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フェイカー  作者: 那上畑 潤
If you can not stand, I……
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接触2

「仰木さん、話がややこしくなるんで、少しばかり黙っていてくれると助かります。オレが貴女の気配を感知しても、そのままこの場に誘導したのには、理由があるんですから」

「小間使い、面白いことを言う。敵意を振りまくこの亜種の端女を納得させるだけの理由であることはもちろん、この己を失望させない動機が、確固としてあるんだな」


 オレの発言に仰木縁は額にシワを刻み、松平勝康は険しい形相の彼女とオレを見比べ、面白そうな面持ちで腕を組んでいる。


「そもそも貴女の妹さんである加奈さんに、松平は一切関知していませんよ」

「ウソを言わないで! 現に加奈は」


 オレは右手で顔を覆ってため息をつき―ここに来る前までに入力を終えていた『絶対領域』を起動。オレの周囲を淡い光の膜が覆った刹那、オレは仰木縁に向かって地を這うように疾駆。彼女の3メートル手前で右手から回り込む。


 仰木縁の背後3メートルに陣取った所で、そこから接近できなければ、意味はほとんどない。


 が、激昂したことで注意力が散漫になっている彼女であれば、『絶対領域』の中に取り込んだままでも、十分に背後へ―このように、潜り込める。


「こうやって背後を取られるほど激怒して、妹さんの仇、本当に取れるんですか? もう少し冷静になった方が良いですよ」

「……っ……」


 背後を取った仰木縁の禍々しい視線を受け流したオレは、彼女の前に進み出てからその場にどっかりと胡坐をかいた。


「……何のつもり」

「オレと勝康様の言葉が信じられないと思うなら、その手でオレの首を飛ばせばいいさ。この状況なら、簡単だろ?」


 勝算があるからこそ、敢えて無防備な姿を晒しているが、万一の時には『幻影』で安全圏まで逃れる。


 逃れられるのは一撃限りだが、逃走のみに『絶対領域』と『幻影』を併用して用いれば、オレが逃げ切れない相手はそういない。


『秦啓一』が酒井玲於奈の話を、本名不詳のマスケラが激怒していたがために、聞こうとしなかった際にやった手法だが、こちらが相手に命運を預けるような形にすると、大抵の人間はどれだけ激怒していても落ち着きを取り戻さざるを得ない。


 情報工作員が相手であれば愚の骨頂と言わざるを得ない手法だが、ある程度の良識を期待できる相手ならば効果的なのは、


「……良いでしょう。ただし、少しでもその話に虚飾があったら、その首、貰うわよ」


 心の芯まで凍てついたかのような声。


 ……少々効果が有り過ぎたかもしれんが、先程よりはマシか。話を聞いてくれる態勢ではあるのだからな。


 ぽん、ぽん、とやや間の抜けた柏手が聞こえてきた。


「中々面白いACTだったぞ、小間使い。己を蚊帳の外に置いていた無礼は、そのACTに免じて許してやろう」

「失礼しました。座して話す無礼も重ねてお許し頂ければ」

「善い、許す。そこのうるさい亜種の端女を黙らせるに必要ならば、その程度の無礼は許そう」


 オレは座したまま礼をしてから、顔を上げた。

「まず、前提の確認から行います。オレ、柳雄平は松平公康様のご指示で東京国立第二ACT高校に秦啓一として潜入。秦啓一として潜入した理由は、2学期からの転入生であるため、擬態が他の生徒より容易である点、また織田派での有望株である白鷺凛の書類上の恋人に当たるため、織田派の情報収集にも役立つと考えられたためです」


 松平勝康が一つ頷いたのを見て―鬼が出るか、蛇が出るか。


「ですがオレは、柳雄平ではありません」

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