第80話 耕作放棄地
—誰か手伝ってくれる人はいませんか?
クラスのグループチャットに1つの連絡が入った。
「どーするぅ?」
「行ってみよーよ!!」
「だよな!」
「楽しそうですもんね!」
ちょうど暇していた。そんな理由もあるけど、何よりも面白そうだった。
「耕作放棄地再生への協力、ありがとうございます!」
クラスのグループに投稿していた、今日のリーダーの子、不知火はるみが呼びかける。
「はいっ!」
みくるが元気に手を挙げた。
「なんでしょうか!」
「畑ってどこですか!」
前方を見渡すと、完全な崖。コンクリートで塗り固められた崖で、人間が降りられるような雰囲気ではない。
後方を見ると、森。完全な森。畑…というには山すぎるけど、まあまだ納得感がある。
そして今日の代表が指差すのは森の方。
良かったぁ…飛び降りろって言われるのかと思ったぁ…。
「この山はみかんの畑です。でも、持ち主の人が高齢で、この急傾斜に入れず手入れが出来ていません。」
「そのため、管理を代わり、耕作放棄地を再生することで、少なくとも売れる状態にしよう!というのが今回のプロジェクトになります!」
「その第1弾として今日は、3つの作業をしていきます!」
「まず、混み合ってる枝を切り込み、剪定!次に、腐ってる木や枯れている木を切り倒します!最後に下草刈りをして終了です!」
実はかなり盛り沢山な内容。17人集まったからと言って、一日で出来るのか不安になる作業量だ。
「では作業よろしくお願いします!」
まずはノコギリやヘルメットが配られ、作業開始!
4〜5人一組で作業を進めていく。
と、一番に森に入ろうとした人達の足が止まる。
「これ…どこが道になるんだろ…?」
急斜面の崖。それにしか見えなかった。足の踏み場がない。歩ける角度じゃない。そう思った。
「行っくよー!」
「そうですね!早く行きましょー!」
「ノコギリで怪我しないでよぉ…?」
「お…落とさないでな…!?」
ひょいひょいと軽く登っていく4人組がいた。
ノコギリを入れた背負子を背負い、手馴れた…足慣れた雰囲気で木に足を掛け、どんどんと登っていく。
あっという間に木々の間に姿が消えてしまった。
「えぇ…」
「すげぇな…」
かおりとの修行…遊びを思い出して、どんどんと登っていく。
今日のエリアはここまで。と区切るためのピンクの綱が見えたのは、ほんの少し行った先だった。
「余裕だったねぇ」
「いつものあれと比べるとな〜!」
「さ!急いでやって行きましょ!」
「はい!ノコギリ!!」
4人にノコギリを手にして、一斉に作業に取り掛かる。
まずは枝葉から。軽そうな枝は幹に近い根元から切り落とす。重たそうな、枝が沢山伸びてる枝は、側枝と呼ばれる分かれた枝から切り落とし、最後に主枝。メインの枝を落とす。
「ふおおー!!ギコギコギコギコー!!たのしーね!!」
「切り落とす前に安全確認ちゃんとしろよー?」
「分かってるよー!!」
みくるが切っているのは側枝。細くて軽いけどそれでも十分危ない。細心の注意を払って作業を進めていく。
「そろそろ落ちそう!気をつけてねー!」
「はいよぉ」
近くにいたマリーが足元を確認したあと、サッと木から離れる。
その数秒後、メキメキ…ドスン。と音を立てて枝が切り落とされた。
マリーがおぉ〜と拍手ぱちぱち。続いて、ひのき、ぼたんのところも切り落とされる。持ち場に戻ってマリーも切り落とす。
「いいねー!次々ー!!」
「あれ!?なんか!いい匂いがします!!」
ぼたんが鼻を利かせて何かを嗅ぎとる。
「誰かみかん食べました…?」
ずるい!顔が疑いに満ちていた。他人のみかんを盗んで食べたんじゃないか?そんな疑いもあった。
「えぇ…?みんな切ってたよぉ…?」
「もしかして…木から出る香りじゃないか?」
そう言って木くずに、木の切断面に鼻を近付ける。
「やっぱそうだよ!ほれ嗅いでみ?」
「ん?んー…あっ!本当ですね!!?」
疑っちゃってごめんなさい…。しょぼぼんと落ち込むぼたん。お腹空いてたんだよねぇ、よしよし。とマリーが慰める。
「木なのにみかんの匂いってすごいね〜!」
「こんなにほんのり…2人ともよく気付いたねぇ…!?」
突然褒められてひのきが照れる。でも実は…と話し始める。
「木に香りが着くのってよくあるし、みかんの木も同じなんじゃないかと思ってな!」
「そうなんですか!?」
木って木の匂いしかないと思ってましたぁ、とぼたん。
「ほら、ヒノキの木だって、浴槽にしたら匂いが出たり、入浴剤代わりの木のボールがあったりするだろ?」
「あっ、確かにー!!」
「それにな、ローズマリーも実質木だから、枝の部分にも香りが詰まってるんだって!」
「へぇ!?葉っぱだけかと思ってたぁ…!」
思っていたより身近なところに香りのある木があって驚き。
「なんでそんなに知ってるんですか…!?」
木を切りすすめながら話を聞く。手も口も動かす。欲張りだね。
「ヒノキの香りってヒノキチオールって言って、リラックス効果があるらしいんだよ。精油ってやつだね。前にみくるに作ってもらったサシェに鼻が慣れちゃったから、他になにか無いかなって調べたんだ〜」
「おぉっ!私のおかげってことだねー!」
「そんな自信満々にぃ…!?」
ケラケラと笑いながら作業を進める。
皆がみくるたちに追いついたのは、一本の管理が終わった頃だった。
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