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第1話 ハーブシード

 目が合った。


 いや、一方的にそう思っただけだと思うんだけど、運命だと思った。


 目が合った相手は、園芸コーナーの一角にあるハーブの種。カモミールの種だった。



 今まで植物には全く興味がなかった。野菜はそれなりに食べるけど、育つ姿を見たのは小学校でトマトを育てた時くらい。…それも水やらなくて枯らしたなぁ。


 先生が育ててた予備なのかな?それを貰って、なんとか収穫までできた記憶がうっすらある。



 遊びに行ったお土産として買ってきたサボテンは、水をやりすぎて枯らした。



 そんな植物を育てることを全くしてこなかった。したとしてもうまくいかなかったのに。


何故かハーブの種を手に取ってしまった。


 


「チャレンジ…してみようかな!」

 



 種の袋を手に取り、立ち上がる。なんとなくウキウキワクワク、なにか始まる気がしている。


 そのままレジへ行き、スマホのキャッシュレス決済で支払いを完了する。


 

 なんとなく小っ恥ずかしい感じもする。ただ、支払いを終えて店員さんから商品を受け取った時、なんだか認められた気がした。




 ただいま、おかえりと、いつもの挨拶を母と交わす。


 買ったものは内緒。なんとなくだけどまだ少し恥ずかしくてお話しにくい。相談していないけど、自分の趣味ってことで認めてもらうことにしよう。


 私に趣味なんて何もなかった。きっとこの子なら良い趣味になってくれる。そんな確信があった。



「よし、まずは種まきだ!」



 何も分からないけど、種からの育て方なら学校で習った!水と、土と、あったかければ大丈夫!



 なんとなくの自信と、カモミールならなんとかしてくれるという確信で、そのまま準備を始めた。


 家の目の前から砂のようにサラサラした土を持ってきた。子供の頃に使っていたコップが目に付いたので、これからは植木鉢として生きていってもらおうと思った。



 土を詰め、わくわくと種の袋を手に取る。ここまでずーっと袋の中だったけど、ついに初対面だ〜!


 緊張しながらゆっくりと袋を開ける。チリチリと音を立てながら、ゆっくりと開けた。

 

 ──パラパラ…。

  

 おっと、黒い小さな粉みたいなものが落ちてきた。土の上に乗せるようにしよう。


 袋の角に挟まっていたものだろうか。そういえば薬を開ける時みたいにパンパンって落としてなかったなと思い出す。


「なんだろ?これ?」


 指でつまめないくらい小さい。きっとこんなの種じゃないな。そう考え、中身が出るように袋をひっくり返す。


 サーっと中身の全てを土の上に出し切り、袋の中身を見る。


「なんにもないじゃん…!!!なんで!?」


 袋をパサパサと振り、それでもなにも出てこない…。


「この黒い粒の中に種が混ざってたのかな…?」


 自分の目には何か別のものが混ざってるようには見えなかったが、そういえば自分は植物を育てるのが下手だったと思い出し、土を被せて水をかけておくことにした。


「よし!これで芽が出たらそれでいいし!芽が出なかったらクレームだ!」


 恐ろしいことを考えて、本日の作業を終えることにした。




 ——翌日

 芽が……!!

 出て!!!!

 ない!!!!!!!!


 よし。クレームだ。クレームを入れに行こう。

 リュックの準備とクレーム内容の準備を整えて、出発しようと思った、でも残念ながら雨。

 ちっ。今日は見逃してやる。




 ——さらに翌日

 芽が!!

 出て!!!!

 ない!!!!!!!!


 よし。クレームだ。今日こそクレームだ。

 昨日、一昨日と全く同じマグカップを見た。さすがの私も我慢の限界だー!


 昨日は荷物を準備してから窓の外を見たが、今日は窓の外を見てから準備を始めよう。そう思ったけど、外を見るまでもなく豪雨の音が響く。


 中々しぶといな…!明日こそ…!




 ——さらにその翌日

 芽が!!

 出て!!!!

 る!!!!!!!!!!!!!!


 ついに芽が出た!あの砂粒の中に種が入ってたんだ!それも、芽の数を数えると10本以上ある!やったー!!


 某トロロのワンシーンのように、にょきにょきと生える草をイメージしたポーズでお祝いする。


「偽物じゃなかった!偽物じゃなかった!」


 クレーム行けなくてよかった。心からそう思った。


「きみたち、意外と小っちゃいんだね」


 ふふふと笑みを浮かべながら、新しい命を観察する。ここからもっともっと大きくなって、大きなカモミールを咲かせて欲しい!そう思った。


 これからどんどん大きくなっていく。


 はずだった。


 翌日には、さらに大量、その翌日にはさらに大量の芽が出て、まるで緑の絨毯のように土の表面が覆い尽くされた。


 どんどん、どんどん増えていく芽に、戸惑いを感じていた。




 ——種まきから1週間後


「なんか…葉っぱが黄色くなってる…?」

 昨日まで元気だったカモミールの芽が、黄色く、萎れてしまった…。


 ちゃんと芽は出たし、これは多分自分が悪いなぁと思った。あのお店へのクレームはやめよう。


 ——うーん、どうしようかな…


 こういう時、頼れるのはネットの情報?と思ったけど、なんて調べればいいのかわからない。

 

「あ!草屋さんにいけばいいんだ!」


 草屋さんを目指し、種をまいたコップを手に出発!


