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魔法侵蝕譚ーマナ・サピエンス  作者: A.N.C.


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protocol2: 生の代償

どんよりとした曇天。

灰色の雲が空を覆い、陽の光はほとんど届かない。


街には荷馬車や多くの人が出入りしている。

軋む車輪の音と、人々のざわめきが混じり合い、どこか落ち着かない空気を作っていた。


商店も沢山並んでいる。

だが、その活気の裏には、見えない不安が渦巻いていた。


「その野菜と果物をくれ」


「100マナだ」


「昨日より高くなっているじゃねえか」


「どこも魔物の襲撃が相次いで物価が上がってるんだ」


「しょうがねえ」


客は腕を机の上にある魔法陣の上にかざすと、

青く光り、そして収まった。


「はいよ」


店主は品物を渡す。


そのやりとりを、4人の少年少女達が歩きながら見ていた。


彼らは無言で顔を見合わせる。

何気ない光景のはずなのに、そこにあるのは“生きるための支払い”だった。


やがて4人は、街の中心付近にある大きな石造りの建物へと足を踏み入れる。


ギルド――"英雄の集い"。


高い天井、無数の依頼書、そして武器を携えた者たちの視線。

ここは、生きるために戦う者たちの集まる場所だった。


セミロングの金髪、碧眼。

白いローブに身を包み、白銀の杖を握る小柄な少女――メリーが、不安そうに呟く。


「どうしよう。今週のマナ、足りるかな」


「大丈夫だよ。足りなくなったら、俺が分けてやるから」


栗色の短髪に黒い瞳。

背中に銃を背負った少年――レインが軽く笑って答える。


「それじゃあ、レインが危ないよ」


「そうっすよ、レインの兄貴。こないだもマナ残量がギリギリで危なかったじゃないですか」


銀髪にバンダナ、緑の瞳。

リュックを背負った少年――ディックが口を挟む。


「心配かけて悪いな、ディック。でも大丈夫だ」


「お前の“大丈夫”は当てにならないからな」


低く落ち着いた声が割り込む。


赤髪のポニーテール、細身長身。

腰に剣を下げた少女――リディアが腕を組んでいた。


「まだ余裕があるから、いざとなったら、あたしのを使いな」


「ごめんね、迷惑かけてリディア」


「気にすんなって!困ったときはお互い様だろ」


「さすが、姐さん!頼りになるぜ」


「もっと褒めていいぞ。っと――どうした?レイン」


レインは掲示板を見つめたまま、わずかに眉を寄せる。


「みんなマナ残量がきつい。少しでも、報酬の良い依頼を見つけないとな」


「兄貴、これなんてどうです?」


ディックが一枚の依頼書を引き抜く。


リディアがそれを覗き込む。


「新規ダンジョン発生、調査任務。危険度クラスA。

湿地型ダンジョン“粘泉溶湿”。報酬50万マナ……かなり高いな」


「それだけ、危険ってことだな。別のにしよう」


レインは即座に首を振る。


だが――


「私なら大丈夫!」


メリーが一歩前に出る。


「足手まといにならないようにするから」


「俺たちなら大丈夫です!」


ディックも拳を握る。


リディアはニヤリと笑った。


「決まりだな」


レインはしばらく黙り込み、そして小さく息を吐いた。


「……わかった。みんな、無理だけはするなよ」


「お前には言われたくないな」


軽口が交わされる。

だが、その奥には緊張があった。


そのとき――


ギルドの入口付近が騒がしくなる。


「うわああっ!」


悲鳴と共に、一人の男が倒れた。


周囲の人々がざわめく。


男の腕に嵌められた腕輪が、赤く点滅していた。


直後――

ギルド内の壁に等間隔に埋め込まれている魔石が、一斉に赤く光る。


警告音が鳴り響く。


「おい、マジかよ……マナ欠乏症じゃねえか」


「てことは、この後、変異するんじゃ……」


「すぐにマナポーションを!」


「もう間に合わない!」


男の身体が痙攣する。


背中が反り、骨が軋み、形が歪む。


皮膚が裂けるように膨れ上がり、半身が醜く腫瘍状に変形していく。


メリーが息を呑む。


「……っ」


空気が凍りつく。


その瞬間――


扉が勢いよく開かれた。


黒い鎧と兜を身に纏った騎士たちが雪崩れ込む。


「皆さん、危険です!離れてください!」


訓練された動きで距離を取り、

騎士たちはボウガンを構える。


数本の矢が男に撃ち込まれる。


次の瞬間――


淡い青の光。


電流が走る。


男の体が跳ね、そして動かなくなった。


騎士たちは素早く近づき、

魔法陣の描かれた白い布で男を包む。


さらに、見たことのない文字が書かれた札を貼り付ける。


「封印完了。搬送する」


数人で担ぎ上げ、外へ運び出していった。


その後には、

青く光る液体が床に撒かれる。


消毒――いや、“浄化”のように。


やがて、騎士が振り返る。


「皆さん、もう安全です。封印処置は完了しました」


それだけ告げると、彼らは去っていった。


静寂。


誰もが言葉を失っていた。


4人の少年少女も、ただ立ち尽くす。


メリーの手が震えている。


ディックは唇を噛み、

リディアは視線を逸らさずにその場を見つめていた。


レインだけが、静かに呟く。


「……行こうか」


その声は、どこか重かった。


誰もが理解していた。


あれは遠い出来事ではない。


マナが尽きれば、

あれが“自分”になる可能性がある。


この世界では――

生きることそのものが、削り続ける行為なのだ。


曇天の下、彼らは歩き出す。


それぞれの不安を胸に抱えながら。


そして――

まだ見ぬダンジョンへと。

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