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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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二節  捕らわれの姫君

驚くほどあっさりした捕虜捕縛に兄率いる第二騎士団の面々は複雑そうな表情をしていた。皆チラチラと脇腹に赤黒い染みを作っても平然と歩いている姫君……敵国の将校、一条 光に視線が向いていた。


「そう、チラチラ見られると気まずいのですが?気になることがあるならば言っていただきたい」


静かに響いた彼女の言葉には怒りなども特に含まれていない。その色を見るに青と紫。悲しみと居心地の悪さとでもいうのか、『どうせなら面と向かって言ってくれ』、そんな気分なのだろう。


「……皆が気にしているのは貴女の傷ですよ」


「ああ……なるっ」


言葉が不自然に止まった。


なんだ?と思いながらそちらを向いた瞬間、コポッと小さな音がした。見た先には小さな口から溢れんばかりに零れ出した――紅。


「な、で?」


誰よりも驚いた彼女が目を丸くしながら何かを呟いた。急に力が抜けたようにガクンと崩れたその身体を、誰よりも先に受け止めたのは兄だった。


兄がすぐに地面に支えながら彼女の身体を寝かせた。


青の、清らかな水のような魔方陣が宙に浮かび上がった。


兄の治癒魔法。


兄は騎士団長として武芸にも攻撃魔法にも優れる。

――ただ我が朝比奈家はもう一つの顔がある。


血統魔法の治癒の水魔法。


どんな人間であろうとも生きてさえいれば救えるという治癒魔法。

我が第二騎士団は兄の魔力が続く限りは不死身と言っても過言ではない。

私も同じ能力を継いでいるが、兄ほど膨大な魔力を持たないので、真似は出来ない。


兄は優秀な武人でありながら、春の国で随一と言われる治癒師でもある。


ただ、彼女のシャツの脇腹から赤黒い染みが広がっていく。兄の治癒魔法を上回る何かが彼女の中で蝕んでいるのだとすぐに気が付いた。


「兄上、変わります!解析を!」


兄の魔法陣の上から同じ魔法を重ね掛ける。兄はすぐに理解したのか、回復作業を私に任せ、彼女の身体の解析を始めた。


「……なんだ、これ」


兄が思わず呟いた。ちらりと兄を見れば、その彩眼が大きく開かれていた。コポッとまた口から漏れた紅色。


不味い――マジで不味い。


「ど、く、」


小さな声が、響いた。


その声の主が一条 光だと気が付いた瞬間、兄が思わぬことをした。


驚きすぎて息が出来なくなるかと思った。


血まみれのその小さな唇に、兄が唇を重ねていた。


すぐに離れた唇。


口端についた血を指で拭った兄は彼女を見た。


「なるほど。」


——いや待って。

今の流れで、キス解析は反則です、兄上。惚れます、私が。


なんて内心で意味の分からないツッコミを入れたと同時に魔法陣が現れる。驚いていれば、兄は私を見てきた。


「昌澄、そのまま回復魔法を展開し続けなさい。結界魔法を貼れるもの誰か!」


兄の言葉に飛び出てきた結界魔法士の部下。我が春の国の騎士団の中でも一番を争う優秀な結界魔法士だ。


「この毒は最早生物に近いです。僕の魔力で押し出します。出た瞬間、捕らえなさい、できますね?」


「は、はい!」


「昌澄、魔力はそのまま安定させて回復に務めなさい」


「承知しました」


兄の魔法陣に兄の膨大な魔力が吸い込まれていくのを感じた。


「光さん、聞こえますか!?意識を保ってください!痛いでしょうが、耐えなさい!」


兄の魔力の所為か、彼女が自分の胸を掴んでいた。その爪が肌に食い込みそうなほど腕には血管の筋が浮き上がっていた。その手を兄がそっと掴む。爪が兄の手に食い込んでいた。


「このくだらない戦争を終わらせるには貴女に生きてもらわねばなりません!死んではいけません!」


兄の魔力は、魔力耐性のない者なら倒れ込むほどだ。それを受けて、彼女が苦しまない訳がない。ただ、私は必死で回復魔法に務める。目の前の結界魔法士は兄の魔力に当てられながらも、ぐっと唇を噛んで耐えていた。彼が結界魔法士として優れるのはこういう時に踏ん張りが効くからだろう。


瞬間、彼女の脇腹から黒――いや、混沌とした色の何かが押し出されてきた。結界魔法士はすぐさまソレをガラスのような結界で包み込んだ。うねうねと動き、飛び出そうとするソレは無数の触手のような鞭で必死に結界を破ろうとしている。その姿はまるで生き物だ。


「かはっ、」


やっと息が出来たような声が響いた。恐る恐るそちらを見れば気を失っている彼女。やっと私の治癒魔法が効いてきたのか、脇腹の傷がふさがっていく。


「はあ、流石に、魔力がほとんどなくなりそうです。」


そう言いながらも兄は彼女に握りしめられた手をそのままに、安堵の表情を浮かべていた。

彩眼で見えてしまう魔力の動き。ゆっくりと兄の魔力が彼女の中をめぐっていく。

アレの残りがないか確かめているのだろう。


「よく、頑張りました。」


まるで私や弟たちにでも言うように兄は彼女にそう言いながら微笑んだ。掴まれた手の反対側で、彼女の口から漏れていた紅色をふき取る。


ああ、こういう時、本当に彩眼というのは厄介で、嫌で仕方ない。


どう考えても、兄が幸せになれる道など、見えなかった。




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