「絶対に助けるからねー!!!」


 弱ったカモミールたちに力強い言葉を送り、草屋へ向かい始めた。



 ——すみません!カモミールの育て方教えて欲しいです!


 元気に店の扉を開けた。大切なカモミールたちのため、気持ちが高ぶっちゃって道場破りのように勢いよく開けたせいで、店内にいた女の子と目が合う。


「草屋さんなら育てかた教えてくれるかなって思って!きました!」


 来た目的をまず話してみた。


「????んぇおう、うんん…?????」


「あ…ごめんね…?」


 混乱させちゃったみたい。同い年くらいの女の子が店の奥のカウンターに座っていた。


「お客さんなのにごめんなさい。勢いが良すぎて驚いちゃったぁ。」


 やっと落ち着いた店員さんは、カモミールの植わったコップを手に続ける。


 眉をひそめている気がするのは気の所為だろうか…?


「うーん…んー…えーと…あー…うーん…」


 おかしくなった機械みたいに、言葉が出てこない。病弱そうな見た目と、猫みたいな困り顔でかわいいなぁと思いながら答えを待つ。


「お客さん、自分で植物育てるの初めて?」

「うん!初めて!この前突然この子と目が合って、育てよ!って思ったのー!」


 oh......と口を開け、戸惑う店員さん。困らせてばつかりだなぁ…。


 どこから言おうかな…。お客さんに失礼なことは言えない。でも、あまりにもな現状に、店員の彼女は困ってしまった。


「えーととりあえず…どんな風に種を蒔いたのか教えて貰えますかぁ?」


 疑問形で聞くことでなんとか失礼のないようにしようと、最大限の配慮だった。


「袋の中に入ってた粒全部入れたよ!」


 oh......と口を開け、またまた固まってしまう。初心者にも程があるだろ…。


 少々お待ちくださいと前置きし、えーと…と考え、棚を漁り始める。カモミールの種と書かれた袋を発見し、レジのカウンターに戻る。


 ザッと勢いよく袋を開き、中身を見せてくれる。


「お客さんの言う粒ってこれのこと?」


 と、黒い粒を指の腹につけて聞いてみる。


「そうだよー!いっぱい入ってた!その中のどれかが種なの?」


 おっと、種が混ざってると思ってたのか…こりゃ重症だ…。


「全部…」

「んぇ…?」

「全部種なんだよぅー!!!!」


 勢いよく言ってしまった。



 袋に入っていた黒い粒、それが全て種だったことを知り、彼女は震える。命を無駄にしちゃったのかな…?という気持ちからだった。


「まあそもそも、土もコップも全部だめだから、別のにしなきゃなんだよ」


 と、店員さんが続ける。えっ!?と驚きながら続きを聞く。


「この土じゃ、多分栄養が無さすぎて成長できない。多分これ、家の近くの土を取ってきたんじゃないの?」


 合ってる…と頷く。


「あとコップは、せめて下に穴をあけなきゃ排水ができなくて根っこがカビるんだよ!」


 ほぇぇぇ…!と驚きの情報に、今度はこっちが口を開ける。


「じゃ、じゃあどうしたらいいの…?」

「うーん、とりあえず、植木鉢と土を買って、そこに植え替えか…時期は良いから、新しく種を買って植えるかだね。」


 おぉ…!さすが店員さん、なんでも知ってる…!


「草の育てかた、いっぱい教えて!!!」


 勢いよく聞いちゃった。うちそういうサービスやってないんですよぉ。と店員さん。でも、と続ける。


「でも、なんか見守りたくなっちゃった。困ったらいつでも来ていいよ」


 ふふと笑い、店員さんとは違った、本当の笑顔が見えた気がする。 


「わたし、芦頭真理衣。マリーって呼んでね。あなたの名前は?教えてくれる?」

「みくる!加茂未来です!」

「みくる、あなた専属のハーブアドバイザーになってあげる!」


 そう言って微笑みかけてくれる彼女、マリーに、みくるは泣きそうになるほどの頼もしさを感じていた。


「ハーブアドバイザー…!かっこいいね…!!」


 目をキラキラと輝かせて返すみくるに、マリーは少し恥ずかしさを感じていた。でも、こんなに喜んでくれるなら頑張りたいな。そう思っちゃった。

 

「アドバイザー料金として月々20万円ね」

「高っ!?!?」

ここまで読んでくれてありがとうございました!

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