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フェイカー  作者: 那上畑 潤
If you can not stand, I……
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接触4

「勝康様。『本物』の酒井玲於奈は、1週間ほど前に姿を消したのではないですか」

「……小間使い。貴様が、何故それを知っている」

「『人形』を介してですが、本人と接触しました。その時の『人形』がアンタの妹さんだよ、仰木縁」


 首だけを後ろに向けて仰木縁を見ようとする前に、


「小間使い。奴が今、どこにいるのか知っているか」


 感情を意図的に削ぎ落としたような、やけに平坦な声。

 怒気が乗っている訳ではないし、先程の名状しがたい気配も感じない。

 が、松平勝康は恐らく、『殺意』を発した。


「残念ながら。オレも、『影武者』役の酒井玲於奈の関係で、『本物』の行方を探れないかと動いていましたが……奴のACTを考えれば、もうこの時間軸にいないかもしれません」

「そう考えた根拠を、手短にまとめろ」

「奴自身が言っていました。自分の本体がこの時間軸に存在したことはない、と。何より、あれだけ用心深い人間が相手に反撃の機会を与えない手段を、違う時間軸へ退避するという方法を持っているのに、それを使わないとは思えません」


 無論、それだけではない。奴が時間軸を観察出来る能力が無ければ、秦啓一を、オレの肉体に宿らせるお膳立てなど、出来ようはずがない。


 そこを細かく言う訳にはいかないから、オレが『秦啓一』として高校へ潜入しようとした際に、大墨が人格及び記憶の改変をした上で潜り込ませようとした時に不具合が生じ、オレは記憶を取り戻せなかった、と嘘にならないよう、真実の一部を話した。


 ……こういう手合いは、ウソに敏感だからな。


「……なるほど。確証とまでは言えぬが、筋は通っているな。して、貴様の人格を一時的に改変した、大墨とやらの行方は」

「そちらもわかりません」


 首を横に振り、事実のみを言う。


「公康様にお取次ぎを願い出たのは、松平の力を用いて、酒井玲於奈の痕跡を辿って欲しいことと、奴の『人形』、あるいは協力者がこの時間軸にいた場合、もしくは再出現した時の拘束です。

 オレから報酬なんて出せませんが、もし酒井玲於奈に関する情報を集めることが出来れば、『時間旅行』に関する『奇跡』を、手に入れられる可能性があります」


「……女狐め。時間軸の『観察』しか出来ないと、己を騙すだけでは飽き足らず、父上にすら虚偽を申し立てていたか」


 …………


「小間使い、貴様の申し出はわかった。己一人で決められる事柄ではないが、己の私兵に関しては、奴の痕跡を探らせよう」


 そこまで言うと、松平勝康はオレに正対したまま、目だけを仰木縁に向けたが、反応が無いと見るや、すぐさまその視線はオレに戻された。


「して、小間使い。貴様、松平への潜入は極秘ではなかったのか。正体をオレに晒して、無事でいられるとは思えんが」


「そうですね。勝康様とのパイプを作れた功績を考慮しても、このことが明るみに出れば、何らかの処罰は避けられないでしょう」


「なぜ、正体を明かした」


「一つ。正体を隠したままでの支援に限界があると感じたため」


「たわけ。貴様の独力での限界だろうが。『特高』に人材を送らせる、情報の支援を求める、羽柴や織田に第三者を巻き込んだ絡め手を用いる……そら、己が今思いついただけでもこれだけの」


「二つ。松平のみではなく、『特高』からも情報が洩れている可能性があるため」


 台詞を遮るように述べた言葉に、口角を吊り上げていた松平勝康の笑みはすぐに消えた。


「三つ。現状を放置すると松平だけでなく、その不利益が日本全体に波及する恐れがあるため」


 現状を放置すれば、仰木縁が起点となることで、白鷺凛が事実にたどり着く可能性がある。


 しかし、正体を隠したままでは仰木縁に協力を求めるのはどう考えても不可能。


 だから、松平を隠れ蓑にして正体を明かした。


 白鷺凛がアカシックレコードに接続された時、『秦啓一』が言っていた世界の破滅に繋がるかどうかはわからんが……全能と言っても差し支えない白鷺凛を巡り、三氏族が争うのは火を見るより明らか。


 海外の国々は熟れた果実が熟し、樹から落ちるのをただ黙って見ているだけで良い。


 それは断じて認められない―と言うのは、『特高』に所属する人間としての建前。


 オレは、『秦啓一』が何故変われたのかを、知りたい。


 が、奴はこの世界から消失した。なら、奴が守ったものを守り、観察することで、手掛かりを得るのが最良ではないか。


「以上を勘案した結果……オレが処罰を受けるリスク云々を考えていられる事態を、すでに通り越している可能性があると判断しました」


 そう考えたからこそ『秦啓一』として振舞っていたが―現状では、もう、全てを隠すことは不可能。


 なら、何を捨て、何を守り切るのかを考えなければいけない。


『秦啓一』は自身を切り捨てることで、周りの人間を守ろうとした。


 これはその真似事でもあるが……活路がこれ以外に、オレには見出せなかった。


 オレが『特高』からの二重スパイだと、松平と仰木縁に晒すことで二者に協力を求め―秦啓一が守り切った者達に、加藤由利以外の者達に―真実を、フェイクで塗り潰す。


 松平勝康はため息をつき、夜空を見上げた。


「こういう立場にいるとな、嫌でも人の虚実には聡くなる。

 小間使い。今、貴様は可能な限り真実を表に出すことで、自分が曝け出せない事柄は隠そうとしたな」


 ……どうする? あくまで隠すか?


 それとも、真実を告げるか?

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