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彩眼の次男〜感情が色で見える次男副団長が、恋も政変も全部見えてしまって巻き込まれる〜  作者: まるちーるだ
番外編 娘の春と父の地獄 ~娘の春より先に父の胃が死ぬ~

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十二節 父の胃痛再来

祝賀の席に移った途端、私の胃痛は再び目を覚ました。


娘と昌澄くんは、代わる代わる祝福を贈られていた。

挙式を終えて、ようやく少し落ち着けるかと思った私が甘かったらしい。


最初に挨拶へ来たのは、昌澄くんの兄、清澄くんと、その妻――光さんだった。


冬の国の姫君。

戦時中、その名も、その異質さも幾度となく耳にしてきた。

捕虜でありながら春の国の王都を守ってくれた女性とも聞いていた。


だが、実際にこうして目の前に立たれると、やはり圧倒される。


黒目と太陽眼。

聞いてはいた。

聞いてはいたが、実物は想像以上だった。


「お久しぶりです、時壱さん。千歳さんと士官学校で同期でした清澄です」


にこりと笑う清澄くんは、実に紳士的だった。


何故だろう。

同じ『アレ』の息子であるはずなのに、清澄くんからはあまりその気配を感じない。


そう首を傾げていると、隣の光さんがふっと笑った。



「初めまして、瞬木卿。朝比奈 光と申します」


「初めまして、瞬木 時壱です。瞬木ですと紛らわしいので、『時壱』とお呼びください」


「ありがとうございます。では、清澄さんを真似て時壱さんと呼ばせていただきますね」


何だろうか。

胃痛が一瞬だけ和らいだ気がした。


そこへさらに乱入してきたのは、黒髪に紫の瞳をした美しい女性だった。


「千歳~!」


勢いのまま千歳へ抱きついたその人物を見て、私は一瞬息が止まりかけた。


「澪さん!?」


千歳が嬉しそうに声を上げる。


誰だ、この美女――と本気で思った瞬間、その女性はべりっと千歳から引きはがされた。


「よお、昌澄。久しぶりじゃねぇか」


「あ~、篠宮さん、ご無沙汰してます」


どこか目を泳がせながら、昌澄くんが挨拶を返す。

その隣で、深緑の髪に琥珀色の瞳をした男が、にやりと笑った。


「『篠宮さん』ねぇ?」


「あ、はい、成継さん」


「よろしい」


……篠宮 成継。

その妻、篠宮 澪。


知っている。

先の冬の国の内乱で、名前の挙がる御仁だ。

ついでに言えば、篠宮 成継といえば、冬の国で五本指に入る重鎮のはずである。


……何故、冬の国の重鎮が当然のように祝賀の席にいるのだ。


いや、いてもおかしくはないのか?

おかしくはないのかもしれないが、こちらには心の準備というものがある。


胃が痛い。


「千歳、お前、篠宮夫妻と知り合いなのか?」


思わず問えば、千歳はきょとんと首を傾げた。


「えっ、まあ……友達、かな?」


「ともっ!?」


思わず変な声が出た。


その横で、昌澄くんが少しだけ目を逸らす。


「成継さんが来るより、澪さんの方が迫力があるのは気のせいでしょうかね」


「そう?」


千歳が首を傾げる。

そして昌澄くんは、ぼそりと続けた。


「……そう言えば、千歳さんは澪さんが『雷帝・鷹司』とは知らないんでした」


その一言を聞いた瞬間、背筋にぞわりと寒気が走った。


『雷帝・鷹司』。


第二次全面戦争で、その名は轟いた。

戦場で雷魔法を振るい、多くを焼き尽くした軍人。


千歳に抱きついていたあの美女が、『雷帝・鷹司』?


急に寒気がしてきた。


さらにその後、昌澄くんの弟、維澄くんがにこやかに挨拶に来た。

その横には、小柄な娘が一緒だ。


「昌澄の兄上! 結婚おめでとう。やっと千歳さんを射止めたね!」


「ありがとうございます、維澄。一言余計ですが」


「維澄くん、ありがとう!」


「瞬木副団長、朝比奈副団長、結婚おめでとうございます!」


少女の呼び方で、多分騎士なのだろうな、と何となく察した。

こちらは落ち着いた様子で挨拶を済ませ、一瞬だけ和やかな空気が流れる。


――ここまでは、まだよかった。


その時だった。


会場の空気が、妙にざわついた。


「遠澄がエスコートしているの、誰だ?」

「綺麗な方だな」

「どこのご令嬢だ?」


そんな小さなざわめきが、波のように広がっていく。


何だ、と視線を向けた瞬間、私は妙な違和感を覚えた。


見覚えはある。

だが、それが誰なのかに繋がらない。


亜麻色の髪。

瑠璃色の瞳が切れ長の目元から覗く。

そして鮮やかな青のドレス。

背中が思い切り開いた大胆な意匠を、見事に着こなしている。


ただ、その背中が、鍛え上げられた騎士のように綺麗なラインだった。


正体が分からぬまま見ていると、千歳がぱっと顔を輝かせた。


「偲先輩!」


その美女は、朝比奈 遠澄くんのエスコートで千歳のところまで来ると、にこりと笑った。


「おめでとう、千歳。折角だから奮発しちゃった!」


その瞬間、会場が完全に止まった。


「……笠谷、副団長?」

「え?」

「女?」

「なんで?」


あちこちで動揺が広がる。


だが、当の本人は涼しい顔だった。

いつものように、全部分かった上で楽しんでいる顔だ。


ああ、そうだ。

この人はそういう人だった。


美人だろうが、華やかだろうが、中身は間違いなくあの第三騎士団副団長、笠谷 偲その人である。


偲先輩は周囲の混乱など意にも介さず、嬉しそうな千歳と抱き合った。


「今日はちゃんと副団長に見えないでしょ?」


「全然見えません!」


「それはそれでどうなんだろうねぇ」


くすくすと笑うその姿に、また会場がざわつく。


「やあ、おめでとう、『次男坊』?」


「ありがとうございます、笠谷副団長。その次男坊で今は本気で良かったと思いますよ」


ニコッと笑う昌澄くん。

それ以上に、笠谷副団長の後ろに控えていた遠澄くんがニッと笑った。


あれ、何故だろう。

こっちには『アレ』の気配を感じてしまう。


私はそそくさと一息つける場所に逃げようとした。

が、私は数名に呼び止められた。


「瞬木管理官! 笠谷副団長は女性だったのですか!?」


知らない。

自分だって、今知った。


「……私も初耳だ」


そう答えるしかなかった。


本当に勘弁してほしい。


娘の晴れの日である。

綺麗に、穏やかに、祝福のうちに終わらせてほしい。


だが、朝比奈家とその周辺は、それを許してくれないらしい。


それでも、千歳は嬉しそうに笑っていた。

昌澄くんも、その隣で穏やかに笑っていた。


その顔を見ると、少しだけ救われる。


娘は幸せそうだ。

それが何よりだ。


何より、なのだが。


「父上?」


千歳に呼ばれて顔を上げる。


「どうかした?」


「……いや」


どうかしたもこうしたもない。


感動もしている。

安堵もしている。

誇らしくも思っている。


だが同時に、胃も痛い。

とても痛い。


やはり、祝賀会でも朝比奈家は胃に悪い。


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