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620 アセナの初登場は全裸

 次の日の朝。

 ボクの部屋。

 キングサイズのベッドにて。


 頬を手の平で挟まれる感触を覚え重い瞼を薄く開くと、ボクの眼を覗き込む金色の瞳が見えた。

 アセナの眼だ。

 狼と同じ目の色なので分かり易い。


「あはは、ぷにぷに頬っぺだ」


 彼女はボクが起きたのを確認すると、満面の笑みを浮かべた後に上半身だけ起こしてしなやかに背筋を伸ばす。

 硝子の出窓から入って来た朝日が降り注ぎ、生まれたままの肢体を照らした。

 褐色の肌が白いシーツによく映えていた。


 ああ、そうか。

 アセナは正式に『ボクの物』になったんだった。

 何時もはベッドにシャルが居るのだが、この日は結婚式最後の夜という事で特別に引いて貰ったのだ。

 今は自分の部屋で寝て貰っている。

 シャルの自室とか、滅多に使わないけどちゃんとあるのだ。


 アセナは特に何時もと変わらず、そのままの体勢で此方を見た。

 因みにどうでも良いが、アセナは何時も裸で寝る。


「さて、どうしよっか。

交わるのは散々やったから良いとして、エネルギー補給的な意味で飯にするか。

リフレッシュの為に朝風呂にするか」

「お風呂で」

「ん、りょ~かい」


 そう言って彼女はベッドを下り、服を着てからボクの手を引いた。


「風呂に行けばまた直ぐに脱ぐ。

そして脱衣場には簡単な着替えも備えてある。

移動の為に着る服っていうのも変な話だよなあ。

沢山の使用人が居る、大き過ぎる家っていうのも不便なもんだ」


 昨日までは自由人だったのに、視点が「この家に入って来た女」になっていた。

 もう主婦として動いても違和感が無い。

 社長業や族長など仕事は今まで通りに行うが、それでも彼女の中でなんらかの境界を越えたという事だな。

 立場は人を変える。


「はいはい、実のところ脱いで歩き回りたいだけでしょ」

「あ、バレた?」


 ニマリと笑う。

 ここだけの話だが、アセナは肌を晒したがる特殊な性癖を持っている。

 ホットパンツにへそ出しタンクトップがデフォルトの格好なのもそんな理由だ。

 彼女は、肌を見せないという己の文化への反発心があるのだ。

 そういう彼女だからこそ、大平原の価値観に縛られず、ウチの領地に適応出来たのだろうけどね。

 師匠のトレカみたいなのばかりな一族だったら無理だっただろう。


 さて。

 ボク等二人は廊下に出て階段を下りる。

 エレベーターもあるが、アセナは待ち時間が嫌いなのだ。

 敢えて階段を使う人なのだ。

 ロビーに出ればハンナさんの部下達──もとい使用人達がパタパタと忙しそうに仕事をする光景が視界に飛び込んで来た。


 服の規格が同じなのでパッと見は分かり辛いが、身分差が存在する。

 一般的な貴族の使用人は雑誌や張り紙などに求人届を出して平民から雇うケースが多数であるが、ウチのような大貴族だと組織の都合上そうでもない。

 それぞれのグループリーダーはこの家に仕える貴族階級であるし、そのメンバー達はウチではなく彼等の家の部下達だ。普段は高級住宅街に住んでいる。

 チラホラと混ざる若い者達には修業場での学生も多い。

 確か全体の一割ほどだったか。

 殆どの学生の親は成金貴族なので『本物の貴族』の暮らしを使用人の眼から見て学ぼうという事だな。

 そして、ウチの地下室で暮らしている暗部の皆さん。


 大体はこんな感じ。

 朝からご苦労な事だ。

 そう思い、次期当主として胸を張って偉そうに歩いていると、ピタリと足を止めてしまった。

 視界の先には、一人の男使用人の後ろ姿。

 一見学生型の一人に見えるが、あの銀色の尻尾と率いている三人の獣人は忘れようがない。

 フォウだ!


 彼等は窓ガラスを雑巾で拭いていた。

 思わず駆け寄り、直接聞いてしまう。


「なんで居るの?」

「おや、若様おはようございます」


 振り向いた彼は営業スマイルを浮かべていた。

 ぶっちゃけ普段の彼を知っているボクとしてはキモいと感じた。

 しかし、表情そのものは引き攣り気味なので安心感を覚える。

 目とか死んでる。


「使用人として仕事に励むのは当然の事でしょうかねえ」

「……あ。うん」


 使用人の口調になっているが、使い分けには驚かない。

 地頭は良い方だし、ボクが彼の立場でもそうしているからだ。

 でもやっぱ慣れないのでちょっと廊下の隅に連れて行く。

 そしてボクは聞いた。


「どうしたの?

君って今、物凄く忙しい筈だよね」


 捕らえられた獣人達は纏める役が必要だ。

 ルパ族傘下の者達をはじめとして、大使館が置かれる訳だから代表が必要なのではないだろうか。

 すると彼は少し気まずそうに目を逸らして、言う。


「いや……その筈なんだが此方の領主……『様』から『お前らがダメにした馬代を弁償しろ』と言われてな」

「今回、大平原軍の乗って来た馬をいっぱい鹵獲したよね」

「あれは壊れた街の改修と、貸し厩舎に馬を預けていた商人達への賠償と、ウチの部族達の面倒を見るとかで帳消しになったらしくてな。

身体で返済しろという事だ」


 そして彼はしょんぼりと口を窄めた。

 ボクはといえば、どう反応すれば良いか分からない。

 「え~」っと言いたい気持ちなのだが、こういう気持ちをなんと表せば良いか分からない。

 この世は言葉が少な過ぎる。


 何故かと言えば、この仕事で軍馬を返済できる訳ないのだから。

 先程も言った通り使用人の仕事は平民が行っている場合が多数。

 つまり一般人でも出来る雑用であるという事だ。

 余談であるが社会進出する女性の代表的な働き口であるが、多くが一年もしない内に寿退社する業務でもあるね。


 そしてこの世は馬社会。

 軍馬なんて貴族の証、買える筈がない。

 異世界風に言えば、パートがスポーツカーを買えるかという話なのだ。

 そんなものをバタバタ使い潰していたので無知って怖いよなあ。


 と、思っていると後でアセナから真実を伝えられる事になる。

 本人には聞こえないよう風呂場で聞かされた事である。


 今のフォウは、同族から命を狙われているからだと。

読んで頂きありがとう御座います。


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― 新着の感想 ―
同族から命を狙われるフォウくん。 そりゃ狙われても仕方ない気がします。 だからといって、アダマスくんのところで使用人するのはちょっとかわいそう いえ、人間族の貴族のありかたを学ぶため、ってヒントが書か…
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