光と影
お待たせいたしました……話数が少ないですが、お楽しみ頂ければ幸いです。
東京国立第2ACT高等学校に限らず、ACTを扱う高校は普通の高校と比較した時、異なるモノがいくつもある。
絶対的な指導者不足からくる、下位クラスの生徒へ講師を割り当てない『自習制度』や、成績優秀者には資源も時間も集中的に投入される『集中奨学制度』、仙台や筑波といった、独自色を追求する国立ACT高校や立身館のような私立のACT高校は例外だが、国立のACT高校なら年に3度ある『戦闘祭』。
外部の人間であるなら、この辺りがACT系統の高校の特色と考えるだろうが、オレの意見は少々異なる。
他の高校であれば『文化祭』に相当する『学校祭』。
これが、学校という括りで行われる行事だとはとても思えないレベルで、色々とおかしい。
まずそこらの高校や大学とは、学生に任せられている裁量と規模が違う。
どのくらいの裁量を委ねられているかというと、予算を調達する段階から学生主体で行われる、と言えば具体性を帯びた想像ができるかと思う。
そのため規模も上限が無く、この東京国立第2ACT高校ではないが他のACT高校で、11番の席次を与えられている者が潜入した高校でのミッションが、『学校祭で巨額の利益を稼いだ人間の調査』だったらしい。
11番の奴曰く。『学校祭の名を借りた、企業に対してのプレゼンテーションだった』と言っていたな。動いた額が、1000億を超えていたそうだが11番から言わせると、その額でも企業側はぼろ儲けらしい。
なので、この『学校祭』では、戦闘をメインに据えた実技試験で本領を発揮できない1、2年生にとっては己の価値を教師陣に訴求する絶好の場であり、3年生にとってはこの上ない就職活動に成り得るし、場合によっては会社を興す下地作りにもなる。
よって、実技試験で下位の者であればあるほど、この『学校祭』に力を入れるのが普通だが―
「それでさ、啓一君。君のクラスでは学校祭に何を出すんだい?」
何事にも、例外はある。
本名不詳、偽名『酒井玲於奈』と名乗るこのマスケラは、2年生の12組、つまり戦闘的な実技では2学年の最底辺にカテゴライズされる人間。
ただし、能力的な相性を別にして考えれば、1組に所属する津田香や加藤由利等と比較しても遜色ない戦闘力を保持しているので、学校祭で自身の実力を売り込もう、などという考えは微塵もないためか、オレの周りをうろついていた。
故にオレは『秦啓一』らしく、奴であればそのように振舞うだろう対応を―大きくため息をついて、わざとらしく頭を横に振ってから答えた。
「あのさ、酒井さん。君、自分がどういう立場に立っている人間なのか、ちゃんとわかっているかい?」
オレは右手で顔を覆い、右手の指の隙間から見える、1年12組のクラスメイト達の顔を見渡した。
ある男子の顔色は青を通り越して白くなっており、ある女子はカチカチと噛み合わない歯を噛み鳴らすのみ。ある者は―いや、いちいち観察するのも面倒だ。
一言で言えば、恐慌状態。
それはそうだろう。学校の中でこんなマスケラをつけているのを教師からも黙認されている存在が、いきなり教室にやってこられたら大抵の一般人は―
「お、おう! 俺は啓一の友人の、大滝ってもんだ、よ、よろしくな、先輩っ!」
……ほう。顔色は青いし、言葉はカミカミ、握手のために差し出したと思しき右手に至っては震えている。
だが、学校内のアンタッチャブルと思われる存在に対して前に進み出て、それもいの一番に自己紹介した胆力は評価できよう。
大滝のリアクションにマスケラも意外だと思ったのか、仮面の奥から見える目が、僅かに見開かれている。
マスケラは、握手は無用と示すかのように首を横に振り、
「こちらの名前は言わなくてもわかっているだろうけど、自己紹介させて欲しいな。酒井玲於奈、クラスは2年12組。彼とはちょっとした縁があって顔を出しただけだから―仲良く、は無理だと思うから、わたしのことはいないものとして扱って欲しいな」
普段より丁寧な口調と幾分柔らかい声音から判断する限り、マスケラは大滝の行動に、多少なりとも好感を覚えたようだ。
好感を覚えたからこそ、自分にかかわらない方が良いと思い、握手を拒んだか。
そこまで、大滝や周りのクラスメイトにわかるだろうか。
「お、おう! こんなんじゃ説得力ねえだろうけど、よろしくな!」
……マスケラの前に進み出ただけでも、平凡な学生としては大したもので、さらに名乗りまであげたのだ。それ以上を求めるのは、酷か。
マスケラに向かって一つ頷くと、彼女は両肩を軽く竦め、教室から出ていった。
「あー、みんな。悪いけど俺は席を外す。時間には戻ってくるから、大丈夫だよな?」




