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彩眼の次男〜感情が色で見える次男副団長が、恋も政変も全部見えてしまって巻き込まれる〜  作者: まるちーるだ
二章 冬の宮廷、家出の姫君 ~兄上、これって宮廷loveでしょうか?~ 

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百三節 同盟の親書

Side 朝比奈 昌澄


情勢が変わる時の流れが異様に早いことは、頭では知っておりました。


けれど、ここまでとは思いませんでした。


冬の国では、明新院正光陛下の即位が正式に決まり、新たな政治体制が組み上がったのです。

送られてきた名簿の中に、『鷹司 紫苑』『篠宮 澪』の名を見つけた時は、思わず笑ってしまいました。

ええ、内緒の話です。


ついでに兄上が、外交担当の欄に記された『一条 光』の名を、指先でゆっくりなぞっていたのも、見なかったことにいたしましょう。


さて。


今、部屋の中にいるのは、王太子殿下、第二王子殿下、それに第三王子殿下の昆明。

第一騎士団から、綾人さん、千歳さん。

第二騎士団から、私と兄上。

第三騎士団から、吉川団長と笠谷副団長。

第四騎士団から、団長殿と、団員である香さん。


白い軍服姿で並んでいると、久方ぶりに、春の国へ帰ってきたのだという実感が湧いてまいります。


そしてその場に、冬の国から春の国へ届いた親書が広げられておりました。


部屋にいる人間たちは、その文面を見て、一様に苦笑いを浮かべております。


『春の国との国交再開を願う。

同盟の証として、本国より貴国へ姫を嫁がせ、貴国より本国へ姫君を貰受けたい』


誰も、しばらく何も言いませんでした。


最初に沈黙を破ったのは、綾人さんです。


「これ、どう考えても“光やるから香くれ”って読めるんだが?」


その言葉に、王太子殿下と第二王子殿下が揃って苦笑しました。


「まあ、ありていに言えばそうなんだけどね」


王太子殿下は楽しそうに肩を竦めます。


「でも、ずいぶん上手い書き方をしてきたよね。うちで最高位の“姫”となると、朱子と僕の娘になるわけだけれど……知っての通り、朱子は外に出せないし、娘は次代の王になる予定だし、そもそもまだ九歳だ」


その言葉に、部屋の空気が少しだけ和らぎました。


「そうなると、その次に高位の未婚の姫は?」


第二王子殿下が、わざとらしく首を傾げます。


「うち、秋里家ってなるわけで、そうなると香だな」


綾人さんが、あっさりと言い切りました。


その瞬間、全員の視線が香さんへ向きます。


香さんは少しだけ恥ずかしそうに笑いました。

けれど、その色に浮かんでいたのは困惑ではなく、ようやく辿り着いた人の安堵に近いものでした。


「そういうこと」


王太子殿下は、面白がるように目を細めました。


「で、向こうの国には皇女がいない。そうなると、皇家に次ぐ高位の家は一条家ということになる」


その言葉に、皆が頷きます。


「けれど知っての通り、一条家の姫君は秋里の血を濃く引いている。王家にも秋里家にも嫁がせづらい。となると――」


そこで、部屋の視線が一斉に兄上へ向きました。


ええ、誰がどう見ても、そこへ落ち着くのは分かっておりました。


兄上はにこりと笑います。


「まあ、私になりますね」


その返答に、王太子殿下は吹き出すように笑いました。


「だよね。あと、これが新帝からの別添えの手紙」


そう言って見せられた紙は、親書とは別の、ひどく個人的なものでした。


『うちの国の黒髪、太陽眼の美女を送るから、そっちの紅茶色の髪に業火の瞳の美女をくれ』


部屋の空気が、数秒ほど止まりました。


「……完全に個人的な手紙ですね」


思わずそう呟くと、昆明が肩を震わせます。


綾人さんが、低い声で唸りました。


「……いっそ俺が女装してやろうか?」


その一言で、噴き出したのは私だけではありませんでした。


「やめてよ、綾人兄さん」


香さんが、すかさず追い打ちをかけます。


「絶対ドレスが可哀想になるから」


そのせいで、綾人さんが豪奢なドレス姿で投げキスしてくる光景を想像してしまいました。

部屋の中の皆さまが必死に笑いを堪えているのを見て、どうやら私だけではなかったようです。


王太子殿下が、目元を拭いながら言いました。


「まあ、綾人がドレス着ても、向こうの皇帝が攫っていくのは軍服姿の香だろうけどね」


「当たり前じゃん」


第三王子殿下――昆明が、にやりと笑います。


そして、王太子殿下が改めて香さんを見ました。


「では、次期国王としてお願いしよう。冬の国へ、友好の証として、同盟国に輿入れしてくれるかい?」


その言葉に、香さんは軍服姿のまま、見事なカーテシーを披露します。


「謹んでお受けいたします」


まっすぐで、凛とした返事でした。


王太子殿下は満足そうに笑います。


「よし。じゃあ、ドレスは国の威信をかけて作らないとね。ああ、秋里の伯母上も呼ばないとな。忙しくなるぞ」


楽しそうなその声に、背後に控える第二王子殿下は秘かに口元を歪め、昆明殿下もまた悪戯っぽく笑っておりました。


ええ、皆、分かっているのです。


冗談みたいなのに、誰もこれを笑い話だとは思っておりませんでした。


国で引き裂かれた恋人が、

今度は国を結ぶために結ばれる。


これ以上ないほど綺麗な終着点が、目の前まで来ているのだと。


戦争が終わり、

しかも友好まで結ぶ。


ほんの数年前まで、互いを殺し合っていたとは思えぬほど、世界はあっけなく姿を変えていくのですね。


部屋の中はまだ賑やかでした。

けれど、その輪の中にいたままでは、どうにも落ち着きませんでした。


兄上の名も、

光さんの名も、

香さんの未来も。


そのどれもが、今の私には少しだけ眩しすぎたのです。


私は手元の書類を抱えたまま、そっと部屋を抜けました。


すると――


ぱしっ、と。


服の袖を掴まれます。


振り返ると、千歳さんが立っておりました。


その色が鮮やかな桜色で、思わず言葉を失いました。


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