくるがもうちょっと慣れたら話すねぇ。」

 

 ふーんと口を尖らせるみくる。こいつに理論はまだ早い。実践が先だ。と見切りをつける。多分窒素リン酸カリウムとかわからんだろう…。


「お家と足場は一緒に説明しちゃうねぇ。みくるは、お家の中の床が全部コンクリートだったらどう?」

 

「えー…それは痛そうだね…?」

 

 そうだよね、うんうんと続ける。

 

「じゃあ反対に、全部がふわっふわのクッションだったら?」 

「ゴロゴロしやすそう!」

「歩きにくくない…?」

 

 あー!たしかにー!とみくるはニッコニコの顔をする。いやまあゴロゴロしやすそうは分かるけど…一生ゴロゴロしたいなぁ…。

 

「とにかく、土でカーペットとか畳みたいな過ごしやすい空間を作ってあげるのが大事ってことだよぉ」

 

 わかった!と元気な答えが帰ってくる。続けて、

 

「でも、どんな土ならこの子が過ごしやすいのー?」

 

 その言葉に、待ってましたとばかりにマリーが答える。

 

「そんなあなたにぃー!ほとんどの植物が快適な土がこちらでーす!万能培養土ー!」

 

 と、某青タヌキの真似をしながら最強の土をばーんとみくるの目の前に出した。おぉー!と手を叩く彼女に、セールストークを続ける。

 

「これに植えたらほとんどの植物は大丈夫だよぉ。硬さも、栄養も、水はけも全部良い。とりあえずカモミールなら絶対大丈夫!これ使って育ててみてねぇ」

「ほんとに万能なんだね!!」

 

 マリーの話を聞いて、みくるはカモミールを買った時と同じようなわくわくを感じた。

 

 これでひとしきり育てられる道具は揃ったけど、他にも…と次の話を始めようとするマリーの言葉を振り切って、お金を支払い、ありがとー!また来るねー!と駆け出した。その額なんと500円。

 

 すぐ植えて、また3日後、1週間後に育った姿を見せに行こう!今の自分には先生がいるしね!

 

 扉に手をかけ、帰ろうとすると、

「待って!カモミールの種買っていかなくてどう育てるの!?」

「あ…。確かに…!!?」

 

 バタバタとカウンターに戻り、最初に開いた種を購入。もう我慢できない!といった表情で帰って行った。

 

「へへ!今日はありがとう!またねー!」

 

 バタン。と扉が閉じた音がしたあと、久しぶりに外から車の音が聞こえた。

 

 それと同時に、種撒き散らしてないといいなぁ…と、心の中で願った。




ここまで読んでくれてありがとうございます!!

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